【第127回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
21章 亡命 ……その14

2008.09.17

 

「本物の線が濃くなったわね。まだ、本物から話を伝え聞いたって可能性もあるけど」

 エヴァ=リータは腕組みした。

「いったい、何が、どうしたって……」

 エドアルがようやく声を発した。

「詳しいことは、後で話す」

 リュウカの言葉に、エドアルの中で何かのスイッチが入った。

「ウソだ! デタラメだ! 侮辱だ! 許せん! あの女、すぐに斬り捨ててくれる!」

 頭の中が熱くなり、めまいがした。

 息が詰まり、あえいだ。もっと息を吸おうとするが、息苦しい。

 そして、呼吸が荒くなった。

 よろめき、膝と手をついた。

 苦しい。

 ぜいぜいと呼吸する。

「興奮しすぎるよ。ちょっと休んでなさい」

 エヴァ=リータが背をさすった。

 エドアルは涙が浮かんできた。

「私は死ぬのか?」

 リュウカたちは本物だとか言っている。ならば、あの女の言ったことは本当なのか?

 自分は王の血を継いでない?

 だったら生きている意味などない!

 絶望した。

「ンなわけないでしょ。ちょっと頭に血がのぼっただけよ」

「苦しい」

 きっと死ぬんだ。

「バカバカしい。そんなんで死んだ人なんかいないわよ。死ぬ人ってね、手足が血の気をなくして真っ白でね、唇なんか紫色になるのよ。でも、あなたの唇なんか、こんなにピンク色じゃない」

 エヴァ=リータは小指でエドアルの唇を押した。

 エドアルの顔は赤く染まった。

「さて、と」

 エヴァ=リータは腰に手をやった。

「次は、休ませてくれない? あたしたち、ここんとこ、まともなところで寝られなかったんだから」

 ヒプノイズたちは玄関の中で待っていた。

 リュウカはウルサの人々をもてなすように命じた。

 館の使用人たちは異人をおそれた。背が高く、髪の色も眼の色も異なり、ウルサの言葉など聞いたこともない。

 ウルサの若者の一人が、ピートリークの言葉でてきぱきと要望を伝え、交渉した。

 パーヴの留学生であるから、ピートリークの言葉に明るいのは当然だった。

 ウルサの人々のことは彼に任せ、リュウカは部屋で宰相宛ての手紙を書いた。

 ウルサの件では、意見は一致している。組むのが最善である。今は隔たりを作っている場合ではない。

 早馬を出し、それから思いだした。

 一昨日来た早馬の使いはどうしただろう?

 ウルサの人々でごった返す館内で訊ね回ると、意外なところから答えが返ってきた。

「それよ、お姉さま!」

 リズが言った。

「アルがその人を、閉じこめてしまったの!」

 どうして?

「あたしも、どうしてって訊いたのに、アルは追い返したって言い張るの。でも、あたし、見たの、離れの塔に連れていくのを! なのに、アルったら、女なんか黙れって。男に黙って従えって言い始めて。アルなんか、大嫌い!」

 

 

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