リュウカは牢を出た。
リズはおそろしさに口がきけなかった。
前にも、似たことがあった。
ロックルールの城のイチゴワイン蔵だ。狂ったように樽をひっくり返していた。
でも、あのときはデュールが止めてくれたわ。
今は、いない。
お姉さまを戻してくれる人がいない。
早馬の使いがうめいた。
リュウカは男をいったん下ろし、自分の上着を脱いで着せかけた。
「すまぬ。今、外に出て、温かくする。少しのしんぼうだ」
やさしい声音だった。
いつものお姉さまだ! とリズは思った。
そのとき、地獄の底から恐ろしい声が響いた。
「殿下、殿下、私はここにおります! ここです!」
灯りをかざして別の牢に近寄ってみると、デュール・ヒルブルークだった。
石牢に閉じこめられているらしい。
カギを開けると、自分で出てきた。
「殿下と別れてから、夜のうちに館に着いたのですが、朝になってエドアル殿下に厳しく問い詰められました。しかし、秘密は守りました! 半日もの間、私が口を割らないので、業を煮やしてこんなところに入れられてしまいましたが、闇も冷えも、殿下のためなら私は平気です。もうあれから何日経ちましたか?」
まだ半日である。
リズは思わず笑ったが、自分の身におきかえて、思わず身震いした。
こんなとこに、一人でなんて、一瞬だっていたくない!
デュール・ヒルブルークは、早馬の使いを代わりに担ごうと申しでたが、自分ひとり歩くだけでもよろめいた。
凍えて力が出ないのだった。
リュウカはそのまま早馬の使いを担いで外に出た。
外はまぶしく、芯まで温めるようだった。
リズは生き返ったような気がした。
リュウカは立ち止まらなかった。
そのまま館に入り、奥へと足早に向かう。
着いた場所はエドアルの寝室だった。
エドアルは女たちの体や腕に支えられて身を起こし、かゆを匙で食べさせてもらっているところだった。
これが気に入らないのよ! とリズは思った。
この館に来てから、エドアルはヒプノイズに染まっていく。ウィックロウやロックルールにいたころは、こんなじゃなかったのに!
リュウカはエドアルの腕をつかみ、ベッドから引きずりおろした。
代わりにベッドに寝かせたのは早馬の使いだった。
こちらを看病するように、と言い捨て、エドアルを引きずった。
「姉上! 姉上、どこに? 私は病人ですよ」
「あちらが病人だ」
「誰ですか、あれは」
「そなたが牢に落とした者だ」
「ヒルブルークなんかが、どうして私の寝室に……」
デュール・ヒルブルークを牢にこめたのも、エドアルだったのだと、リュウカは確信した。
「あれは、もう一人のほうだ。なぜ、落とした?」
「姉上の行き先を黙っていました! 喋らせるためです。最後まで喋らずじまいで、あの役立たず」
「二日も水につけて、どうなると思っているのだ」
「どうってことありませんよ。たかが膝まで浸ってるだけじゃありませんか」
リュウカの中で、何かが燃えたぎった。
塔の地下まで、エドアルを引きずっていった。