弘美の心
部屋に落ち着いた栗山はまず弘美を呼んでもらうことにした。忍との縁を切るなど言い切った弘美の心のうちを確かめたい気持もあった。
白のTバックを身に着け手錠掛けられて現れた弘美は硬い表情をしていた。やはり、母の誘拐を断念する誓いをあっさりと裏切った栗山を許すことが出来ないのであろう。
「弘美ちゃん。元気?」
椅子に座った弘美に声を掛けても力なく首を振って見せるだけであった。
「あの時のこと、怒ってるのかい?」
「もう、どうでもいいのよ。私のお母さんは居なくなっちゃったんだから」
投げやりな口調で答えた弘美は黙って下を向いた。やはり、母親が三枝に隷属していることが気に入らないのだろう。弘美は栗山に対しても頑なな態度を崩さなかった。
「そうだ。弘美ちゃんにお土産があるんだよ。チョコレートなんかすきだろう?」
弘美は差し出されたチョコレートを見て思わず生唾を飲み込んだ。ここに捕われて以来、甘い物とは言えばたくに出されるオレンジジュース程度で弘美にとってそれは懐かしい存在だった。
「食べていいの?」
「いいよ」
一粒口に含んだ弘美は涙が溢れそうになった。太るからと言って貰ったチョコレートを捨てた記憶、バレンタインデーに好きな男の子にチョコレートを渡しそびれた記憶。様々な思い出が弘美の中で走馬灯のように駆け巡っている。
「有難う、栗山さん」
弘美は普段の明るい笑顔を取り戻した。母が捕われて以来、連日のようにその現場に刈り出され、心が休まる時がなかった弘美はチョコレートによって忘れていた安らぎを思い出したかのようだった。
「何で、お母さんを嫌いになったの?」
栗山は心を許してくれそうな弘美に声を掛けた。弘美はようやっと重そうな口を開いた。
「ママが三枝さんの奥さんになってしまったから弘美は嫌いになったわけじゃないの」
「じゃあ、どうして嫌いになったの?」
「ママが三枝さんの言いなりになってるからなの」
「奴隷だもん。当然だよ」
弘美は栗山の言葉に首を振った。
「言いなりになっていても構わないの。ただ・・・」
弘美はそこで言葉を切ると下を向いてしまった。
「ただ・・・、何なの?」
「命令されていることに悦んでいるみたいなところが嫌なの」
弘美の言葉を聞いて栗山は納得した。忍は隷属することに悦びを見出してこの地獄の生活を乗り切ろうとしているのだ。それが弘美には途方もない裏切りに写るらしい。
「それは仕方のないことだよ。弘美ちゃん。そうすることによってお母さんはここでの生活が楽になるんだ。辛いことも辛くなくなるんだよ。弘美ちゃんも年を取れば判ることだよ」
「そうなのかなぁ・・・」
弘美は首を傾げてまた一つチョコレートを口に含んだ。
「君の方からお母さんの胸に飛び込めば全ては解決するよ。君の事を誰よりも心配してくれているのがお母さんなんだからね」
栗山の言葉に弘美は頷いた。やっぱり、母親の存在は大きいのだ。
「弘美ちゃんはお母さんに会えて嬉しくなかった?」
「それは・・・嬉しかった。でも、皆に虐められてお母さんあんなに泣いて見てられなかった」
弘美はあの時のことを思い出して涙ぐんだ。
「その時の気持を思い出して、お母さんに会いに行こう」
栗山に促された弘美はおずおずと立ち上がった。
三枝と忍は既に自室に篭って、二人だけの世界に入り込んでいた。
「いらっしゃい、今、プレイの最中ですがいいですよ」
部屋に入ってみると後手に縛られた忍が床の上に胡坐縛りにされて座っていた。傍らにそれらしき液体の入った洗面器が置かれている。三枝は自分の部屋やで忍に排尿させていたようだ。
娘の顔を見ると忍は恥ずかしそうに顔を横に伏せた。また、侮蔑の言葉を投げ掛けられるのを恐れているようだ。
「あれ、ここでは縛るんですか?」
「ええ、この部屋から出す時は首輪をここにいるときは後手縛りと決めました。私はこうしていないと燃えないんです」
裸の上にバスローブを纏っただけの三枝は頭を掻いた。
栗山は弘美の背中を押して忍の前に膝を折った。忍は娘に恥ずかしい姿を直視されるのが辛そうに身を揉んでいる。
「忍さん。弘美ちゃんがお話があるそうです。聞いてやってくれますか?」
忍が頷くと弘美はおずおずと口を開いた。
「栗山さんに色々言われたの。お母さんを嫌っちゃいけないって。お母さんが喜んでいるは仕方のないことだって」
弘美が下を向いたまま話すと忍が後を継いだ。
「弘美にはまだ判らないと思うけど女はね愛してくれる人が必要なの。弘美ちゃんのお父さんに私は愛して貰っていなかったの。三枝さんは私を虐めているようにみえるけどそれが愛なの。私は決めたの。一生、この人に付いてゆくって。判ってくれるわね?」
忍は涙を浮かべて娘に訴えた。弘美は曖昧に頷いたがまだ疑問が残った。
「お母さん。何故、三枝さんがお母さんを愛していると判るの?」
「それはね。三枝さんはこの館にいる他の誰ともセックスしないのよ。おしゃぶりは朝の日課だからさせていたようたけれど、それもお母さんが毎日して上げるの。彼は誓ってくれたのよ」
確かに地下室にいる奴隷たちの間でも三枝とセックスしたという話を弘美は聞いたことが無かった。
「私は三枝さんにとって理想の人だったのだから、私を誘拐して奴隷にしたの。三枝さんがあなたのお父さんになるわけじゃないけど彼を恨むことだけは止めてね」
「お母さん!」
こっくり頷いた弘美は母の胸に取り縋って声を上げて泣き始める。それを見守る忍の瞳にもうっすらと涙が浮かんでいる。
二人の和解をじっと見守っていた栗山の肩を三枝が叩いた。
「また、あんたに借りが出来てしまいましたな」
真実の愛
栗山小屋のブレハブに栗山が顔を出すと恵子と松井がモニターを前にして乳繰り合っている最中であった。
「あ、ごめん」
出て行こうとする栗山の背中を恵子の声が引き止めた。
「いいのよ。栗山さんが来てくれたからここから出て松井さんの部屋でエッチできるから」
恵子と松井が腕を組んで出てゆくと栗山はモニターに目を凝らした。
折檻部屋の中にいるのは祐子と絵里であった。二人は檻の中で過ごさせる筈であったが徹を刺激して、二人の戦いに支障があってはならないと判断した三枝の配慮だった。
三枝は二人に浣腸を施した日のことを思い出していた。
祐子にアヌス栓を施した後、絵里にもしようとしたら絵里はいらないと言った。このままで頑張って見せると言った絵里の瞳はキラキラしていた。祐子もそうなると自分もいらないと言い出した。結局、二人は栓も貞操帯もつけぬ、褌一枚の姿でこの4日間を頑張り抜いたことになる。
モニターの中では絵里の方に危機が迫っていることは明らかであった。
毛布に包まって苦しげな息を吐いている。食事も今朝から摂っていないと言う。熱があるのだろうか?時折、身体が震えている。
一方の祐子は余裕が有りそうだ壁に身体を持たせかけ、苦しむ絵里の姿を無表情で眺めていた。
不意に絵里が苦しみだした。祐子が心配そうにそばに寄った。
慌てて栗山はスピーカーのスイッチを入れた。
「大丈夫?ねえ、誰か呼ぼうか?」
祐子が絵里の肩を揺すって尋ねている。絵里が弱々しく首を振っている。声が小さいためマイクでは拾えないようだ。
「何を言ってるの?死んでしまったら何もかも終わりだわ」
祐子の額に手を当てた祐子はその熱の高さに驚いたようだ。画面から消えた彼女はドアをドンドン叩き出した。
「誰かいないの?絵里さんが大変なの、誰か」
祐子が声を限りに叫んでいる。栗山は大急ぎでドアを開いた。
「あっ」
祐子は栗山が顔を出したことに驚いている。
「絵里、大丈夫か?」
栗山に肩を揺すられた絵里は腫れぼったい眼を開いて見つめ、そして、微笑んだ。
「来てくれたんだ」
絵里は一言だけ言うとまた目を閉ざした。
「祐子、便器を取ってくれ」
絵里の身体を抱き起こした栗山に言われて祐子が部屋の隅に転がっているピンク色の便器を持ってきた。その蓋には栗山と絵里の相合傘がマジックで描かれている。
蓋を取り去った栗山は絵里の褌を外すと両太腿を抱え、便器の上にかざした。
「さあ、早く出せ。もう、我慢しなくていいんだ」
耳元で囁かれた絵里は目を閉じたまま眉を寄せた。
くぐもった音が響き渡ると半ば溶解した内容物が便器の中に流れ出した。絵里は下痢状態になった便意を堪えに堪え体調を崩していたのだ。
「もう、いいのか?」
流れが止まった絵里に栗山が尋ねると絵里は恥ずかしそうに頷いた。
祐子が用意してあったトイレットペーパーで絵里の後始末を終えると栗山はその身を毛布の中に再び収めた。
「こんな状態で我慢するなんて無茶だよ」
強い調子で諭された絵里は再び目を開くと掠れた声を出す。
「だって、栗山さんの奥さんになりたかったんだもん。でも、ライバルにお尻を拭かれるようじゃ失格ね」
自嘲気味に言い終えた祐子は再び、目を閉ざした。暖かいベッドの中で休養させることが必要だと感じた栗山は絵里を横抱きにすると折檻部屋から出ることにした。
祐子も付き添って母屋に立ち戻った栗山は自分の部屋のドアを開いた。
「ねえ、トイレ使っていい?」
「ああ、いいよ」
背後から響いた祐子の声に答えた栗山は絵里を自分のベッドに寝かしつけ、エアコンのスイッチを入れた。
こんな状態になるまで自分の妻になることに執念を燃やしている絵里の姿に栗山は感動を覚えずにはいられなかった。椅子に座った栗山は声を殺して嗚咽している。
そこへ、四日分の思いを排出してきた祐子がさっぱりした顔をして現れた。
「泣いてるんだ。あなたも割りと純情なのね」
祐子にからかわれた栗山は何の反論も出来なかった。ただ、溢れてくる涙を拭おうともせず、眠りに付いた祐子の髪を撫で上げている。
「私の負けのようね。諦める。その子に上げるわ」
祐子が部屋を出て行こうとするのを栗山は引きとめた。
「待ってくれ。君もいて貰わなくては困る。君も大切なんだ」
栗山は祐子の裸体をしっかりと抱きしめると額に頬を押し付け、泣き続けている。
「絵里さんが嫌がるんじゃないの?」
「絵里なら判ってくれる。二人が仲良しになってくれれば一番いい。君なら出きる。絵里にもできるよ」
祐子は栗山が勝手なことを言い出したことに苦笑していた。しかし、内心、栗山の妻の座を完全に失わなかったことにほっとしていた。祐子にとっても栗山が憎悪の対象から愛しい存在に変化しているのだ。
栗山の心も同様だった。自分の性癖を受け入れてくれた祐子と絵里どちらも失ってはなら無い存在なのだ。栗山は祐子に引き倒すと自分も服を脱ぎ、その上に覆いかぶさった。栗山の荒々しい行為の前に祐子は感激し、自らも愛欲に溺れこんでいく、二人の密戯はいつ果てることなく続いていた。
Fin?