ウルサの客はやかましかった。
壁には異国風の布を吊し、床には厚い絨毯を敷き、妙な匂いの香を焚き、広間をすっかり一変させた。そこで、楽器をかき鳴らし、歌い、踊るのである。
リズはリリーにくっついていた。リュウカがまだ怖かった。
途中でそのようすを見かけたはずのリリーは、動じていなかった。
「お姫さまそっくりです」
と、うれしそうでさえあった。
前の王妃さまは、そんなに怖い人じゃないわ、とリズは内心思った。
お父さまやおじいさまに意地悪されて悲しい思いをした人よ。だから、やさしかったにちがいないわ。
リズが母や姉に苛められ、祖父や父に邪険にされるたび、肖像画の前の王妃は―今や王妃ではなく、その母だと判明したが―リズをやさしく慰め、抱きしめてくれた。
私もつらかったけど、頑張ったのよ。あなたも頑張って。
そんなけなげな姿が好きだった。
エヴァ=リータは事態をおもしろがっていた。
「うちから婿を出したら、同じ目に合うのかしら? 国際問題よ」
リュウカは、どこで間違ってしまったのだろうと悩んでいた。
早馬が来て、デュール・ヒルブルークを呼んだ。呼ばれていたのはデュール・ヒルブルークなのだから、連れていかないわけにはいかなかったし、行かなければクス・イリム一家を見捨てることになった。
巻きこみたくなかったから、デュール・ヒルブルークを先に帰した。イリム一家を守るために、居場所を口外しないよう命じた。
その結果が、これだ。
自分はいったいどうすればよかったのだろう?
エドアルやヒプノイズたちの増長を黙認していたのが悪いのか。
自分が甘かったのだろうか。
「ウルサから来る王子さまはお小さいのでしょう?」
リリーがエヴァ=リータに話しかけた。
「躾はちゃんとなさってるんでしょうね」
「さあ、どうかしら? 誰を送るかも決めていないし、そもそも国の方針はどうなんだか。私はただの外交官だから」
そう言って、エヴァ=リータはリリーの名を訊ねた。
「まあ! じゃあ、あの子を育ててくれた人! モーヴさまの奥方ね! 会いたかったわ!」
リリーの名を知ると、エヴァ=リータはリリーに抱きついた。
リリーはドギマギして、あわてて身を離した。
「殿下をご存じなの?」
「ええ、婚礼のとき、いらしたわ。とてもすてきで注目の的だったのよ」
「あなたの結婚式?」
リリーは面くらっていた。
モーヴはいつウルサに行ったのだろうか?
「王の婚礼よ。当時は王太子だったけど。パーヴ王の代理として。もう二十年も前の話よ」
レイカとともに自分も向かっていたことを思いだして、リリーは顔をこわばらせた。
「どんな人と結婚したんだろうって、ずっと思ってたわ。うれしいわ、会えて」
「殿下をお慕いされていたとか?」
何を訊いているのだろう、自分は。と、リリーは思った。
エヴァ=リータは華やかに笑った。
「まさか! 私は尼よ? モーヴさまのハートを射止めて、あの子を育てたのがどんな人なのか、会ってみたかっただけよ」
「デュールのこと?」
「あの子に会えなくて残念だわ! パーヴに来るたび、あの子に会うのが楽しみだったの。あの子、今、どこに行ってるの?」
もしかして、あの子の母親?
エヴァ=リータは二十代……多く見積もっても三十代半ばまでいっていないだろう。若すぎる。
でも、あの子を殿下に預けたことに、この人は関わっているんだろうか?
リリーには訊けなかった。
もし、本当の母親がわかったとして、どうする?
いつかは返すのか?