【第150回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
23章 忠誠 ……その12

2009.2.25

 

 エドアルはタランの部屋を出た。

 室内の明るさとうってかわって廊下は暗く、エドアルは目をこらして辺りを見渡した。背の高いシルエットを見つけてホッとした。デュール・ヒルブルークである。

「姉上のお部屋までついてこい」

 デュール・ヒルブルークは廊下の灯りをランプに移し、掲げて歩きだした。

 城と違って、この屋敷の廊下は暗い。

 エドアルはデュール・ヒルブルークの横につき、一歩だけ前を歩いた。

 デュール・ヒルブルークの姿を見て歩くのはイヤだった。

 背が高く、肩幅は広く、同い年だというのに、違いを見せつけられるようで苛々した。

 リュウカたちの部屋は、城と違い、たった二室しかなかった。

 奥に寝室、前に居室。衣装部屋もなければ侍女の控え部屋もない。

 衣類や荷物は居室に積みあげられ、ついたてで目隠しされていたものの、残りは狭苦しく、丸テーブルと椅子を三つ並べるのがやっとだった。

 リズはその椅子のひとつにすわり、リリーがその髪をゆるく編んでいた。

「姉上、おやすみになる前に一杯いかがです」

 エドアルが呼びかけると、リリーが答えた。

「ちい姫さまはお取り込み中です」

「今、飲みたいんだ。待っていたらぬるくなってしまう」

 エドアルはワインの瓶をテーブルの上に置いた。

「リズは吸いつくように瓶を見たが、ワインとわかると興味を失った。

「そんなもの、お友だちと一緒に飲んだら?」

 エドアルはムッとした。

「上物なんだ。姉上に召しあがっていただかなくては」

「いっつも姉上姉上ね! 私が飲めないのを知ってて、嫌がらせ?」

 エドアルはカッとなった。

「ひがむのはヤメろ! 私は好意で持ってきたんだぞ!」

「ほら、またいい人ぶる! 天然の嫌がらせは、年季が入ってますこと!」

「おまえなんかに持ってきてない! 姉上はどこだ! 姉上に直にお話する!」

「飲みませんよ、そんな得体の知れないもの」

 リリーが言った。

 エドアルは目をむいた。

 リリーは動じない。

「お気楽な王子殿下はご存じないでしょうけど、ちい姫さまにお出しするワインは、いつも私が酒蔵に行って、目の前で樽から出させて、その場で責任者に毒味をさせてから供しているんですよ。そんな得体の知れないシロモノなんか……」

「得体が知れなくなんかない! これはヒプノイズがくれたんだ。せっかくの好意をむげにする気か?」

 リリーはため息をついた。

「わかりました。ちい姫さまがいらしたらお話しておきましょう。では、それを置いてお帰りください」

「いや。姉上がいらっしゃるまでお待ちする」

 姉上が帰ってきたら、きっとありがとうとお礼を言ってくださる。

 微笑みを向けられるさまを夢想した。

 だが、リリーは腰に手をやり、ぶち壊した。

「こんな夜更けに若いレディたちの部屋に押しかけて、これが紳士のやることですかね!」

 リズが助け船を出した。

「別におかしくないわ。アルは私の許婚なんだし。それにデュールだってしょっちゅうお姉さまのところに忍んでたじゃないの」

 リリーは皮肉っぽく笑った。

「男ってのは、みんなそういうものなんですかね。あのマヌケ面もよく忍びこんで、お姫さまに思いっきり背中を踏みつけられてましたっけ」

「私は違うぞ! 失礼する!」

 エドアルは急いで退室した。

 デュール・グレイやリュウイン王アプスと同列に扱われるなんて!

 

 

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