二度目の放尿

 「もう、腕も足も辛い状況だろう。早く見せて休みたまえ」

 栗山に言われた祐子はがっくりと首を垂れた。栗山の言葉どおり、腕は痺れきり、足にも立っているのがやっとの状況の祐子は早く腰を落としたかった。しかし、その前に栗山は羞恥の姿を露呈することを要求していた。

 祐子が逡巡していると大野がそわそわしだした。大野は縛り上げて部屋に残してきた由希のことが気がかりなのだ。

 「私は先に失礼させて貰います。由希ともう一回しなければなりませんので」

 三枝と栗山は苦笑して大野を見送るとタイルの上にどっかと腰を下ろして祐子の立居放尿を見物する体勢に入った。

 「今はしたくないわ」

 祐子は振り絞るような声で訴えた。

 「なら、朝になってもこのままの状態だな」

 栗山はせせら笑うだけで祐子の言葉を無視すると三枝と談笑を始める。祐子はそんな姿を露呈しない限り、この責苦が永遠に続くことに絶望した。

 無理をしてでも出さなければ。祐子は下半身に意識を集中してななんとか排尿しようと悲壮な努力を開始するのであった。

 しかし、簡単に尿意は込みあがって来ない。祐子は太股をすり合わせ、悔しい状況に歯を噛み鳴らすのであった。

 その時、ドアが開いて素っ裸に剥かれた良美が前手錠の姿で中に転がり込んできた。

 「えっ」

 祐子は我が目を疑った。栗山が指一本触れないと約束して連れ出された良美が全裸にされて泣きながらこの部屋に戻ってきたからだ。

 「ど、どうして、良美さんが・・・」

 自分を恥辱に塗れさせるため、栗山が騙したと知った祐子は胸が溢れそうになり、抗議の言葉を詰まらせてしまう。

 「お姉さん」

 全裸の姿を栗山に抱きとめられている良美は依然として晒し者にされている義姉に助けを呼んだ。しかし、騙されたと知っても祐子にはどうすることも出来ない。悔しげに唇を噛み締め、栗山の顔を睨みつけるだけであった。

 「僕は彼女に風呂に入れてやったんだ。汚れた服を着るのが嫌だろうから裸で来て貰っただけさ」

 嘯く、栗山に祐子はキリキリと奥歯を咬み鳴らし憤怒を噛み殺している。この墳辱は例えようが無かった。自分の身を犠牲にしてまで守ろうとした良美が素っ裸にされ栗山の腕の中で悶えているのだ。

 「もうすぐお義姉さんが立小便をしてくれるよ。それを見物して笑って上げようね」

 栗山はそんな事を良美に言いながら上目遣いに祐子の怒りを滲ませたを顔を見上げては笑っている。

 「君もしてみるかい」

 遊び心を発揮した栗山が良美の両太股に手を掛け、大きく広げると二人の女から同時に悲鳴の声が沸いた。

 「栗山さん。悪ふざけは止して。私が笑い者になればいいのでしょう」

 柳眉を吊り上げ、栗山に啖呵を切った祐子では合ったが、良美の前にまでそんな姿を露呈することに胸は高鳴り、耳まで真赤に染めるのであった。

 それでも二人がこの状況から逃れ、悪魔たちの目から一時的にせよ解放されるには放尿するしかないと覚悟を決めた祐子はじっと足元の洗面器に目を注いだ。

 微かな水音が響き渡り、祐子が嗚咽の声を発すると男たちからどよめきが起こった。

 「おお、始めたぞ」

 三枝は身を乗り出し、足元の洗面器と羞恥に打ち震える祐子の顔を交互に見ながら驚きの声を放つのであった。

 栗山は良美の顎を掴み、視線を固定すると自分もその放尿図を堪能している。祐子の羞恥に悶える姿は予想通りの興奮を栗山に与えている。長年、夢見ていた光景がまた一つ実現された瞬間でもあったのだ。

 やがて水音は弱くなり、祐子の放尿は終わった。

 「随分、溢しちまったな」

 栗山は立ち上がると放尿を終え、呆然としている祐子の肩を叩いて笑いを浮かべた。洗面器には僅かな量しか入っておらず、残り大部分はタイルの床に排出されたのだ。

 「どれ、後始末をしてやろう」

 栗山がティッシュをその部分に宛がって擦り付けるとそれまで表情の無かった祐子の頬に赤みが差し、その羞恥に眉を寄せるのであった。

 水を出してタイルの汚れを流した栗山はようやっと祐子を解放した。

 タイルの上に腰を落した祐子は両手で胸を覆うと身体を縮め、声を潜めて泣き始める。昨日までの幸せな自分はどこへ行ってしまったのだろう。身に付ける一辺の布も許されぬ祐子は運命を呪うかのように悔し泣きを続けていた。

 「両手を前に出せ」

 栗山に言われた祐子が両手を前に差し出すとガチャリと手錠が掛けられた。

 「よし、朝までぐっすりと寝るんだ」

 二人に薄い毛布を与えた栗山と三枝は意気揚々と監禁部屋を出て行った。残された二人の女の涙を流す声だけがタイル張りの部屋に反響しているのであった。

栗山の求婚

 監禁部屋の中では祐子と良美が一睡も出来ぬ朝を迎えていた。しかし、この窓の無い部屋ではいつが朝なのか二人にも判らない。

 暖房が入れられたらしく寒さはさほど感じなくなった二人だったが心の中は寂寥感で一杯であった。

 「お姉さん。わたしたちどうなるのかしら?」

 良美は幾度と無く同じ質問を祐子に投げ掛けた。その度に祐子の励ましを受けるのだが良美はすぐに心細くなってしまうらしくまた同じ質問する。

 祐子には自分が犠牲になって良美を守るとしか言えなかった。

 何時間ぶりかに鉄の扉が開く音がして二人は身体を固くした。

 姿を現したのは栗山と留美、そして、恵子であった。留美と恵子はジーンズの上にシャツを身に付けていた。涼しくなったので屋内での接待以外、この格好を三枝は許していた。

 「祐子、お早う。君たちの世話をしてくれる、留美と恵子だ。言うことを聞くんだよ」

 祐子と良美は毛布で胸を覆いながら恐れを含んだ視線を若い二人の女に注いでいる。

 「あんたたち、黙っていちゃ失礼じゃないか。立ち上がって私たちに挨拶をしなよ」

 留美堂に入った声を出して二人を見回した。

 祐子は良美を促して立ち上がると二人を前にして自己紹介をするのだった。少しでも反抗の姿勢を見せれば良美を嬲り者にすると栗山が脅すことは目に見えている祐子は彼らの言いなりになるのだった。

 「倉田祐子。28歳。人妻です」

 「あんた、奥さんなんだ。28歳には見えないね」

 留美は嫉妬じみた視線を祐子の全裸像に注いで鼻で笑うような言葉を吐いた。

 「そっちの大きい方は何ていう名前だい?」

 留美は祐子の背後に隠れるようにして立っている良美を指差した。

 「倉田良美。23歳。独身です」

 「大きいくせに声は小さいね。これからは元気良く返事をしなよ」

 留美は良美のことをあまり気にも留めない様子だった。

 「さて、今日からあんたたちはここで暮らすわけだけど。食事はここに運んであげる。水は飲み放題でいいね。おしっこだってここで出来るよね。だけど大きい方はしちゃ駄目だよ」

 「トイレに行く自由も与えられないのですか」

 自分の言葉を遮るように祐子が口を挟んだことが気に入らなかったのか留美は祐子に近寄るとその頬を叩いた。

 「何で叩かれたかわかるかい?人の話を最後まで聞かないからだよ」

 留美の話しっぷりは高校生とは思えぬほど堂に入っている。そして、祐子を震え上がらせるほどの貫禄も合った。

 「奴隷たちにはトイレを自由に行かせるルールは無いんだよ。私たちに許可を取る事だね」

 留美は祐子に対して明らかに嫉妬を覚えていた。28歳という年令とは思えぬほど肌の張りやきめ細かさ、叙情的な雰囲気を感じさせる顔立ち、完璧といって良いほどのボディライン、全て自分を上回っていると留美は感じていた。

 「さあ、栗山さんは朝、ご出発なさるんだ。その前に祐子とお風呂には入るんだ。さあ、祐子おいで」

 留美は10歳も年上の人妻を呼び捨てにした。栗山は留美が祐子を目の敵にして虐めるような雰囲気を頼もしく思っていた。祐子は悲惨な状況に追い込まれれば自分を頼るしかなくなる。自分に心を開く日も遠くはないと栗山は思うのであった。

 留美は祐子を厳しく後手縛りに仕上げると背中を突いた。

 「さあ、お歩き」

 モニタールームを抜け、留美がそのまま戸外に連れ出そうとすると祐子は出口で足を止めた。

 「何か着るものを頂戴。このままで外に連れ出すつもりなの?」

 またしても祐子は留美の平手打ちを食らった。

 「あんたには情けを掛けちゃいけないって言われてるんだ。つべこべ言わずにお歩き」

 少女に言い様にあしらわれ、祐子は悔しさを堪えて裸足のまま庭に降り立った。

 朝の高原に吹き抜ける風は身を差すほど冷たかった。祐子は惨めな自分に溢れそうになる涙を必死に堪えていた。

 母屋では松井と塩野が祐子を待ち受けていた。

 全裸で祐子が引き立てられてきた事に二人は歓声を上げている。

 松井が祐子の足を拭って母屋に引き上げたところで留美が険しい声を上げた。

 「足を拭いてもらったら礼ぐらいするのが礼儀だろう」

 「有難うございました」

 祐子が深々と頭を下げると松井はその顎を掴んで自分の方を向かせる。

 「俺は松井って言うんだ。ここでは奴隷たちの面倒を見てる。こいつは塩野だ。お前たちの食事も作ってる。宜しくな」

 半ば脅しながらの自己紹介を受けた祐子は生きた心地もしない。がっくりと項垂れた祐子は脱衣所をそのまま通り抜け、湯に浸からされた。

 「僕はもうすぐ東京に戻る。君はここで僕と結婚をする準備をしてくれ」

 祐子は隣に身体を密着させ、乳房を揉まれながら栗山に言われると声を震わせた。

 「私の身体が目的なら早く、奪えばいいのよ。私は抵抗したりしないから」

 祐子が涙を浮かべて訴えても栗山は笑みを見せるだけであった。

 「祐子の心が欲しい。君に心底、愛されないと意味が無い」

 祐子ははっとして栗山の顔を見た。自分を誘拐して幸せな生活を無茶苦茶にした男を愛せと栗山は言っているのだ。

 「む、無理よ。あなたとの関係は5年前に終わったのよ。私は人妻」

 祐子は涙を浮かべて栗山を見上げた。

 「まあ、時間はたっぷり有る。三日後に再び、ここを訪れる。その時までゆっくり考えていてくれ」

 「ま、待って」

 栗山が風呂から上がろうとするのを祐子が止めた。

 「良美さんはどうなるの?あの人だけでも助けて上げて、あなたの目的は私だけなんでしょう」

 「ああ、確かにそうだ。しかし、彼女は色々なことを知り過ぎた。いずれ、奴隷の群れに入って貰う」

 栗山は事も無げに祐子に告げると洗い場に上がるのだった。

 それから暫くして栗山は松井の運転する車で駅へと向かった。栗山は詳細な祐子に対する指示書を三枝に託していた。

由里と絵里

 留美と恵子は祐子たちに食事を出し終えて、母屋に向かっていた。

 「ねえ、先輩。あの祐子って言う女、何か頭に来ますね。綺麗で色気もあって」

 恵子は留美が必要以上に祐子を叩くので自分も同調したように振舞っていた。しかし、留美は意味ありげな笑いを浮かべて恵子を見る。

 「栗山さんに頼まれたのさ。祐子を厳しく躾けてくれってね。私自身もあの女は気に入らないけどね」

 「なんだ。そんなんですか。そうそう、絵里と由里が三枝さんのモデルになってるのよ。ちよっとと覗いて見ない?」

 恵子と留美は楽しそうに笑いながら母屋の中に消えた。

 二人がアトリエに入ると後手に縛られた絵里と由里がロープに支えられた裸身を背中合わせにして洗面器の上に腰を落としている光景が飛び込んできた。

 由里は留美の恨みを買って以来、松井や塩野に自ら誘いを掛けるような行為を慎んでいた。

 絵里は幾分、明るさを取り戻し、皆を励ますような態度を再び、取るようになっていた。

 「お尻をくっつけるまで近づいてくれ」

 三枝の命令で二人は幾分、後退し、互いの臀部を擦り合わせた。

 「良し、二人とも前を向け。そのまま、動くな」

 二人にポーズを付けた、三枝は一心不乱に絵筆を動かし始める。彼が一番真剣な目をする瞬間だった。

 留美は由里に近づくとその悔しそうに歪む顔を覗きこんだ。

 「由里先輩。迫真の演技ね。もう、おしっこする位、恥ずかしくも何とも無いでしょう」

 言われた由里はちらっと留美に刺すような視線を送ったがそれは再び閉じられた。留美に恨み言を言っても自分に難儀が降りかかるだけたという飽きらめがあった。最近はなるべく目立たず、奴隷の群れの中で生活をしている由里であった。

 留美は今度は絵里の前に廻るとその無表情な横顔に視線を注いだ。

 「絵里。もっと、悔しそうな顔をしなさい。三枝さんの絵にはそんな顔はそぐわないわよ」

 留美に言われた絵里は眉を八の字に寄せるとしっかりと目を閉じた。

 「よし、合図をしたら一斉に放水するんだ。いいな」

 アトリエに三枝の声が響き渡ると留美は邪魔にならないように退いた。

 「用意。はじめ」

 三枝の号令と共に二人の少女は放水を開始した。

 洗面器の底を叩く水音に混じって、絵里のすすり泣く声が混じっていた。何度も強制され、衆目の視線に晒している行為でもやはり乙女の羞恥心拭えないのか絵里は耳を染め、泣き声を上げながら放尿を続けていた。

 由里は唇を噛み締めたまま感情を押し殺すような表情を浮かべたまま放水を続けている。いくら辛くても留美の前では絶対に涙を流すまいという由里の決意の表れだった。

 三枝はそんな二人の姿を眼にしても表情一つ変えず、一心不乱にキャンバスと向き合っていた。

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