忍、崩壊

 スラリと伸びた両肢を大きく開かされ宙に吊られるという言語を絶する姿態を組ませた忍の周りに陣取った悪魔たちは口々に卑猥な野次を飛ばし、酒を飲み合っている。

  弘美はそんな母の姿をとても正視できなかった。いつも毅然とした態度で若々しい母は弘美の自慢の一つだったそれが悪魔たちの手に掛かり辱められ、汚水の中に叩き込まれようとしている。弘美は悲しみを横顔に浮かべながら涙を流している。

 「さて、奥さん。浣腸責めだぜ。これもされてる内に楽しみになるみたいだからな」

 松井はニヤケタ笑いを浮かべると机の上に腰を落とし、処刑の時を待つ窪みに目を寄せた。

 「年の割には綺麗じゃない?奥さんのここって」

 由里が悪戯心を発揮して観念したようにひっそり息衝く窪みを指で押すとそれまで死んだように静止していた忍は苦しそうに眉を寄せ、双臀をゆさゆさと揺すった。

 「おや?」

 松井は忍の反応が切羽詰ったものに思えたのであらためて指で押して震動を与えてみた。

 「あああ、あ」

 忍の口からやるせない溜息が洩れたことで松井は確信した。

 「あれ、これは浣腸なんて必要無さそうですよ。ほっといても洩らしますよ」

 忍の便意が切迫した状態に近いと聞かされた三枝はニヤリと笑う。

 「それじゃ、暫く待ってみよう。どうせ、もう一回、吐き出させるんだからな」

 悪魔的な笑いを浮かべた三枝は弘美の乳房を弄って事も無げに言うとその場に胡坐を掻いて座った。

 「いいか、出したくなったら口に出して言うんだぜ。いきなりぶちまけてみろ、更にそのことでお仕置きを受けるからな」

 松井が大きく揺れる乳房を揺すって言うと忍は大きく頷き、顔を横に伏せて涙を流し始める。悪魔たちにそして、娘の眼前に途方もない羞恥の姿を露呈する悲しみの涙だった。いかに我慢しようと彼らがそれを見せない限り、許さないことを百も承知の忍は悲壮な決意を固めたのであった。

 「奥様のって、臭いでしょうね。五日間も出してないんだから」

 由里が鼻を摘むまねをして忍の顔を覗き見込み更に屈辱感を煽ろうとしている。

 「いいのよ。赤ちゃんみたいに出せば後はこっちで始末してあげるからね」

 恵子が乳首を押したり摘んだりしてからかっても悲しみに打ちひしがれる忍は一言も発しなかった。この悪夢のような瞬間が一瞬にして通り過ぎてしまうことを心から願っていたのだ。

 急に忍は目を見開くと宙を見据え、激しく吊り上げられた腰部を揺り動かし始めた。

 「あ、あああ、出ちゃう、出ちゃう」

 切迫した声を上げた忍が真っ赤に上気した顔で訴えると男たちは一斉に立ち上がってその無残に開かれた裸体に近寄ってくる。

 「ああ、まだ、まだしちゃ駄目なの?」

 舌足らずな声を上げて催促する忍をわざと焦らすかのように松井はゆっくりと便器をその下方に配置した。

 「さあ、やってみな」

 松井は換気扇のスイッチを作動させると汗に濡れた尻を抓って催促した。

 「ひ、弘美。見ちゃ駄目。目を閉じていて」

 吊り上げられた忍のスラリと伸びた二肢が激しく痙攣した。

 「キャー、始めたわ」

 首を伸ばして便器を覗き込んでいた由里はそこに茶褐色の排出物が噴出されているのを目にして素っ頓狂な声を上げた。

 「臭いわよ。奥さん」

 恵子は鼻を摘みながら大きな声で笑っている。

 忍は真赤になった顔を右に左に振りながら激しい泣き声を上げて、全身を痙攣させている。男たちの哄笑も女たちの侮蔑も忍の痺れてしまった意識を素通りするだけである。心の中でこのことが悪夢であって欲しいと願いながら忍は排出を続けていた。

 男たちの中で弘美は涙を流しながら極限の羞恥図をさらけ出している母の姿を目撃させられている。今まで憧れであった母が、美の象徴であった母が、全ての価値観から崩壊し、虫けら同然に扱われている姿がそこにあった。それでも弘美は母を慕っている。慕い続けなければならないと信じていた。

 忍の泣き声が小さくなると同時に汚濁の排出は終わりを告げた。

 「もう、いいの?奥さん」

 由里に火照った頬を突付かれた忍は恥ずかしそうに頷いて見せる。

 「ちよっと待て」

 由里が後始末に取り掛かろうとするのを制止した三枝は医療用の手袋を嵌めるとその指先を崩壊の名残を残した窪みに送り込み、内部を荒々しく掻きたてた。

 「あっ、い、嫌」

 急にむずかるような声を上げた忍は腰を揺さぶった。

 「まだ、残ってる筈だ。徹底的に綺麗にしとかないとね」

 三枝がこんな事を呟きながら更に奥深く探り出すと忍は新たな便意を感じで小さく声を上げる。

 「あっ、出そう、嫌、出ちゃう」

 指が引き抜かれ、再度の放出を重ねた忍はがっくりと首を横に伏せた。もう、精も根も尽き果てたといった風情の忍は嗚咽の声を洩らしている。

 不意に忍は泣くのを止め、、頬を赤らめ恥ずかしそうな表情を浮かべた。由里と恵子が濡れタオルを使って後始末を始めたのだ。

 「何もかもこちら任せで楽なものね」

 由里はそんな言葉を吐いて忍の身体を拭っていたが恵子は悪戯っぽい笑みを浮かべて母の無残に崩壊した姿を目にしたショックから立ち直れない弘美を忍の眼前に押し立てる。

 「お母さん。赤ちゃんみたいでしょう。でも可愛かったと思うわ」

 恵子に言われて弘美は瞳を開いて哀愁の色を湛えている忍を見た。

 「お母様」

 「ああ、弘美」

 二人は顔をつき合わせて再び、声を上げて泣き出した。

 「お母さんを嫌いにならないでね」

 醜悪な姿を露呈し、娘の心変わりを懸念した忍であったが弘美は何度も頷いてみせる。悪魔たちに運命を操られる母子の悲劇であった。

 二人が泣き止むと松井が再び、台の上に陣取って相変わらず吊り上げられている忍の太腿を叩いた。

 「さあ、これからが本当の浣腸責めだぜ。覚悟をしな」

 再び、その部分を隠微に擦られ始めた忍は大きな溜息を付いた。悪魔たちの飽くことのない責めの前に忍は気が遠くなるほどの疲労感を味わっているのだ。

忍の号泣

 すっかり夜が明けきった高原の朝は冬間近を思わせる冷たい冷気と靄に覆われていた。

 そんな冷気が立ち込める中、栗山小屋のドアが開き、後手に縛られた素っ裸の忍が肩を押されて姿を現した。続いて三枝、松井とこの屋敷の面々が顔を出し、最後に弘美の縄尻を手にした恵子が小屋から出てきた。

 長時間に亘り、極限の姿勢を取らされ、浣腸責めに遭わされていた忍はまともに歩くことが出来ない。土の上に肩膝を付いてしまい、喘ぐように肩で息をしている忍の縄尻を引き上げた三枝はその疲労の色濃い横顔を覗き込む。

 「どうだ、俺たちの恐ろしさが判っただろう。もう、二度とへんな真似はするなよ」

 白蝋のように白い頬を震わせて忍は大きく頷いた。もう、全身、疲れきり、歩くのも大儀な忍を悪魔たちはまだ解放しようとはしない。忍は再び、フラフラと裏庭を歩き始める。

 忍と弘美が連れ込まれたのは三つの新らしい檻が並ぶ物置だった。

 左から絵里、徹、祐子が中に入って寝息を立てている。

 「これからがお前が警察に通報しようとした罰だ。あの真ん中にいる徹って言う奴は元々は由里の恋人だった奴だ。今は女のことしか頭に無い馬鹿だ。これから夜になるまであいつの檻に一緒に入って貰う」

 忍は疲れ切った身体と心をまだ休めることが出来ない悲しさに胸が溢れてくる思いだった。でも、そんな事を口にする勇気は今の忍には失われていた。彼らが繰り出す攻撃を全て受け入れ、奴隷として気に入って貰う事が肝要だと思っていた。

 「よし、入れろ」

 三枝の言葉で松井と由里が弘美を檻の前に引き立てことに忍は頬を蒼ざめさせ、三枝を見た。

 「誰がお前を入れると言った。弘美を入れた方がお前にも堪えるだろう」

 三枝はそんな事を言って驚愕の表情を見せる忍を笑うのであった。

 「止めて、嫌よ」

 抗う弘美を有無も言わせず檻の中に送り込んだ由里と松井は鍵を掛けた。

 「徹、お待ちかねの餌だよ。たっぷり食べな」

 由里に促された徹は欲情むき出しの表情を浮かべて弘美に襲い掛かった。

 「助けて。お母様!」

 弘美の助けを呼ぶ声を耳にすると忍はもう黙っていられなくなった。

 その疲れ切った裸体を三枝の前に跪かせた忍は必死の瞳を三枝に送る。

 「お願いです。私を弘美の代わりに檻の中に入れて下さいませ。もう、二度と、楯突いたり、逃げようとは思いません。ですから、ですから弘美の代わりに私を入れて下さい」

 涙ながらに跪いて訴える忍の哀れな姿を見下ろした三枝は残酷そうな笑みを浮かべている。

 「お前が言った事は奴隷として当然の事だ。気が付くのが遅かったという訳だ」

 「判ってます。判ってます。でも、娘をあんな男と一緒に入れるのだけはやめて下さい」

 最後に涙声で訴える忍を冷たい瞳で見た三枝はその乱れに乱れた髪の毛を掴んで引き起こす。

 「お前はこれから俺と朝のセックスをするんだ。お前が馬鹿なことをした償いを娘にさせる。お前も二度とそんな気が起きないだろう」

 「ですが、私の最後の願いと思って聞いて下さい」

 「くどいぞ」

 業を煮やした三枝に頬を張られた忍は再び床に膝を落とすとワンワン声を上げて泣きじやくった。娘が狂犬のような男の餌食にされるのが堪らなく悲しいのだ。それも自分の失敗のお陰で。

 「弘美、母さんを許して!」

 顔をくしゃくしゃにして娘に詫びを入れながら泣きじゃくる忍の腰辺りに水しぶきが上がった。感極まった忍が失禁したのだ。忍の悲痛な泣き声を聞きながら餌を与えられた徹は無心の表情で腰を動かしていた。絵里と祐子はその無残な光景を声も無く見守ることしか出来なかった。

不意の来訪

 栗山は次の訪問は5日後と予定されていたが4日後の夕刻にひょっこり姿を現した。

 「あら、明日の予定でしょう。どうしたの栗山さん」

 由里が驚きの声を掛けると栗山は口に指をあてた。

 「僕が来たことを絵里と祐子には内緒にして欲しい」

 「なるほどね。絵里は大分、苦しそうよ。昨日から栗山さんは何時頃来るんだってうるさく聞くんですもの」

 「そうか、明日の昼過ぎには着くって言っといてくれ。僕も他の娘と遊びたいからね」

 栗山が片目を瞑って言うと由里は肩を叩いた。

 「この浮気者」

 由里にからかわれた栗山は苦笑いを浮かべてモニタールームに向かった。今日は彼に話さねばならない大事な話が合ったのだ。

 モニタールームに入ると三枝は全裸の忍を傍らに傅かせて画面に見入っている最中だった。

 「あれ、栗山さん。予定では明日の筈では?」

 「ええ、大切な話が出来たのでお伺いしました」

 栗山はそこで言葉を切って忍に視線を送った。髪をアップに巻き上げたせいか、忍に妖艶さが前より増したような印象を栗山は受けていた。

 「こいつとは結婚しました。初夜の晩に大変なことを起こしたんで、お仕置きをしましたらすっかりおとなしくなりました。今じゃ、私とセックスをするのが楽しいらしいです。なあ、忍」

 三枝に足で乳房に触れられた頬を染めて忍はこっくりと頷いた。

 「従順になりました。良い妻を迎えることが出来て栗山さんには感謝しております」

 忍はもう手も縛られてはいない。大きな首輪を付け、鎖を三枝に握られているだけであった。

 「私はこのお屋敷に来て、初めて女の喜びというものに巡りあえた気がします。今までの結婚生活は実に味気のないもんでございました」

 その言葉は無理に言わされているわけではなく、忍が本音で語っていると栗山は感じていた。短期間でここので仕込み上げる三枝の手管に栗山は舌を巻く思いだった。

 「しかし、弘美が反発しましてな、もう、お母さんとは親子の縁切るとまで言われて、忍は傷ついているのです」

 三枝がその件に触れると忍は悲しげに睫毛を伏せる。三枝に心底心酔している母の姿を弘美は嫌っているのだ。

 「まあ、親子の問題ですからそのうち解決するんではないかと思います」

 三枝が話題を打ち切ったので栗山カバンの中から何枚かの書類を取り出した。

 「実は三枝さん、この辺りの土地がですね大規模な別荘地帯の開発に掛かったのです。いずれ、お話があると思いますが実際に住んでいる方には時価の倍の補償金が支払われます」

 「ほー、驚きましたね」

 三枝は降って湧いた話に目を丸くした。

 「そこで移転となるわけですが私が近くの土地を既に確保しております。用地もここより広くて見晴らしが良い場所です。そこに建物を建てれば良い訳です」

 栗山は地図を広げると一点を指差した。

 「ここです。車で十分程度の距離ですね」

 「ほう、なるほど」

 「既に設計も依頼して来ました。大雑把な図面はこれになります」

 栗山は新たな書類を机の上に並べた。鉄筋コンクリートの地下一階、地上二階、延床面積400平米を超える豪邸だった。

 「これは相当建築費がかさむでしょう」

 「もちろん、建物だけで6000万円は下らないと思います。三枝さんにはうち2000万円をご負担戴ければ結構です。補償金で得た金は運営費になさって下さい」

 三枝は溜息を付いた。

 「栗山さん。あなたはお金に不自由していないし、時間もある。いったい、お仕事は何をしていらっしゃるのですか?」

 三枝は前々から疑問に思っていた事を聞いた。

 栗山はにっこりと笑って口を開いた。

 「それは秘密です。おいおい、判ることもあるでしょう」

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