【第156回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
24章 北方の姫君(三) ……その1

2009.4.8

 

 従弟たちが発つと、妹の不具合の原因が告げられた。

「おめでたですよ」

 尼の医師が固い表情で言った。

「とても危険な状態ですから、安静に」

 これで、完全に助かった! と妹は思った。子までなせば、もう誰もふたりを引き裂くことはできないと思った。

 半年ほどして、伯父が来た。

 従弟を遠い南の国に送ってきたのだという。

 妊娠を知ると、堕ろせと言った。

 尼の医師がきっぱりとはねのけた。医師だけではなかった。院長をはじめ、尼たちは総出で伯父を追いだした。

 伯父は産後落ち着いたころに迎えにくると言って帰っていった。

 産み月が近づいたころ、尼たちの悪気のない噂話を聞いた。寝たきりの妹が退屈だろうと思って、尼たちはよく噂話を聞かせてくれた。

「都では、火事があったそうよ。ただの火事じゃないのよ。王さまのお姉さまのお屋敷が焼けたんですって。王女さまが逃げ遅れて亡くなったそうよ」

 自分は死んだことになったのか、と妹は安堵した。

 死者までは探すまい。伯母は賢いと思った。

 だが、次の話を聞いて凍りついた。

「王さまはお怒りになったけれど、その火事ではお姉さまのお子さまやご学友がたくさん亡くなって、もう、誰が誰だかわからないほどひどい有りさまだったのですって。原因は王女さまの火の不始末らしいから、王さまもお怒りをお納めになったんですって」

 伯母は学友まで死なせたのか?

 噂だもの、本当のこととは限らない。

 しかし、不吉な予感がした。

 妹は手紙を一通したためた。

「遠いけれど、これを必ず届けて」

 髪飾りやドレスの飾りを売って送り賃を作り、早馬に託した。

 

 

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