悪党の真価

 翌朝、栗山の部屋から泣き疲れ腫れぼったい顔をした良美が栗山に縄尻を取られ、緊縛された全裸の姿でフラフラと出てきた。朝方まで栗山の獣欲の餌食にされていた良美は心身ともに疲労の極に有り、歩くのも難儀な状態だった。

 「ほれ、しっかり歩け」

 栗山に背を疲れた良美は腰をふらつかせて歯を食い縛り廊下を歩いていた。

 モニタールームに入ると由里がさっそく声を掛けてきた。

 「あら、めっきり色っぽくなったみたいね。男を知るとやっぱり違うわね」

 そんな事を言った由里に良美の縄尻を預けた栗山は三枝の隣に腰を落した。

 「ゆっくりだったね。楽しんだかい?」

 「ええ、中々いい身体をしてました」

 栗山は満足げな笑みを浮かべてタバコを吸い始めた。寝坊してしまった栗山に残されている時間は余り無いのである。

 「もう、出発しなくてはなりません。最後に妻の顔を見てきます」

 「それはいい。私の件もお願いします」

 「任せて下さい。三日後には必ず弘美の母親を連れてまいります」

 二人の悪党は固い握手をした。

 栗山は祐子の監禁されている折檻部屋に向かった。

 秋の風が心地よい裏庭を通り抜けて栗山が自らの資金を投じて建設したプレハブに入るとそこに設置されているモニターを目を向けた。

 祐子が後手に縛られている裸身を揺すっている。その苦しむ姿に栗山は思わず顔を綻ばせた。女を追い詰めれば追い詰めるほど究極の美がそこに誕生すると思っている栗山だった。

 監禁部屋では昨日から一睡も出来ぬ祐子が喘いでいた。アヌス栓に導尿チューブ、女芯には小型のバイブレーターまで含まされるという言語を絶する辱めを受けている祐子は全身汗に塗れ、凄艶な表情を浮かべこの地獄と戦っていたのだ。

 祐子を最も悩ませているのは一時間に十五分ほど作動するバイブレーターだった。このお陰で祐子は肉体を休ませることが出来ない。また、十五分という時間も祐子にとっては酷だった。達しそうになると動作が終わり祐子にとって狂おしい時間が訪れる。その繰り返しに祐子は心までズタズタに引き裂かれていたのだ。

 「ごきげんは如何だね」

 いきなり栗山が現れたので祐子はそれまで崩していた膝を正して、ピッタリと座りなおした。この自分を悲惨な運命に叩き込んだ頭を下げなければこの状況は打開できないことを祐子は承知していた。

 「お願いです。バイブレーターを外して下さい」

 祐子は栗山に頭を下げて精一杯の哀願の声を出した。

 「そんなに辛いのか?」

 栗山は涙の筋をいくつも滴らせている祐子の顔を覗きこんだ。祐子はここに連れ込まれた当初より頬がこけ、痩せてはいたがその瞳からは魔性のような色気が滲み出していると栗山は感じている。

 「辛いなんて言うもんじゃ、ありません。このままだと食事も喉が通らなくて死んでしまいます」

 必死に訴える祐子を無視した栗山はその裸体の隣に腰を下ろすと無造作に乳首を弄くった。昨日までなら悲鳴を上げてそれを避けた祐子であったが栗山の機嫌を損なうのを恐れてかおとなしくされるがままにされている。栗山は祐子の肉体に変化の兆しが現れたものと思い満足げな笑みを洩らした。

 「良美は僕とも関係を持ったよ。結構、可愛かったよ」

 良美が栗山にも汚されたと知っても祐子は何の反応も示さなかった。自分の事のほうが大事だったのである。

 「ちよっと立ってご覧」

 栗山に促された祐子が貞操帯を締められた惨めな裸体をすくっとその場に立ち上がらせると栗山は大きな溜息を付いた。

 「美しい、美しいよ。その貞操帯が君の美しさを際立たせている」

 こんな恐ろしい仕打ちを女に与えて美しいとのたまう栗山に祐子は言葉が出なかった。しかし、栗山はその惨めな裸体を丹念に調べ、尿がビニールパックに半分ほど溜まっているのを目にして笑いを浮かべる。

 「おしっこが溜まっているね。恥ずかしいかい?」

 栗山の問い掛けに祐子はこっくりと頷いて睫毛を伏せた。人間としての尊厳まで剥奪されている祐子にとって今、栗山に懇願して少しでもましな状態にして貰わねばこの責め苦が当分の間続くことになるのを恐れていた。

 「お願いです。せめて、バイブのスイッチだけでも・・・」

 「判った。そんなに妻に泣かれては僕も弱いよ。先にお礼のキスをして貰おうか」

 栗山が唇を合わすと祐子は大胆にも舌を差し入れてきた。もう、肉の欲に溺れて何もかも忘れ去りたい祐子であった。

 「あっ」

 突然、祐子の身体がガタガタと震え始めた。また、バイブレーターが暴れ始めたのだ。

 「こいつはいけない。すぐ止めてやろう」

 「ま、待って」

 栗山がスイッチを切ろうとするのを祐子は慌てて制止する。

 「一度、往かせて。お願い」

 祐子の思いも寄らぬ要請に栗山は驚きながらも満更でもない顔つきになり、再び、唇を合わすとその乳房を揺るかに愛撫する。待ちかねた刺激に祐子はうっとりとした顔付きになり、中心点の刺激に身体を任せ、情欲を貪り始めた。一匹の牝と化した自分を哀れみながらも祐子は自分を地獄に突き落とした憎い男の手管によって思い描いていた瞬間を迎えようとしていた。

忍の誘拐

 東京に帰りついた栗山はレポートを確認して入念な誘拐プランを考えた。弘美の母、西村忍は二十歳で商社マンの夫と結婚、翌年、弘美を出産している。その後、夫は海外での単身赴任生活が続いており、夫婦共に暮らすのは一年の内、ひと月もないのである。

 忍は日本舞踊の師範の資格を持っており、自宅近くの駅前で舞踊教室を開いている。教室があるのは月水金で誘拐の決行日は金曜日で月末に当る。月末には月謝を納める可能性もある。その現金も期待して栗山はその日は最適だと確信した。

 狙うのは当然、教室帰りの夕刻が狙い目だ。三枝からは薬などを使わずに覚醒したままの忍を誘拐して欲しいと頼まれている。一人娘の弘美の安否をだしに使えばそれも可能だと栗山は確信していた。

 西村忍は自宅までの道を急いでいた。忍は今年、38歳なのだが日本舞踊で鍛えた身体は若々しく、その肌の瑞々しさを保っていた。

 幼い頃より一人娘の故、日本舞踊、生け花、琴と一通りのお稽古事を習った忍は日本舞踊の道を選択し、その師範として大勢の生徒を抱え、舞踊教室を駅前のカルチャースクールで開講するまでになった。

 彼女の頭を占めるのは夏に行方不明になったままの娘の弘美のことだった。一人娘の弘美は頭も良く、明るくてとても素直の子供だった。自分が経験した息苦しさからは解放してやるために敢えてお稽古事はさせなかったのだが高校に進学してからは自分も教室に時たま顔を出すようになり、忍も将来が楽しみに思えてきた先の出来事だった。

 夫が単身赴任をしているため、忍は現場まで出掛けて行ったが教室を持っているため僅かな期間しか捜索に参加は出来なかった。その後、捜索に出向いた不明者の兄とOBの女子大生までも行方不明になり、保護者の間でも不信感が渦巻いているのが現状だった。

 しかし、忍は諦めてはいなかった。今日も何か手掛かりが自宅に入っているのではないかと忍は急ぎ足で自宅への道を辿っていた。

 夕刻にも拘らず鶯色の小袖に茶色の羽織を身に付けた忍の姿は目に付いた。忍が急ぎ足で自宅への角を曲がろうとするのを一人の男が呼び止めた。

 「西村忍さんですね」

 「ええ、そうですが」

 いきなり声を掛けられた見覚えの無い男に忍は訝しげな視線をはせた。

 「私は弘美さんの居所を知っている者です」

 弘美と聞いて忍の表情が一変する。弘美に会えるのかと忍の胸中は昂った。

 「弘美は無事なんでしょうか?会わせて下さい」

 「ええ、無事です。この写真をご覧下さい」

 取り乱し始めた忍の手に男は写真を握らせた。それは栗山が撮影してきた裸の弘美が胸を覆っている写真だった。

 「どこに、どこにいるのですか?」

 男は栗山だった。栗山は獲物が餌に引っ掛かったのを確信して車に案内した。

 「弘美さんの元にお連れします。乗って下さい」

 「家族に連絡を取らせて下さい」

 このまま男の言いなりになる事に懸念を覚えた忍が躊躇すると栗山は首を振った。

 「時間が有りません。それがお嫌ならこの話は無かったことにします」

 栗山が車に乗り込もうとすると忍は縋るような声を出した。

 「判りました。参ります」

 見たこともない写真を持っている男は弘美の行方を知っている。突然、現れた手掛かりを忍は失いたくなかったのだ。

 「ではどうぞ」

 忍が乗り込むと車すぐさま走り始めた。

 薄暗い車内でも忍の美しさは際立っている切れ長の瞳、ふっくらとした頬、程よい高さの鼻、バックミラーで垣間見ながら大野は忍の裸体を想像して隠微な笑みを洩らすのであった。

 「奥様。これをして下さい」

 栗山が目隠しを差し出すと忍は躊躇した。

 「これをしないといけませんか?」

 「ええ、すぐに車から降りて戴きます」

 忍は仕方なくアップに巻かれた髪の上からそれを被った。

 「携帯電話をお預かりします」

 忍はバッグを開けると携帯電話を取り出し栗山に渡した。もう、男の言いなりになるしかないと忍は覚悟を決めた。バッグには今月分の月謝、三十万円近くが入っていた。無事な弘美と会えるならそんな金も惜しくは無い忍だった。

 見事に新たな生贄を獲得した栗山と大野は三枝のある高原を目指していた。

 「どうぞ、目隠しを外してください」

 栗山に促され、車から降りた忍が目隠しを外すとそこは暗闇が支配する静寂の世界だった。

 「この屋敷に弘美さんはおります」

 栗山に案内された忍が玄関に入ると三枝が待ち構えていた。

 三枝は忍の姿を目にするなり余りの美しさに言葉を失った。絵から浮き出てきたような人物と表現するのが適切であろう。気品が有り、そして、色気がある。見た目には三十前と言って通るほどの若々しさを三枝は感じるのであった。

 「お邪魔します。西村忍と申します」

 急いている忍であったが礼儀正しく三枝に頭を下げた。

 「当主の三枝と申します。どうぞ」

 三枝は照れながら忍を応接間に招きいれた。

 「さっそくですがこちらに私の娘の弘美がお世話になっていると聞き、お邪魔させて戴きました」

 「ああ、弘美さんですね。いらっしゃいますよ」

 「会わせて下さい。弘美に会わせて下さい」

 急に感情が込み上げてきた忍が涙を浮かべながら訴えると三枝はドギマギした態度を見せた。

 「ええ、ちよっとお待ち下さい。弘美さんはお風呂に入ってますから」

 三枝は慌てて応接間を抜け出したが入れ替わりに由里がお茶を持って姿を現した。忍はその女が失踪した女子大生だとは知る由もなかった。娘の身を案じる忍に魔の手は迫りつつあった。

祐子の解放

 その頃、栗山は大慌てで折檻部屋に駆け付けていた。由里から祐子が苦しがっていると聞いたからだ。それに折檻部屋は忍が監禁されることになり祐子をここから運び出さねばならないのだ。

 「祐子。大丈夫か」

 ドアを開いて室内に駆け込むと祐子が苦悶の表情を見せて縛られた裸体で床の上にのた打ち回っていた。

 「あ、あなた。早く、外して」

 「よし、待ってろ」

 祐子を立たせた栗山は素早く鍵を廻して貞操帯を取り外した。きつい臭気が栗山の鼻腔を襲った。

 「洩れてのかな?」

 「そんな事、どうでもいいでしょう。早く、早く」

 祐子はじれったさを通り越して怒りさえ感じている。腰を振って、栗山を催促する祐子であった。しかし、ここまでくれば安心だと確信した栗山はわざとゆっくりした動作で祐子を苦しめ始めた。

 「随分、お腹が張ってるね。苦しいでしょう」

 「ああ、早く、外してよ」

 腹部を隠微に撫ぜ廻す栗山の行動に祐子は激しい声を出した。

 「まあ、ゆっくりしようよ」

 栗山はバイブレーターを引き出し、尿道チューブを外し、祐子の裸体を鑑賞した。下腹が異様に突き出ている。その中身を想像して栗山は心が躍るのである。

 「お願い。苦しいのよ。我慢できないのよ。出したいのよ。あなたお願い」

 祐子は縋るような視線で栗山に哀願を繰り返していた。

 「慌てる事はないだろう。約束どおり三日で戻ってきた僕に感謝を示して欲しいね」

 「な、何をすればいいの?」

 「それは奴隷女の感謝の気持はおしゃぶりだろう」

 訴えるような瞳で祐子が尋ねると栗山は事も無げに言い放った。

 もう、下半身が痺れ始めている祐子はそんな行為をしなければならないことに涙ぐんだ。しかし、それをしない限り栓は抜いてもらえないのだ。

 「判ったわ。早く、ご馳走して」

 祐子が腰を落とすと栗山は手早く裸になりその前に立った。栗山は忍の追い込みの場にも立ち会いたいため時間が惜しかったのだ。

 「さあ、最速でやっていいよ。遠慮しなくいい」

 栗山に言われるまでもなく祐子はそれを口に含むと急調子で愛撫し始めた。一刻も早く、この苦しみから脱したい祐子は必死に愛撫した。

 「気持いいよ。上手じゃないか」

 栗山が祐子の一途さに破れたのはそれから間もなくだった。

 「さあ、早く、抜いて」

 唇の端から白濁を滴らせている祐子は栗山に尻を向けて催促した。

 栗山が便器を宛がい、栓を抜くと溜まりに溜まっていた内容物が一気に吐き出されてくる。

 「あ、ああ」

 その余りに解放感の心地よさに祐子は眩暈を感じるほどだった。栗山はこの女の全てをコントロール出来た満足感に浸っている。悪魔たちによって祐子の心と身体は作りかえられようとしていた。

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