【第154回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
23章 忠誠 ……その16

2009.3.25

 

 デュール・ヒルブルークは、姫君たちの部屋の扉を叩いた。

 答えはない。

 手元の細い灯りが揺れ、暗い廊下は静まり返っていた。

 汗ばんだ手を扉に当て、ゆっくりと開いた。

「殿下……」

「動くな」

 低い声がすぐ後ろから響いた。

 顎の下には棒が押し当てられた。

 怪しまれたのだと、デュール・ヒルブルークは悟った。こんな夜更けにやってきては、そう思われても。

「お逃げください、狼藉者が来ます。殿下ばかりか、お二方も危のうございます。すぐにヒプノイズたちが……」

 棒は下げられ、今度は腕を引かれた。

「逃げるぞ」

 リュウカに引かれて、窓から外に飛びだした。

「すまぬ。誰が敵かわからぬもので」

 リュウカの言葉に、デュール・ヒルブルークはムッとした。

「私はいつでも殿下に忠誠を……」

「それを疑ったのではない。エドアルも同じだ」

 廊下に漏れた会話からも、エドアルに他意がなかったことは、デュール・ヒルブルークにもわかっている。だが、結果的には裏切った。

「エドアルの居場所を知らないか?」

 庭を走りながら、リュウカが訊いた。

「つい先ほどは、タラン・ヒプノイズの部屋に……」

 少し走ったところに、馬が数頭待っており、すでに何人か騎乗していた。

「先に行け」

 リュウカはデュール・ヒルブルークの背を押し、自らは戻りかけた。

「殿下、どちらへ?」

「エドアルを迎えに。そなたは、リズたちの護衛を頼む」

「あんな裏切り者……」

「命令だ。私が戻るまで、リズたちを頼む」

 リュウカは有無を言わせず、館へ戻った。

 デュール・ヒルブルークが馬のほうへ近づき、月明かりを頼りに見ると、一団はマントを羽織ったリズとリリー、早馬の使いのヨアラシ、それに護衛が数人だった。

「お急ぎください、お早く」

 リリーが急かした。

 

 

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