「ウルサへ行くということは、王に嫁ぐという意味だよ」
リュウカが聡そうとすると、リズは頬をふくらませた。
「いいもん。お后さまにだって、なんだってなるわ」
また、エドアルとケンカしたのか。
「一時の感情で、軽々しく口にするものではない」
「いいじゃないの。ちょっと気晴らしにきたら? 国王が気に入れば后になればいいんだし、気に入らなくても、すてきな出会いがどこかにあるかも」
エヴァ=リータがけしかけると、リズは言った。
「行くわ!」
「落ち着きなさい」
「行くったら、行くの! 私だって、いつまでもお留守番じゃないんだから! お姉さまみたいに、あちこち行くことだって、私にもできるんだから!」
そこでようやくエドアルが現れた。
「姉上! 勝手なことをされては困ります」
ウルサの客人が来ていると聞いたのだろう。青い上着の形に金の縁取りの青いサッシュをかけている。
パーヴの礼装である。
「おまえがウルサの外交官とやらか」
威厳をもって重々しく言う。
「ご苦労だったな、ゆっくり休むがよい」
上位の者が寛容にもねぎらうといった風体だった。
「ところで姉上。おひとりで勝手に出歩かれては困ります。行き先も告げず、みなが心配するではありませんか。少しは、次期女王のご自覚を持っていただきませんと」
「そなたに見てもらいたいものがあるのだが」
リュウカは言った。
「姉上、話は終わっておりませんよ。都合が悪いからといって話題を変えるのは行儀の悪いことです。常に物事を真摯に受けとめ、深く反省しなければなりません」
「話は後で聞くよ。今はまず見てもらいたいものがあるのだ」
「姉上。話は最後まで聞くものです。ピートリークの祖、かのヒースクリフはウルサ山脈を越えたとき、仲間たちにこう言ったそうです……」
「黄泉に落ちちまえ」
エヴァ=リータが口走り、エドアルがぎょっとした。
「かっこつけてる場合じゃないわよ、落ちのびた王子さま。用があるから呼んだの。さんざん待たせたあげくに、くだらない講釈で暇とらせてるんじゃないわよ。さっさと来る!」
エヴァ=リータはエドアルの腕を引いて歩きだした。
「無礼者!」
背の低いエドアルは、ウルサの一団の中に入ると、いっそう小さくなったような気がした。
エヴァ=リータは馬車のひとつの前で止まり、ドアを開けさせた。
中に女が四人。髪の色は濃く、ウルサ人とは異なる異人。
「この中に見覚えのある人はいない?」
知らない、とエドアルは思った。
異人に知り合いなどいない。
「どういうことだ」
「妾は、婚礼の化粧を施していたのじゃ、このような姿では……」
自称パーヴの王妃がイリーンの言葉で言った。
「わかる言葉で話してくれない?」
エヴァ=リータの顔はにっこり微笑んでいたが、声は低くすごんでいた。
自称パーヴの王妃は、わざとらしくため息をつき、ピートリークの言葉で言った。
「王子とは、婚礼時に顔を合わせただけじゃ。化粧が濃かったゆえ、妾の見分けはつくまい」
「誰だ?」
エドアルはクビをかしげた。イリーンからの祝い客には何人か会った。しかし、異人の顔など見分けがつかない。
「パーヴの王妃、イリーンから来た花嫁、あなたのお義姉さんだってよ」
エヴァ=リータが言った。
エドアルは額に皺を寄せた。
「ちがう。あの人は、イリーンの言葉しかわからないんだ」