リュウカはエドアルを探した。
不吉な予感がした。
エドアルは寝室で伏せっていた。
「姉上」
泣き疲れた顔でエドアルは見あげ、侍女たちが周囲でかいがいしく世話をやいていた。
「早馬の使いはどうした」
「私はもう生きていけません」
エドアルは涙ながらに言った。
「一昨日きた早馬だ。塔に連れていったのだろう?」
「そんなこと、どうでもいいではありませんか。姉上がうらやましい。誰がなんと言おうと、王の娘だ。しかし、私は……」
リュウカは焦れた。襟口をつかんで持ちあげ、睨みつけた。
「どこへやった」
エドアルは怯えてノドを鳴らした。
「塔の地下に。姉上の行く先を教えないから」
リュウカは手を離し、エドアルはベッドの上に落ちた。
「ヒプノイズ!」
怒鳴った。
「ヒプノイズ! どこだ!」
吼えるような声に、タラン・ヒプノイズ子爵が怯えたように出てきた。
「地下牢に案内しろ! 今すぐだ!」
部屋着を着替えるヒマなどやらなかった。
「カギはどこだ? モタモタするな! 一フィラント遅れるごとに、そなたの指を刎ねてやる!」
ヒプノイズは執事を従え、飛ぶように地下牢に駆けこんだ。
暗闇に、灯りをともす。冷たく湿った風に炎が揺らぐ。
辺りが薄闇であることに、リズは感謝した。
そこら中に拷問の道具が転がっていたからだ。
もうひとつ感謝したのは、リュウカたちのすばやさだった。ついていくのに精一杯で、それらをよく見ることができなかったからだ。
奥に水牢があった。
牢のカギを開け、リュウカは中に入った。
すぐに底は深い溝になり、そこへ向けて縄ばしごを下ろし、迷わず降りていった。
灯りの届くところから闇へと消えていくさまは、リズにはまるで地獄へ降りていくように思われた。
そして、しばらくして、リュウカが灯りの中に戻ってきた。男を担いでのぼってきたのだ。
「たかが、膝までの水に浸かっただけです」
ヒプノイズが弁解した。
「では、そなたも今すぐ試してこい。この冷えた牢で冷たい水に膝まで浸かり、二日上がってくるな」
今にも突き落としそうな勢いだった。
「ご冗談を」
リュウカはヒプノイズに歩み寄った。
ヒプノイズは足がすくみ、腰がひけ、尻もちをついた。
「降りろ」
リュウカは上から見おろした。
「殿下?」
「はしごを降りろ」
低い、うなるような声だった。
「降りなければ落とすぞ」
ヒプノイズはあわてて縄ばしごを降りた。
リュウカは縄ばしごを引きあげた。
「で、殿下!」
「しばらく浸かってろ」