栗山登場

 大野が栗山の運転するワンボックスカーで現れたのは三日後の三時前だった。

 栗山は長身でメガネを掛けた痩せた男だった。

 「お招きに預かり有難うございます」

 栗山は礼儀正しく三枝の両手を握って握手をした。

 「いらっしゃいませ」

 留美と恵子が相次いで歓迎のキスをすると栗山は首筋まで赤く染った。

 「まあ、これは溜まりませんな」

 二人のコスチュームを見て栗山は照れた笑いを浮かべるのであった。今日の二人は黒の褌の上に短く切ったTシャツを身に着けている。腰に付けたアクセサリーの鎖を見せる配慮でより肌を露出する形になっていた。

 「やあ、元気そうじゃないか」

 大野が留美に言うと留美は早くも腰に手を廻し鼻に掛かった声を出した。

 「今度は抱いてくださらないの?」

 「ううん。予定があるんでな」

 「だったらおしゃぶりだけでもいいからさせてよ」

 留美に一物を刺激され、大野は早くもたじたじである。

 二人の女に腕を取られて大野と栗山は屋敷の中に消えて行った。

 二人はまずアトリエを訪れた。さっそく作品を選び出すので有る。

 栗山はそこにある全ての絵が欲しいと言い出したが大野が先日の絵里の陰核吊り上げの作品だけは自分が欲しいと言い出し、栗山が折れる形になった。

 続いて栗山はモニタールームに赴いた。大野は留美の誘いを断りきれず夕食前に一戦交えることになったらしく、姿を消していた。

 「ここがモニタールームです。奴隷たちの様子が手に取るように判ります」

 栗山の目は輝きを増し、モニターに写る少女たちを食い入るように見つめていた。今日は全員が褌を締め地下に下ろされている。

 「排尿とか脱糞とか中でするんですか?」

 「勿論ですよ。最初の頃は便器を与えていませんでしたから垂れ流しでした」

 「見せて下さい」

 栗山の勢い込んだ要請に三枝は苦笑するとキャビネットを開いた。

 そこには整理されたビデオテープが並んでいた。

 「これがダイジェスト版です。放尿、排便ですが私がここにいない時はアップとかの撮影は出来ませんから」

 「お借りします」

 栗山はそれをひったくるように受け取ると立ち上がった。

 「部屋にはビデオは有りませんよ。テレビは有りますが」

 「車に積んで有ります」

 「夕食は6時ですからその時間までには食堂に入らして下さい」

 栗山は返事もそこそこにモニタールームを後にすると自分の車に向かった。

徹の試練

 アトリエに奴隷たちが膝を折って座らされている。 これから客人に紹介されると聞いて、皆、緊張の面持ちだ。指名されたものおとなしく客人に抱かれなければならない。彼女たちの暗い気分はそれだけではない。この場で誰か一人が生贄に供されると聞かされていたのだ。

 三枝に先導されて二人の客人が入って来た。奴隷たちは頭を下げるように言い渡されていた。

 「よし、皆、よく聞け。ここにいるお二人は私の大事な客人だ。お前たちは指名されたら言い付けを良く守るように。一人ずつここへ来て一回転して身体を見てもらう」

 美加子は立ち上がると前手錠に褌一枚の裸体を大野と栗山の前で一回転して見せた。

 「先生ですね」

 栗山は新聞の写真を覚えているらしく三枝に囁いた。

 由希が伏目がちに一回転すると大野の瞳が怪しく光った。

 最後の由里が裸体を見せて奴隷たちの品評会は終了した。

 「あの子は何故、赤い褌なのですか?」

 栗山が一人だけ褌の色が違う麻美を指差すと留美がにこやか笑いながら口を開く。

 「生理日の子は赤い褌を身に着けさせます。ご要望と有ればお部屋にお連れしますよ」

 「なるほど」

 栗山が納得したように頷くと三枝が立ち上がって由希を呼び付けた。

 「由希。お前が今日の主役だ。しっかり、務めろよ」

 由希は慄いている暇も無く、手錠を外されると後手に縛り上げられ天井から伸びるロープに吊るされた。

 大野を呼び寄せた三枝は由希の前に立たせた。

 「お久し振り、お嬢さん」

 大野に言われて由希の表情が変わった。二年前、絵画のオークション会場で父に殴りかかった男を思い出したからだ。

 「あの時の大野です」

 大野は嫌らしい笑みを浮かべて由希の全身を嘗め回すように見つめるのだった。

 大野と由希の父の梶間は同じ画商でオークション会場で良く顔を合わせていた。ある画家の作品巡って二人は良く激突した。梶間が常に高値で落札し、大野の信用は失墜の一途を辿っていた。そんな時に顧客に頼まれて臨んだオークションで大野はまたもや梶間に競り負け、前述のような行動に打って出たのであった。

 それ以来、オークションから締め出された大野は三枝のような売れない画家の絵を並べては細々と画廊を経営するしかない日々が続いていた。

 梶間の娘を蹂躙して昔日の恨みを晴らそうとしても無理からぬ話であった。

 「ち、父は関係有りません」

 由希は憎い男から少しでも裸身を隠そうと横を向いて口を開いた。

 「関係あるでしょう。お兄さんまでいなくなって、あなたのご両親は毎日、心配している筈ですよ」

 大野はねちっこく話しては由希を震え上がらせていた。

 「私と結婚して戴きたいのです」

 「何を言ってるんです。馬鹿な事、言わないで」

 唐突にとんでもない事を言い出した大野を由希は蔑んだような目で見つめた。

 「嫌ですか?」

 「当たり前でしょう」

 由希は怒りを滲ませた目で大野を睨み付けた。この娘は怒った顔をすると美しさが引き立つなどと大野は思っていた。

 「では三枝さん。次の手をお願いします」

 大野は由希の前から退くと、栗山と並んで長椅子に座って成り行きを見物し始めた。恵子と留美が二人の横に座り、密着サービスを励行していた。

 「おい、歩け」

 松井と塩野に背中を押されて徹がアトリエに入ってきた。十日近くも寝たきりに似た生活を強制されていた徹は足腰も弱り、フラフラと歩いている。また、素っ裸にされた生活が続いているため精神的にもかなり追い込まれた状態に徹はなっていた。

 徹も妹と同じように後手に縛られ天井から伸びるロープに吊るされた。

 三枝は徹の前に立つと悔しそうに歪む若者の顔を見上げた。

 「どうだ。地下室の住み心地は?毎日、若い女の裸を見て過ごすのも悪くないだろう」

 「な、何を言う。お前なんか地獄に落ちろ」

 喉を締め付けられているため徹は相変わらず囁くような声しか出ない。それでも精一杯の悪態を付いたつもりだった。

 「そんなものを丸出しにして偉そうな事を言っても様にならないぞ」

 三枝に股間の一物を指差され、笑われると徹は悔しげに下を向いてしまう。

 「美加子、お前の指と舌で徹を往かせてやれ。ザーメンはこれで受け止めろ」

 三枝に口の大きいビンを手渡された美加子は拒否できる通りはない。徹の前に跪くと何の躊躇いも無くそれを手に取り、優しく愛撫する。

 「止めてくれ。先生」

 徹が身を捩って訴えると松井が背後から腰を押さえ込み身動きを封じてしまう。

 「ごめんなさい」

 美加子は呟くように詫びると硬度を増してきたそれをすっぽりと口に含み、激しい愛撫を開始する。徹は目を閉ざしてその感触に耐えようとした。しかし、生身の人間が相手ではその努力は虚しいものになる。

 美加子の荒々しい愛撫に徹が敗れたのは間もなくだった。

 微動だにせず徹の迸りを処理した美加子が退くと絵里が呼び寄せられた。

 「次はお前だ。徹をしゃぶり尽くしてやれ」

 以前なら逡巡の姿勢を見せた絵里であったが悪魔たちの容赦を許さぬ折檻を思うとそんな態度を見せるわけには行かなかった。

 まだ、熱気の冷めやらぬ徹の一物は再び、絵里の口に含まれ、情念を昂らせる結果となった。

 三枝は含み笑いを浮かべ、由希の傍らに戻るとその顔を覗き見た。

 「兄さんを辱めるのは止めて」

 「兄貴を助けたければ大野との結婚を承諾することだ」

 三枝の言葉を聞いた由希は唖然とした表情を浮かべた。兄を辱めることで自分を脅迫する悪魔たちの狡猾さを信じられない気持ちで由希は受け止めていた。

 「何回でも絞りつくさせるぞ。いいのか?」

 徹は絵里によって二度目の迸りをビンに受け止められてるいるところだった。

 大野はその残酷な光景を栗山と並んで見物していた。徹の身体を痛め付け、由希の心を追い詰める大野は梶間に対する復讐なんだとその行為を正当化していた。

 「ねえ、私もしたくなっちゃった。いいでしょう?」

 恵子に甘えられるように訴えられた栗山はデレッとした顔を見せて頷いた。

 恵子の舌触りを楽しみながら栗山は地獄の光景に目を凝らすのだった。

 「止めて、麻美」

 不意に由希が激しい声を放った。4人目の赤い褌の麻美が兄に手を掛けたからだ。

 「もう、兄ちゃんを虐めるのを止めて」

 由希が泣きじゃくりながら訴えても麻美はその手の動きを止めなかった。悪魔たちの命令に逆らうことは自分に矛先が向くことを麻美は承知していたのだ。

 徹は悔し涙を流していた。何の感情も抱かなくても刺激によって反応してしまう男のメカニズムを呪っていた。

 三枝は冷酷な目でその光景を眺めていた。大野の結婚という言葉を聞いたとき、力ずくで犯すだけでは結婚にならないとは思い、本人を承諾させるためにこのゲームを考え出しだのだ。

 「もう、止めて、結婚を承諾します」

 由希は遂に観念した。このまま続けたら兄の命が絶たれるまで悪魔たちがこの残酷なゲームを止めないと思ったのだ。

 「よし、結婚するんだな」

 三枝が肩に手を置いて再度、確認すると由希はこっくりと頷いた。

裸の花嫁

 アトリエでは結婚式の準備が行なわれていた。留美と恵子の手によって椅子に座らされた由希が美しく化粧させられている。由希は涙を流している。処女を捧げる男がよりによって父に暴力を働いた憎い中年男なのである。捕われて今日まで陵辱を受けなかった由希の希望は完全に閉ざされようとしていた。

 「泣いちゃ駄目だよ。せっかくの化粧が台無しだろう」

 溢れ落ちそうになる涙を留美に拭われた由希は寂しげに頷いて見せた。

 「さあ、立ちなさい」

 俯いた由希を留美が立ち上がらせると三枝が例の鎖を手渡した。

 「花婿のお好みの姿にしてやんな」

 それを受け取った留美はさすがに難色の色を浮かべる。

 「こんなもの付けたら、また、泣いちゃうよ」

 「構わないぜ。花婿がお望みだ」

 「そう、仕方ないね」

 留美は溜息を付くと由希の褌をせかせか解きだした。

 素っ裸にした由希に悪魔の鎖が取り付けられる。それを思うだけで大野の胸は妖しくときめき始める。

 「本当は剃り上げてから嵌めるんだけど由希は薄いから大丈夫だね」

 鎖を腰に巻き付けながら申し訳程度にしか生えていない恥毛を見て笑うのであった。

 それまで呆然とした表情で悪魔たちの所業に身を任せていた由希であったがさすがに陰核を締め上げられる辱めに悲鳴を放ち身体を揺するのだった。

 「何で、こんな事をするの?」

 頬を朱に染めて身悶える由希は涙を浮かべて留美を見た。そこ締め付けられる辛さ、恥ずかしさは由希を想像以上に苦しめている。

 「あんたのだんなさんになる人のお望みなのさ。つべこべ言わずにお歩き」

 留美に背中を押された由希はつんのめるようにして前に進み出た。

 大野と並んで立たされた由希の頭部にベールが掛けられ、裸の花嫁衣裳は完成した。

 「そうして並ぶとお似合いのカップルよ。でも裸の花嫁って刺激的ね」

 恵子は俯いたままの由希を茶化しては大野と顔を見合わせた。大野は満面に笑みを湛え、惨めな花嫁姿の由希を眺めるのであった。

 神父役に扮した三枝が二人の前に進み出た。手には聖書ならぬ手書きの台本を手にしていた。

 「いいかい、三枝さんがあんたに質問するから全て、ハイ、誓います。って答えるんだよ」

 留美が小声で由希の耳に吹き込むと由希はこっくりと頷くのであった。留美の言葉には剣が含まれており、言外に言わなければ徹を辱めるという脅しが込められていた。

 三枝は一つ咳払いをすると口を開いた。

 「大野巧、汝は梶間由希を妻とし、生涯、変わらぬ愛を誓うか?」

 「はい。誓います」

 大野は即座に答えた。

 「梶間由希、汝は大野巧を夫とし、生涯、変わらぬ愛を誓うか?」

 「はい。誓います」

 由希の言葉は震えていた。

 新婦への質問は更に続いた。

 「梶間由希、汝は夫、大野巧の求めに応じ、常に夫の目の前で大小便をすることを誓うか?」

 三枝の珍妙な質問に松井と塩野が腹を抱えて笑い始めた。

 由希は笑えなかった。なんでこんな事を誓わねば成らないのか理解に苦しんでいた。

 「さあ、誓いますって言うんだよ。兄貴がどうなってもいいのかい?」

 留美は由希の尻を抓って返事を促した。由希は相変わらず惨めな晒し者になっている徹の方を見た。兄を救えるのは自分しかいないと悲しい決意を固めた由希は涙を流しながら不条理な宣誓をしなければならなかった。

 「はい。誓います」

 「梶間由希、汝は夫、大野巧の求めに応じ、常にクリトリスを鍛え、敏感にすることを誓うか」

 「はい。誓います」

 もう、由希は全てを受け入れるしかないと感じ、自棄に成ったように大きな声で答えた。

 「それでは熱いキスを交わしなさい」

 三枝の言葉を待ちかねたように大野は小さな裸身を抱きしめると由希の唇を求めた。由希の脳裏を激しい嫌悪感が一瞬、掠めたが大野にぴったりと唇を塞がれてしまうとそれは悲しい諦めへと変わって行った。

 濃厚なキスを終えると由希の裸体はバラ色に色づき始めていた。

 「これで二人が結婚したことを認めます」

 三枝が締めくくると悪魔たちの間から拍手が沸き起こった。

 「それではさっそくベッドインしてきます」

 大野は照れたような笑いを浮かべると惨めな花嫁の背中を押して、拍手の中、アトリエを後にするのだった。

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