【第124回】

 

〜 リュウイン篇 〜
第4部 ふたたびリュウイン(中編)
21章 亡命 ……その11

2008.08.27

 

 ヒプノイズの屋敷には昼過ぎに到着した。

 早馬を走らせる金もなかったので、とつぜんの異人の来訪に、出迎えの準備はなにもできていなかった。

「ちい姫さま!」

 リリーが玄関で迎えた。

「どこへ行ってらしたんですか! お一人で! どんなに心配したと思って……」

 リュウカはさえぎった。

「カゲの鞍を質に預けてきた。すぐに取りに行かせてくれないか。流れては困る」

 リリーの顔がひきつった。

「質屋ですって? なんでそんな……」

「金が入り用だったのだ」

「おこづかいが足りなかったんですか? それにしても、鞍なしじゃ乗れないじゃありませんか!」

「だから、すぐに取りに行ってくれないか」

 鞍なしのカゲに乗るのは久しぶりだった。楽しくはあったが、長い距離になれば疲れる。

「それから、エドアルを呼んでくれないか。ひとりで、すぐに来るように」

 エドアルより、リズのほうが先に来た。

「お姉さま、この人たち、なぁに?」

 ウルサの巡礼風の一団を見て、リズが目を見開いた。

「いろんな金髪があるのね。私、ウルサの人はみんなデュールみたいな薄い色なんだと思ってた」

 近くに立っていた金髪の外交官に気づき、ハッとした。

「デュールそっくり! もしかして、デュールの本当のお母さん?」

 リュウカが答えずにいると、リズはウルサの言葉で言った。

「初めまして。私の名前はリズです。リュウインの第三王女です。十四歳です。あなたの名前はなんですか?」

 たどたどしい、型どおりの言い回しだった。

 金髪の外交官は吹きだした。

「エヴァ=リータよ。よろしく、エリザ姫」

 金髪の外交官エヴァ=リータは、流暢なピートリークの言葉で言った。

「私、いくつぐらいに見えてるの?」

 リズは、あっ、と口を覆った。

「じゃあ、お姉さん?」

 二十代半ばに見えるエヴァ=リータにとっては、年の離れた弟といったほうが自然かも知れなかった。

「いいわねぇ。あんな弟がいたら、愛人にしちゃうわ」

 リズは目を丸くした。

 おもしろそうにエヴァ=リータは顔をのぞきこんだ。

「パーヴでは、いとこは結婚できない。リュウインでは、兄弟姉妹は結婚できない。でも、ウルサでは、親子以外は結婚できるのよ」

「でも、あなたは尼君でしょう?」

 リュウカが水をさすと、エヴァ=リータはニッと笑った。

「結婚できないだけよ。愛人ぐらい、誰にでもいるわ」

 リズがいっそう目を丸くした。

「かわいい子ね」

 エヴァ=リータはリズの髪に手をやった。

「うちの国に来ない? きっと、びっくりすることだらけよ」

 リズの目がパッと輝いた。

「やりません」

 リュウカは間髪入れずに言った。

「この子は、ウルサにはやりません」

「行きたーい!」

 リズは口をとがらせた。

「どうして? お姉さま! 私だって外国に行ってみたいわ! ちゃんと、言葉だって勉強してるのに! お姉さまばっかり、あちこち行って、ずるい!」

 

 

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