【第128回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
21章 亡命 ……その15

2008.09.24

 

 リュウカはエドアルを探した。

 不吉な予感がした。

 エドアルは寝室で伏せっていた。

「姉上」

 泣き疲れた顔でエドアルは見あげ、侍女たちが周囲でかいがいしく世話をやいていた。

「早馬の使いはどうした」

「私はもう生きていけません」

 エドアルは涙ながらに言った。

「一昨日きた早馬だ。塔に連れていったのだろう?」

「そんなこと、どうでもいいではありませんか。姉上がうらやましい。誰がなんと言おうと、王の娘だ。しかし、私は……」

 リュウカは焦れた。襟口をつかんで持ちあげ、睨みつけた。

「どこへやった」

 エドアルは怯えてノドを鳴らした。

「塔の地下に。姉上の行く先を教えないから」

 リュウカは手を離し、エドアルはベッドの上に落ちた。

「ヒプノイズ!」

 怒鳴った。

「ヒプノイズ! どこだ!」

 吼えるような声に、タラン・ヒプノイズ子爵が怯えたように出てきた。

「地下牢に案内しろ! 今すぐだ!」

 部屋着を着替えるヒマなどやらなかった。

「カギはどこだ? モタモタするな! 一フィラント遅れるごとに、そなたの指を刎ねてやる!」

 ヒプノイズは執事を従え、飛ぶように地下牢に駆けこんだ。

 暗闇に、灯りをともす。冷たく湿った風に炎が揺らぐ。

 辺りが薄闇であることに、リズは感謝した。

 そこら中に拷問の道具が転がっていたからだ。

 もうひとつ感謝したのは、リュウカたちのすばやさだった。ついていくのに精一杯で、それらをよく見ることができなかったからだ。

 奥に水牢があった。

 牢のカギを開け、リュウカは中に入った。

 すぐに底は深い溝になり、そこへ向けて縄ばしごを下ろし、迷わず降りていった。

 灯りの届くところから闇へと消えていくさまは、リズにはまるで地獄へ降りていくように思われた。

 そして、しばらくして、リュウカが灯りの中に戻ってきた。男を担いでのぼってきたのだ。

「たかが、膝までの水に浸かっただけです」

 ヒプノイズが弁解した。

「では、そなたも今すぐ試してこい。この冷えた牢で冷たい水に膝まで浸かり、二日上がってくるな」

 今にも突き落としそうな勢いだった。

「ご冗談を」

 リュウカはヒプノイズに歩み寄った。

 ヒプノイズは足がすくみ、腰がひけ、尻もちをついた。

「降りろ」

 リュウカは上から見おろした。

「殿下?」

「はしごを降りろ」

 低い、うなるような声だった。

「降りなければ落とすぞ」

 ヒプノイズはあわてて縄ばしごを降りた。

 リュウカは縄ばしごを引きあげた。

「で、殿下!」

「しばらく浸かってろ」

 

 

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