「おつらい目にあっていらっしゃるのですね」
男は言った。
え、と妹は男の顔を見つめた。
男はまじめな顔で言った。
「ご自分を殺しておしまいになっては、もう、お友だちともご連絡がとれず、お淋しいことでしょう」
「友だちなんか、初めからいないのよ」
妹は笑った。
「それに、今でも伯母や従弟が訪ねてくるのよ。ここのみんなもやさしくて、ちっとも淋しくないわ。私、幸せよ」
男はなおも妹の顔を見つめた。
「お顔つきがすっかり変わっていらっしゃいます。苦労なしに、このようにお顔つきが変わるものではありませんよ」
「なあに? 私がとってもつらかったのよと泣けばご満足?」
妹はにっこり笑った。
「わかったようなことを言う人は嫌いよ。さあ、すわって。飲み直しましょう。旅の話でも聞かせて」
グラスを並べ、妹は当然のように男のあぐらの上にすわった。
背を預けると、大きな胸に包まれた。昔と同じように温かだった。
男は旅の話を始めた。昔のように歌うような調子だった。
心地よさにうとうとした。
「風邪を召されますよ」
声をかけられて、ベッドに入ったところまでは覚えている。
朝、目が醒めると、温かな息を頬に感じた。見れば、そばに男の顔があった。
「あのときは何もしなかったのに」
妹が言うと、男は困ったように笑った。
「まだ子どもでいらしたから」
「今ならいいの?」
男は困ったような顔をして妹を抱き寄せた。
こんなに心地いいものだったのか、と妹は身を任せながら思った。従弟の時はただつらい時間だった。
「うまいのね。もう何十人と寝たんでしょう」
妹が口に出すと、男は苦笑した。