迫る魔の手

 どの程度待たされただろうか。忍は一人で応接間に捨て置かれていた。待たされていると忍に不安がよぎって来る。男たちに騙されたのではないだろうか?弘美はここにいないのではないだろうか?忍の心の中に様々な思いが錯綜していた。

 手を付けぬまま出されたお茶が冷め切った頃、三枝が姿を現した。

 「お待たせしました。ご案内します」

 「弘美に会わせて頂けるんですね」

 「はい」

 三枝は慇懃に笑いながら忍の前に立って歩き始めた。

 「あのトイレにその前に行かせて下さい」

 三時間以上も車に揺られてきた忍は尿意を我慢していたのだ。

 三枝はいいですよと笑いながら二階に上がり、忍をアトリエに連れ込むことに成功した。

 忍はトイレに寄らずにアトリエに案内された事に怪訝な顔をした。

 「トイレはどちらでしょうか?」

 再度、尋ねた忍に三枝は薄笑いを浮かべるとどっかりと椅子に腰を落した。

 「奥さん。トイレには行かせてやらないよ。俺の目の前でおしっこをして貰う」

 態度を急変させた三枝に忍は表情を凍り付かせた。

 慌てて逃げようと出口に向かった忍の前に松井と塩野が待ち構えており、忍はまた三枝の前に追い立てられる。

 「まだ、弘美と会ってもいないのに逃げるのは早いだろう。奥さん」

 松井と塩野に取り囲まれて逃げ場を失った忍に対して三枝は勝ち誇ったように宣言した。

 「弘美と会わせて下さい」

 罠に嵌った悔しさに目尻に涙を浮かべた忍が再度、訴えると三枝は冷酷な笑みを浮かべる。

 「会わせて上げるよ。奥さんが裸になってくれたらね」

 裸になれと言われて忍の頬に赤みが差した。悪魔たちの恐ろしさがヒシヒシと忍の五感に忍び寄ってくるのだ。

 「裸にしてどうするつもりなの?」

 「その子持ちとは思えぬ裸を拝もうと思ってね」

 三枝の言葉に忍は胸の前で両手を合わせて怯えの表情を見せる。そして、隙あらばと周囲を見廻すのであるが松井と塩野がそれを防ぐ体制を整えている。

 「早く、脱がないとそのままおしっこする嵌めになっちいますよ。奥さん」

 忍は楽しそうに笑う三枝の顔を睨みつけ、唇を噛んだ。突き上げて来る尿意にも苛まれる忍は八方ふさがりの現状に絶望を覚えていた。

 そこへ由里と恵子が姿を現した。奴隷を全て地下に収容した彼女たちも忍の事を見物に来たのである。

 「へぇー、綺麗ね。弘美のお姉さんでも通るわね」

 恵子に揶揄された忍はその顔を見て驚きの声を上げる。

 「あなたは香田さんでしょう。何でこの人たちの仲間になっているの?」

 捜索現場で見せられた写真を覚えていた忍は恵子が悪魔の手先のような立場を取っていることが信じられなかったのだ。

 「準奴隷といってね。奴隷を管理する立場になっているのよ。奥さんを虐める事になるかも知れないけど恨まないでね」

 恵子はくすりと笑うと続いて由里を紹介する。

 「この人も準奴隷の由里、先輩よ」

 忍は先程、お茶を運んできた女が失踪した女子大生の由里だと言う事を聞かされて再び、衝撃を受けた。

 「奥さん。随分、綺麗で、若々しいね。なんだか妬けてきちゃうよ」

 由里は自分の母と比較して忍の余りに若々しい姿に嫉妬以上のものを覚えていた。その意地悪そうな笑みを見て忍の背筋に寒気が走った。

 「あら、奥さん。腰をもじもじさせておしっこがしたいのね。ここの奴隷たちは可哀想にトイレも行かせてもらえないのよ」

 由里は悔しそうに歪む忍の横顔を見て楽しそうに笑うのであった。

 「あなたたち、弘美に酷いことしていないでしょうね」

 少女たちの陰険さに苛立った忍が激しい声を出すと由里が着物の襟を掴んで凄んでみせる。

 「先生みたいな口を利くんじゃないよ。あんたも今日から奴隷なんだから」

 「あなたたちは人間の屑よ。仲間たちを裏切った、裏切り者よ」

 劣勢を弾き飛ばすように言い放った忍の頬を由里がいきなり打ち据えると忍は床に倒れこんだ。

 「あんた。立場が判ってないよ。少し、懲らしめてやるよ」

 罵倒され、頭に血が上った由里が忍の腰辺りを蹴飛ばすと松井がそれを押し留めた。

 「お前もすぐ殴る癖があるから困りもんだ。奥さんが裸になってから落とし前、付ければいいだろう」

 松井に推し留められた由里が納得すると忍はいよいよ決断の時を迫られる状況に追い詰められた。

地獄の対面

 祐子を自室に監禁した栗山が顔を出し、自室で由希とひと時を楽しんだ大野がその由希を従えてアトリエに入ってくると役者は全て揃った事になった。

 「さあ、奥さん。恥ずかしがらずに脱いで貰おうか」

 松井に肩を掴まれ、引っ張られると忍はがっくりと首を垂れたまま立ち上がった。裸になる決心を固めた忍に男たちは色めきたった。和服に包まれたその肉体を想像して三枝の胸も高鳴るのである。

 「手伝ってやろうか?」

 松井の手が帯に掛かると忍はその手を邪険に払いのける。

 「着物くらい自分で脱げます」

 眉を吊り上げ、自分を射すくめる忍の視線にはっとする美しさを感じた松井はその手を引っ込めた。

 忍は帯とそれに伴う紐を解くと鶯色の小袖を脱ぎ捨てる。艶かしい長襦袢姿になった忍は男たちの生唾を飲み込む音が聞こえると思わず伊達巻を解く手が止まってしまう。

 「どうした。奥さん。あと少しじゃないか?」

 「裸になれば弘美と合わせていただけるんですね」

 嬉しそうな声を上げる三枝に忍は悔しさに涙を浮かべて訴えた。

 「ああ、会わせて上げますよ」

 三枝の言葉を聞いた忍は勇気を振り絞って長襦袢をさらりと床に落とすと両腕でしっかりと胸を覆ってその場に縮かんだ。

 忍に残されたものは薄い肌襦袢と腰巻、そして、両足に着けている足袋だけになった。

 「もったいぶるなよ」

 忍のうなじ辺りの色っぽさに興奮を覚えた松井が背後から肌襦袢を強引に引っ張ると襟元が大きくはだけ、しっかりと交錯していた両腕の閂も緩んでくる。

 「ああ、何をするの?」

 女の柔肌が垣間見えたことで大野と栗山も妖しい欲望に突き上げられるように手を貸し、遂に忍は上半身を裸に剥き上げられてしまった。

 その暖かさそうな一片のシミも無いミルク色の肌を目にした男たちから溜息が洩れる。遂に忍は娘を誘拐した憎い男たちの前で肌身を晒したのである。

 「凄い綺麗な肌をしてるぜ。とても大きな子供がいるようには見えないぜ」

 「張り付き具合も良さそうだぜ」

 男たちは床の上に小さく身を縮めて乳房を必死に隠している忍の周囲に集まり、口々に野卑な感想を述べ合うのであった。

 「さあ、奥さん。最後の一枚は我々が引き剥がして上げる。両手を背中に廻して」

 栗山に言われた忍は松井がロープを手にして後ろに控えているのを目にして慄然とした。

 「縛る必要なんか無いでしょう。もう、こんな姿で逃げようなんてしないわ」

 「奥さん。駄々こねて。娘さんに会えなくなっても良いのですか?」

 忍は唇を噛んだ。三枝の脅しに屈してしまうのは癪だったがこうなってしまっては致し方ない。忍は乳房を覆っていた両手を静かに背中に廻した。

 「奥さん。良いおっぱいしてるね。ピチピチしてる。それだけ見てれば処女だと言っても通りそうだぜ」

 松井はそんな事を言いながら観念した忍をキリキリと後手縛りに仕上げてゆく。

 露わになった忍の乳房は頃合の良い大きさを誇り、垂れも無く瑞々しさを保っていた。その頂点の乳頭も愛らしいピンク色をしている。松井がその乳房の上下に縄を掛け、その形を殊更大きく強調させると忍の拘束は終わった。

 「良し、弘美を連れてきてくれ」

 天井から伸びるロープに忍を繋ぎとめ終えると三枝は松井に命令した。弘美は忍が到着した直後に地下室から松井の部屋に運び込まれていたのだ。

 「あら、奥さん。良い指輪をしてるわね。これからはもう必要ないから貰っといて上げる」

 目ざとく見つけた由里が左手の薬指の指輪を抜き取ると恵子も腕時計を召し上げる。

 「それにしても良いおっぱいしてるわね。虐めがいがありそう」

 いきなり由里が屈辱に震える乳首を抓み上げようとしたので忍は大きく身を震わせ刺々しい声を放った。

 「な、何をするの?淫らな真似は許しませんよ」

 娘のような女たちに辱められる苦悩に耐えかねて忍は思わず口走ってしまったのだ。

 「まだ、判ってないのあんたは奴隷になったんだよ」

 またも忍の反撃に遭ってカチンと来た由里はその強張った頬を叩くと再び、手を伸ばした。

 「あなたたち、あなたたちそれでも女なの?」

 由里に乳首を抓まれながら忍は悔し涙を流しながら毒づいた。

 「お母様を虐めないで」

 前手錠にパンティ一枚の裸身を松井によって引き立てられてきた弘美は無残な晒し者にされている母に由里が纏いついているのを目にして激しい声を上げた。

 「弘美!」

 忍が哀れな姿を見つけて声を掛けると弘美は走りより、その裸の胸に顔を顔を埋めてワンワン声を上げて泣き始める。

 忍は何か声を掛けてやりたかったが捕われて自由を奪われている状態では何の言葉も出ない。ただ、ハラハラと涙を流し、娘の頭に頬を押し付けることしか出来なかった。

 「頑張ったのね。弘美」

 「うん。いつかはお母様に会えると思って」

 やっと言葉を口にした忍に答えるように弘美はこっくりと頷き、涙を浮かべた母の顔を見上げるのであった。

 「さあ、お母さんはこれから色々忙しいんだ。そこで見物していろ」

 松井が弘美を引き剥がそうと背後から手を掛けると弘美はおとなしくそれに従った。駄々をこねて彼らの怒りを買うことは恐ろしい結果を招くことを弘美は百も承知だった。

 弘美は腰を据えさせられると近くに座っている栗山の顔を恨めしそうな顔で見上げる。あれだけ、懇願し、言いなりになって尽くして阻止しようとした母の誘拐を実行された事に対する憤りを博美は感じていた。それを知ってる栗山はばつの悪そうな顔をして視線を逸らした。

 「さて、奥さん。いよいよ、素っ裸になって貰いましょうか」

 薄笑いを浮かべた松井が腰巻に包まれた太股の付け根辺りを指でなぞると忍は嫌悪感にその縛られた裸身を震わせた。

 「まあ、奥様。素っ裸になるのが怖いみたいね。ここの奴隷たちは特別な日以外は大抵、素っ裸で過ごしているのよ。弘美みたいにパンツを穿かせて貰えるのは特別なんだからね」

 恵子が楽しそうに笑ってそんな事を言うと忍は憎悪の篭った視線を一瞬、投げ掛けた。しかし、すぐに睫毛は伏せられ、自らを襲う屈辱の渦に耐え始める。

 「ねえねえ、さっきから生意気な事を言ってる奥さんを懲らしめてあげない」

 悪戯っぽい笑みを浮かべた由里が松井と恵子に何やら耳打ちすると二人もしたり顔で頷いてみせる。忍を屈辱に彷徨わせる悪巧みはたちまちのうちに決定した。

 由里がしたり顔で近づいてくると忍は頬を一層、硬化させた。いよいよ、全裸に剥かれると思うと忍の鼓動は激しく波打った。

 「奥さん。当分、素っ裸で過ごさなくてはならないからお名残を惜しませてあげるよ。ふふふ」

 由里が腰巻の紐を解き始めると忍は悔しそうに眉を寄せた。しかし、由里は紐を解きはしなかった。思い切り緩めた紐を洗濯バサミによって固定すると腰巻をじわじわと引き下げ始めたのである。

 「まあ、可愛いお臍ね」

 屈辱に頬を震わせる忍の臍が露出するまで腰巻をずり下げた由里は裾を左右に引き裂いた。

 背後で待ち構えていた恵子と松井がそれを結び合わせると天井から伸びる別のロープに洗濯バサミを使って結び付けるのであった。

 こうして、忍の太股辺りまで露出させた由里はその羞恥に身を揉む姿に満足の笑みを洩らす。

 「どうだい、奥さん。恥ずかしいかい?」

 一辺に剥ぎ取らずわざと焦らしながら肌を露わにされる恥ずかしさに忍は発狂しそうに胸が昂っていた。いっそのことあっさりと剥ぎ取られた方が忍にとっては楽に思えてくる。

 「吊り上げて頂戴」

 松井が壁際のスイッチを押すと腰巻の裾が引き上げられてゆく。

 「あ、ああ」

 臀部が徐々に露出することに気が付いた忍は再び羞恥に身を震わせねばならなかった。

 「あれ、Tバックを着てるわ」

 ロープが止まり、忍の後に構えていた恵子が素っ頓狂な声を出した。由里が覗き込むと殆ど露出している忍の尻の割れ目に白い紐が貼り付いていた。

 「奥さん。虫も殺さないような顔をして結構、行けてるわね」

 由里はしっかりと目を閉ざし、屈辱にカチカチと歯を噛み鳴らしている忍の美しい横顔を覗き込んでせせら笑う。Tバックは着物を着る際、パンティラインがくっきりと現れるのを嫌い、忍が長年愛用しているものだった。そんな理由を話しても悪魔たちの揶揄が止む訳でも無い事を知っている忍は口を噤んだまま屈辱に耐えていた。

 「どんどん引き上げて」

 松井が再びスイッチを入れると腰巻は更に引き上げられ、忍の前方からもTバックがはっきり姿を現した。

 「もう、腰巻とも名残を惜しんだでしょう。外してもいいよね」

 由里は独り言のように呟くと忍の腰に貼り付いている洗濯バサミを外した。遂に完全に腰巻を剥ぎ取られた忍は頬を真赤に染め、Tバック一枚の裸体をその場に居並ぶ悪魔たちの眼前にくっきりと晒したのである。

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