帰り着くと、宰相からの使者が到着していた。
客間へ入ると、驚いたことに、そこにいたのはエドアルについて入国したヴァンストンだった。
悪びれたようすもなく、ヴァンストンは宰相からの伝言を告げた。
南方のハモンディ伯領へ即日移動するように。
「今日はもう遅い。明朝移ろう」
リュウカは答えた。
「お荷物は持たれませんよう。移動を気取られてはなりませんから。衛兵も、普段のお出かけのようになさいませ。移動の際は贅など尽くして目立たれませんよう」
エドアルが渋い顔をしそうだ、とリュウカは思った。すっかり贅沢に馴れたのに、また慎ましい旅をしろというのでは。
「そなたも同行するのか?」
「いえ。今宵はこちらに宿泊し、明朝王都へ戻ります。閣下にお言伝がございましたら、お申しつけください」
何も言いたくはない、とリュウカは思った。
だが、宰相なしでは何もできない。
たとえ、どんなに認めたくなくとも、この窮地を乗り切るには宰相の協力が必要だし、この国を維持しているのは宰相なのだ。
「礼を言っていたと。これからもよろしく頼むと伝えておくれ。そなたもご苦労だった。急ぎの旅で疲れたろう。今夜はゆるりと休むがよい」
リュウカはドアを開き、呼び鈴を鳴らした。
侍者が小走りしてやってくる。
「使者どのに、部屋を用意してくれるか。一晩、お泊まりになる。エドアル王子やリズ姫と鉢合わせしないように取りはからってほしい」
ヴァンストンは考えこんでいた。
皮肉のひとつでも投げかけるかと思いきや、ねぎらい、細やかな気遣いを見せる。高位であるにも関わらず。
さては……。
ヴァンストンは一人合点した。
そういうことか。
それなら、ウィックロウの離宮でのこともうなずける。なぜ、解毒にあれほど必死になり、添い寝し、自分を抱きしめたのか。何より、今夜、ここに引き留めたのが、動かぬ証拠。
王女は、この色男に惚れたのだ。
ヴァンストンが目をあげると、リュウカの姿はなく、侍者が待っていた。
今夜が楽しみだ。
ヴァンストンは足取りも軽く歩き始めた。