「本物の線が濃くなったわね。まだ、本物から話を伝え聞いたって可能性もあるけど」
エヴァ=リータは腕組みした。
「いったい、何が、どうしたって……」
エドアルがようやく声を発した。
「詳しいことは、後で話す」
リュウカの言葉に、エドアルの中で何かのスイッチが入った。
「ウソだ! デタラメだ! 侮辱だ! 許せん! あの女、すぐに斬り捨ててくれる!」
頭の中が熱くなり、めまいがした。
息が詰まり、あえいだ。もっと息を吸おうとするが、息苦しい。
そして、呼吸が荒くなった。
よろめき、膝と手をついた。
苦しい。
ぜいぜいと呼吸する。
「興奮しすぎるよ。ちょっと休んでなさい」
エヴァ=リータが背をさすった。
エドアルは涙が浮かんできた。
「私は死ぬのか?」
リュウカたちは本物だとか言っている。ならば、あの女の言ったことは本当なのか?
自分は王の血を継いでない?
だったら生きている意味などない!
絶望した。
「ンなわけないでしょ。ちょっと頭に血がのぼっただけよ」
「苦しい」
きっと死ぬんだ。
「バカバカしい。そんなんで死んだ人なんかいないわよ。死ぬ人ってね、手足が血の気をなくして真っ白でね、唇なんか紫色になるのよ。でも、あなたの唇なんか、こんなにピンク色じゃない」
エヴァ=リータは小指でエドアルの唇を押した。
エドアルの顔は赤く染まった。
「さて、と」
エヴァ=リータは腰に手をやった。
「次は、休ませてくれない? あたしたち、ここんとこ、まともなところで寝られなかったんだから」
ヒプノイズたちは玄関の中で待っていた。
リュウカはウルサの人々をもてなすように命じた。
館の使用人たちは異人をおそれた。背が高く、髪の色も眼の色も異なり、ウルサの言葉など聞いたこともない。
ウルサの若者の一人が、ピートリークの言葉でてきぱきと要望を伝え、交渉した。
パーヴの留学生であるから、ピートリークの言葉に明るいのは当然だった。
ウルサの人々のことは彼に任せ、リュウカは部屋で宰相宛ての手紙を書いた。
ウルサの件では、意見は一致している。組むのが最善である。今は隔たりを作っている場合ではない。
早馬を出し、それから思いだした。
一昨日来た早馬の使いはどうしただろう?
ウルサの人々でごった返す館内で訊ね回ると、意外なところから答えが返ってきた。
「それよ、お姉さま!」
リズが言った。
「アルがその人を、閉じこめてしまったの!」
どうして?
「あたしも、どうしてって訊いたのに、アルは追い返したって言い張るの。でも、あたし、見たの、離れの塔に連れていくのを! なのに、アルったら、女なんか黙れって。男に黙って従えって言い始めて。アルなんか、大嫌い!」