デュール・ヒルブルークは、姫君たちの部屋の扉を叩いた。
答えはない。
手元の細い灯りが揺れ、暗い廊下は静まり返っていた。
汗ばんだ手を扉に当て、ゆっくりと開いた。
「殿下……」
「動くな」
低い声がすぐ後ろから響いた。
顎の下には棒が押し当てられた。
怪しまれたのだと、デュール・ヒルブルークは悟った。こんな夜更けにやってきては、そう思われても。
「お逃げください、狼藉者が来ます。殿下ばかりか、お二方も危のうございます。すぐにヒプノイズたちが……」
棒は下げられ、今度は腕を引かれた。
「逃げるぞ」
リュウカに引かれて、窓から外に飛びだした。
「すまぬ。誰が敵かわからぬもので」
リュウカの言葉に、デュール・ヒルブルークはムッとした。
「私はいつでも殿下に忠誠を……」
「それを疑ったのではない。エドアルも同じだ」
廊下に漏れた会話からも、エドアルに他意がなかったことは、デュール・ヒルブルークにもわかっている。だが、結果的には裏切った。
「エドアルの居場所を知らないか?」
庭を走りながら、リュウカが訊いた。
「つい先ほどは、タラン・ヒプノイズの部屋に……」
少し走ったところに、馬が数頭待っており、すでに何人か騎乗していた。
「先に行け」
リュウカはデュール・ヒルブルークの背を押し、自らは戻りかけた。
「殿下、どちらへ?」
「エドアルを迎えに。そなたは、リズたちの護衛を頼む」
「あんな裏切り者……」
「命令だ。私が戻るまで、リズたちを頼む」
リュウカは有無を言わせず、館へ戻った。
デュール・ヒルブルークが馬のほうへ近づき、月明かりを頼りに見ると、一団はマントを羽織ったリズとリリー、早馬の使いのヨアラシ、それに護衛が数人だった。
「お急ぎください、お早く」
リリーが急かした。