翌朝、ウルサからの客人はヒプノイズを発った。
「城からの迎えなら、途中で会えるでしょう」
エヴァ=リータは道案内の衛兵だけを必要とした。
自称パーヴの王妃は、連れていかれることになった。
「ここに残しても、あなたの手にあまるでしょ」
エヴァ=リータの言う通りだった。
パーヴとの火種になるばかりで、利点はなかった。
「婿の件は、くれぐれもお願い申しあげます」
「私はただの外交官で、権限はないのよ。伝えるだけは伝えるけど。あとは上の判断だから、悪く思わないでね」
それから、エヴァ=リータはリュウカの耳元に唇を寄せた。
「首尾よくいったら、あの子を愛人にするのね。命も惜しまず働いてくれるわよ」
リュウカは答えなかった。
そんなことは、わかっている。だからこそ、遠ざけたのだ。
エヴァ=リータは間近からリュウカの顔を見つめた。
「もし要らないなら、私がもらっちゃうわよ」
「ご随意に」
自分と一緒にいるより、ずっといい。
陽気に歌いながら、各地を旅する。あの子にあった暮らしではないか。
「即答?」
エヴァ=リータは笑った。
「あの子はまだ十六だけれど、きっといい男になるわ。後から返してと言っても遅いわよ?」
本当の年を数えていたのか、とリュウカは少し驚いた。公称では一つ上で、エドアルたちすらダマされていたではないか。
この人には本当のことを話していたのだろうか?
それなら、安心だ。
「もし、あの子に会うことがあったなら、よろしく頼みます」
足を引き、頭を下げた。
宮廷式の正式な礼だった。