道のわきの開けた場所で、一行は休息した。
妹が一組の夫婦を連れてきた。妻のほうはかわいらしい美人で、妹によく似ていた。夫のほうは無愛想で体つきはごつく、姉に似ていた。
土埃にまみれた巡礼服は、よく見ると急ごしらえのものだった。
本来は刺繍の施された豪華なものだが、彼らが羽織っているものはシーツか何かの薄い布地で仕立ててあり、形だけのお粗末なものだった。
連れてこられた妻は、片足を後ろにひき、スカートをつまんで優雅に腰を落とした。
宮廷風の礼である。
「リュウカさま、お目にかかれてうれしゅうございます。ご無事でなによりでございました」
名乗らなくても、異国風の顔立ちと黒い眼を見れば察する貴族は珍しくない。
前の王妃と間違われることも珍しくはないが。
少なくとも、ヒースの知り合いであるこの貴族は、前の王妃に娘がいたことは承知しているようだ、とリュウカは内心苦笑した。
「デュール・グレイ子爵は、あいにく留守にしています。代わりに、私で何かお役に立てますか?」
話しかけた途端、妻の後ろで夫が強い殺気を放った。
リュウカは腰の剣を抜いた。
草原の曲刀に太い刀がふりおろされた。
リュウカは流すようにふり払い、踏みこんで手首を蹴った。
夫の剣は飛び、リュウカの剣は首筋にピタリと吸いついた。
「父さま!」
と妹が叫んだ。
短い悲鳴をひとつあげて、妻が倒れた。
「何者だ」
リュウカは低い声で問うた。
「父さまを助けて!」
少し離れたところで姉が叫んだ。金髪の美女を伴っている。
似ていると、とリュウカは思った。
金髪や青い眼ばかりではない、眉から鼻にかけての筋も、大きくて人好きする目の形も、頬や大きな口も、姉弟かと思うほどに、よく似ていた。
「父さまを斬らないで!」
姉が必死に叫んで走り寄る。
金髪の美女は、さほど大声ではないが、よく通る声で言った。
「その人は、あの子の師匠よ。見逃してあげなさい」
クス・イリムか?
リュウカは目の端で夫の顔を見た。
母の剣友。
自分の父と疑われている男。
だからといって、今も信用していいかどうかは別だ。
「理由にもならない」
リュウカは小さく口笛を鳴らし、カゲを呼び寄せた。
姉は離れたところで立ち止まっていたが、金髪の美女はそれより一歩前に出た。
ウルサの言葉で言う。
「私はウルサの外交官。留学生たちとパーヴを脱出してきたの。この人たちが道案内を引き受けてくれたのよ。その人はただの剣術バカだから、あなたの腕を試したかっただけだと思うわ。許してやんなさい。もし、許さないと言うなら、あなたはウルサを敵に回すことになるけど? 恩人に手を下した人を、私たちは許さないわ」
それから金髪の美女はふり向き、大声で叫んだ。
「同胞たち! フードを脱ぎなさい!」
後方にいた巡礼たちが次々にフードを脱いだ。
濃淡さまざまな金髪や亜麻色が陽の光にきらめいた。
逃亡したウルサ人というのは事実らしい。
「どうする?」