【第158回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
24章 北方の姫君(三) ……その3

2009.4.22

 

 パーヴの王弟はひと息ついた。

「わかった、オレが預かろう」

「あなたが?」

 こんな気持ちのいい、やさしい人が父なら、どんなにいいだろう。

「あなたと許婚の方のお子さまとして育ててくださるの?」

 王弟は苦笑した。

「それは目立ちすぎる。手の者に頼んで、人知れず育てさせる。あなたは、私に預けたことを明言してはならない。しかし、それとなく匂わせなさい。隣国の王弟となれば、伯母上も無視できないだろうし、信憑性を持たせるよう、私も工作できる」

「やさしい方に預けると約束していただけます? 実の子同様に愛してくださる方にと」

「手の中でも、特に気だてのいい者を選ぶよ」

 それならいいわ、と妹はうなずいた。

「ありがたいわ。でも、どうしてこんなに親切にしてくださるの?」

「では、あなたは、なぜオレに手紙を送りつけたんだ?」

「それは……。私には頼れる人が誰もいないし……あなたは信頼できそうだと思ったから……」

 王弟はにこりと笑った。

「では、その信頼にこたえるまで」

 なんてすてきな人だろう、と妹は思った。

「私をおそばにおいていただけないかしら」

 妹は思わず口走った。

「何番めかの女性でも……いちばん下でもかまわないわ。おそばに侍る女性に」

 王弟はぎくりと身を引いた。

 妹は悲しくなった。

「私のような不器量で下品な女は、お嫌いよね」

 そうではなくて、と王弟は頭を掻いた。

 女性が苦手なのだと言う。

「でも、許婚がいらっしゃるのでしょう?」

「あいつだけは別だ!」

 胸を張った。目が生き生きした。

「あいつは、決してシナや媚びとは縁がないし、男顔負けの器量と度胸があって、そのクセしっとりとした色気があって……」

 とろんとした表情を、あわてて引き締めた。

「いや、あいつのことは、今は……」

「お名前はなんておっしゃるの?」

 王弟はそれから妹に、出産後は尼になったほうがよいと忠告した。

 堕胎を阻止してくれた点から察するに、この尼僧院は気骨がある。ここで身を守ってもらうといい。

 妹はその通りにした。

 

 

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