パーヴの王弟はひと息ついた。
「わかった、オレが預かろう」
「あなたが?」
こんな気持ちのいい、やさしい人が父なら、どんなにいいだろう。
「あなたと許婚の方のお子さまとして育ててくださるの?」
王弟は苦笑した。
「それは目立ちすぎる。手の者に頼んで、人知れず育てさせる。あなたは、私に預けたことを明言してはならない。しかし、それとなく匂わせなさい。隣国の王弟となれば、伯母上も無視できないだろうし、信憑性を持たせるよう、私も工作できる」
「やさしい方に預けると約束していただけます? 実の子同様に愛してくださる方にと」
「手の中でも、特に気だてのいい者を選ぶよ」
それならいいわ、と妹はうなずいた。
「ありがたいわ。でも、どうしてこんなに親切にしてくださるの?」
「では、あなたは、なぜオレに手紙を送りつけたんだ?」
「それは……。私には頼れる人が誰もいないし……あなたは信頼できそうだと思ったから……」
王弟はにこりと笑った。
「では、その信頼にこたえるまで」
なんてすてきな人だろう、と妹は思った。
「私をおそばにおいていただけないかしら」
妹は思わず口走った。
「何番めかの女性でも……いちばん下でもかまわないわ。おそばに侍る女性に」
王弟はぎくりと身を引いた。
妹は悲しくなった。
「私のような不器量で下品な女は、お嫌いよね」
そうではなくて、と王弟は頭を掻いた。
女性が苦手なのだと言う。
「でも、許婚がいらっしゃるのでしょう?」
「あいつだけは別だ!」
胸を張った。目が生き生きした。
「あいつは、決してシナや媚びとは縁がないし、男顔負けの器量と度胸があって、そのクセしっとりとした色気があって……」
とろんとした表情を、あわてて引き締めた。
「いや、あいつのことは、今は……」
「お名前はなんておっしゃるの?」
王弟はそれから妹に、出産後は尼になったほうがよいと忠告した。
堕胎を阻止してくれた点から察するに、この尼僧院は気骨がある。ここで身を守ってもらうといい。
妹はその通りにした。