隊は再び進みだした。
リュウカは先頭に立った。
すぐ後ろにウルサの一団が続いた。
金髪の外交官は馬車には乗らなかった。馬にまたがり、一団に気を配りながら、軽やかに歩を進める。
後ろから、女剣士の姉のほうが駆けてきた。
「あたしたちは、ここいらで失礼するよ」
アテなどないだろうに。
ヒースさえいれば、どこか紹介できたものを。
そのヒースを追いだしたのは自分なのだ。
リュウカの胸を、もう何度も責めた言葉が、姉の暗い目と重なった。
「あんまり人に見られないうちに離れたほうがいいだろ。なんとかやってくさ。デュールの顔はちょっと見たかったけど。あんたとも会うのは、これが最後だろうね」
姉はまじまじと、リュウカの顔を見た。
「最後だと思うから訊くんだけどさ。あんた、ホントは父さまの子?」
息が詰まった。
母の顔、王の顔、クス・イリムの顔が頭の中でぐるぐる回った。
肯定と否定。
認めたく事実と、願いたい虚構。
そして、自分自身は、なんら証拠を持たない。
真に事実を知っているのは死んだ母だけだ。
もし、今からでも自分がどちらかを選べるなら。
姉は首を振った。
「今の、忘れて。父さまが母さまを愛しているのはわかってるんだ。ただ、同情でそういうことも、たまにはあるからね」
姉の暗い目がさみしげに東の空を見た。
自分の知らない悲しさを味わってきたのだろうとリュウカは思った。
「金貸してくんない? グレイ侯からいくらかもらったんだけど、なくなっちゃたんだよね。途中で予定外のものを拾っちゃったもんでさ」
リュウカは懐から財布を出し、姉に放った。
「足りますか?」
姉は中を見た。
「現金はいいけど、石は困るよ。うちは誰も目が利かないんだ」
ふと、リュウカはヒースに石の見分け方を教えたときのことを思いだした。
流れ者には必要な目だが、普通に暮らすには必要のないことなのだと、改めて思う。
どれがいくらと相場を教え、交渉のコツを話した。
驚くことに、宿代の相場も、姉は知らなかった。
「だって、ここに着くまで、ずっと野宿だったからね。人目についちゃ、マズいだろ」
試しに食べ物や衣類の相場も訊ねてみたが、まるで高かった。
庭師とはいえ、グレイ侯の庇護の元、豊かな暮らしをしていたことが伺える。
このままでは、知人もツテもない土地で、目立たぬよう暮らすのはムリだろう。
世間知らずのお尋ね者。
同じだ。
自分と。
リュウカの気持ちは決まった。
「ここから北西にフジノキ村という村があります」
道順を暗記させた。
材木屋のヒナタを訪ねなさい、リュートの紹介だと言えば、働かせてくれるでしょう。私の身元を知らない人だから、あなた方も身元は口外しないように。
ヒナタ宛てに一筆したため、念のため髪を一房入れて姉に持たせた。
「村の暮らしは厳しいと思いますが……」
「だいじょうぶ。庶民の暮らしは馴れてるよ」
姉は手を振り、一家は発った。
だが、本物の庶民の暮らしを知るのはこれからだ、とリュウカは思った。
それでも、家族一緒なら乗り越えられるだろうとも思った。
あの仲むつまじい家族なら。