「姉上は甘いんです」
エドアルが言った。
「聞きたいことがあれば、命じればいいんです。王女の命令に従わない者はいないでしょう」
「人の心は、簡単に動かせるものではないよ」
「姉上は生ぬるいんです。命じ方次第で、どうとでもなります。姉上はただ、有能な部下に一言お命じになればいいんです。そうすれば、部下が聞き出してきます」
「どうやって? 暴力に訴えて?」
淡々とした言い方だったが、ヨアラシには、自分のケースをさしているのがわかった。
この姫の行く先を知るために、ヒプノイズとエドアルは自分を拷問したのだ。
エドアルが返答に詰まる。
「有能な部下というけれど、信頼できるのかどうかも見分けがつかない。私など、その程度の人間なのだよ」
リュウカの言葉に、エドアルはヴァンストンや、パーヴに残った学友たちのことを思いだした。
次々に裏切った者たち。
「しかし、ヒプノイズたちは違います。国について、本気で憂いています。姉上も、ヒプノイズたちを信頼してください」
エドアルは必死に言った。
「ヒプノイズとよく話し合えば、きっとおわかりいただけます。時間をください」
「もう、時間はないよ」
「どういうことです?」
「後で話す」
ヨアラシには聞かせたくない事柄だった。動向が人の口から漏れるのは、できるだけ避けなければならない。
「そう言えば、そなた、よくここがわかったな」
リュウカはヨアラシに話しかけた。
「デュールという名だけで、よくここを探しあてられたものだ」
「商売柄、そういう情報は早いんだ」
早馬同士、出会えば互いに情報を交換するし、大きな街にはたまり場もある。人の口に戸は立てられない。変わったことがあれば、何かしら噂になる。噂を集めれば、見えてくるものもある。
ねずみのデュールの歌は聞いていた。だからピンときた。
それだけだ。
「明日、使いを頼みたいのだが」
「へえ。それが、ケガが完治していないから外に出るなと言っていた人の頼むことかねえ」
ヨアラシは嫌みを言った。
リュウカはうなずいた。
明日、リュウカたちが発てば、ヒプノイズはヨアラシをこのままにしてはおかないだろう。その前に館から出さねばならない。
それに、リュウカたちの動向を知られたくなかった。行き先はもちろんのこと、ヒプノイズを出たことすら、少しでも知られるのを遅らせたかった。
パーヴの使いが、どこで噂を聞きつけるか知れない。
夕食を済ませて、ヨアラシは退がった。