【第126回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
21章 亡命 ……その13

2008.09.10

 

 パーヴの王妃は悔しそうに顔をゆがめた。

 それから、ふと表情が緩んだ。

「あの従兄弟はおらぬか? 妾に我が母語で話しかけてきた、背の高い黄色い髪の子どもがおった。話せばきっと、妾が本物だと証明してくれるであろう」

 ヒースはいない。

「残念ね」

 エヴァ=リータがドアを閉めるよう合図した。

 パーヴの王妃はあわてて身をのりだした。

「どうすれば納得するのじゃ」

 エヴァ=リータは答えた。

「せめて、パーヴの王妃しか知らない秘密でも言ってくれればね」

 パーヴの王妃はしゃべりだした。

「前の国王陛下からうかがった話なら、たくさんあるぞ。前々の国王の血を受け継いだ者は誰もいない、受け継いだ者はみな王太后陛下が始末なさったとか。前の国王陛下も本当の子ではないとか。弟も妹も本当の子ではないから見逃されたのだとか」

 エドアルの顔がみるみる白くなった。

「これで信じてもらえたか? 王家に伝わる秘密を、妾も聞かされているのじゃ」

 パーヴの王妃はすがるようにエドアルを見つめた。

 エヴァ=リータがすばやく合図して、ドアは閉められた。

 放心状態のエドアルを、エヴァ=リータは抱えるようにして、その場を離れた。

 リズが迎えた。

 エヴァ=リータが腕で遮った。

「さて、王子さま。えらいこと聞いちゃったんだけど?」

 エドアルは口を開いたが、苦しそうに息を吸うだけで、声は出なかった。

「あの人が言うには、図書室の本棚に隠し扉があって、そこから秘密の部屋に入って、カルヴ王からよもやま話を聞いたそうよ」

「ああ、あの部屋ね」

 反応したのはリズだった。

「前の王妃さまの絵がいっぱい飾ってある部屋でしょ? アルとも、中に入ったことあったわね」

「前の王妃というと、オリガさまか? それともコロンバさまか?」

 リュウカが訊ねた。

 オリガはエドアルの母、コロンバはその前の后である。

「ちがうわよ。お姉さまのお母さま。ちょっと待って」

 急いで屋敷から画板を持ってきた。そのすきまから、手のひら二つ分ほどの大きさの絵をとりだした。

「内緒で一枚持ってきちゃったの」

 そこには、黒髪の悲しげな女が描かれていた。

「なるほどね、血のつながらない妹を愛してたってわけ」

 エヴァ=リータは言った。

 リュウカは首をふった。

「髪型も服も、もっと古い」

 なにより、母はこんな顔はしない。

 まるで、摘みとられてしおれたような頼りなげな顔。

「じゃあ、誰?」

「祖母だろう。萌黄の方」

「お姉さまのおばあさま?」

 リズが目を丸くした。

「どうして、そんなものが? だって、これ、カルヴおじさまのお部屋にあったのよ?」

「そこには、誰でも入れるのか?」

 リュウカは訊ねた。

「ううん。おじさまの図書室からしか入れないから、王族じゃないと、入るの難しいかも」

「侍女ならどうだい? どこからか盗み聞きできるとか?」

「天窓があったから、そこからなら声が聞こえるかも。でも、とても高いから、大声じゃないとムリだと思うわ。侍女は入れないと思うわ。途中で衛兵に止められちゃうもの」

 

 

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