画商登場
翌日、画商の大野が訪れたのは昼過ぎであった。大野は髭を生やした長身、痩躯の中年男で、三枝とは十年来の付き合いで彼の作品を自分の画廊で売り捌いていた。三枝からの連絡を貰った大野はあまり売れない彼の作品をこれ以上増やしたくはなかったが高原の空気を吸いがてら冷やかし半分のつもりでここを訪れたのである。
「若いのを二人も抱えて景気が良さそうじゃないか?」
大野は応接間のソファに腰を下ろすと迎えに来た松井と塩野の存在を意外に思って、尋ねた。
「いや、そんなんじゃないんだ。それより、今日はゆっくりして行けるんだろう?」
「ああ、一泊するつもりで来た。ここの空気は美味しいからな」
大野は土産のウィスキーを三枝に差し出した。
「有り難く貰っておくよ。最近はあまり飲まないけどな」
三枝はみやげ物を受け取ると大野にタバコを勧めた。
「タバコは止めたんだ。そういえばお前、少し、痩せたな」
「そうか気が付かなかった」
連日の作品作りと女たちの世話で彼自身も忙しかった事を思い出した。
「さて、最初はビジネスだ。見せて貰おうか?」
大野が立ち上がったので三枝はアトリエへと案内した。
「随分、描いてるな」
アトリエの中を見回した大野はそのおぞましい三枝の作品を見回して溜息を付いた。
彼は十数点ある作品群の中から四点を選び出した。
「もっと、買ってくれよ」
「うちもスペースが無いんで、この程度で勘弁してくれよ」
大野は素っ気無く言うと金を取り出し、三枝に渡した。買値はいつも通りだった。
「倍の値段で買ってくれないか?」
「何、言ってるんだ。うちだって道楽でやってんじゃないぜ」
大野はいつになく強気な三枝に呆れ果てていた。
「買値は明日、決めてくれ。一応、これは返しておく」
意味有り気な笑みを浮かべて札を付き返した三枝を見て大野は何か企んでるなと直感した。しかし、自分の画商としての計算に狂いは生じさせない自信が彼にはあった。
「ちよっと散歩をしないか?」
大野は三枝に促されアトリエを後にした。
生贄選択
地下室は普段以上の熱気に包まれていた。地上組も押し込められ、9人の吐く息が充満し、臭気もそれに加わり、息苦しさは並大抵のものではなくなっていた。
地下に降りた松井と留美はその余りの息苦しさに閉口した。
「おい、エアコンを廻してくれ」
塩野がエアコンのスイッチを入れたため、その熱気は幾らか緩和されることになった。
「先生。出番だぜ」
松井が美加子の手を引き起こしたが美加子は力なく松井の腕に倒れこんでしまった。
「おい、どうしたんだ」
「先生は熱があるみたいなの?何か着せて布団に寝かせてあげて」
絵里が訴えると松井はその額に手を当て、美加子の体温に驚いた。
「こいつはいけねえ。先生をここから出そう」
松井が美加子を抱いてゴンドラに乗ると留美は地下室をぐるりと見回した。大野の宴席の肴に美加子を供する予定が狂い、他の生贄を物色していたのだ。
「ねえ、先生の面倒を者が必要だわ。私も上に上げて」
絵里が心配顔で訴えたので留美はニコッと笑った。メンバーの中で一番、真面目で責任感の強い絵里はこの劣悪な環境の中でも普段通り振舞っているただ一人の生徒だと言えた。その絵里に衝撃を与えることはむしろ理に叶っていると留美は思うのであった。
「そうね。絵里には先生の代わりをお願いするわ。それに麻美、あなたは先生の面倒を見て上げて」
二人は相次いで地上に送られた。
松井と留美は三人を連れて松井の部屋に入った。
美加子をベッドの上に落した松井は自分のパジャマをその裸体に着せ始めた。
「風邪だと思うが熱があるからな、今日、一日はここで寝かせてやる」
松井は妙にやさしさを込めた言い方をしたが美加子の左手に手錠を嵌めるとそれをベッドのパイプに固定した。
麻美の足枷もベッドの足に固定した松井は絵里の前に立った。
「お前には先生の代わりに客の前に立って貰う。両手を後ろに廻しな」
「な、何をするの?」
「知らないぜ。とにかく縛らせてもらう」
松井にこれ以上詮索すると平手打ちが飛んでくることを承知している絵里はおとなしく両腕を背後で組んだ。
松井は絵里を手早く後ろ手縛りに仕上げた時、恵子が便器を持って部屋に入ってきた。
「今日はお客さんが居るから屋敷の中を歩き回られては困るの。先生のもあんたのもこれに溜めときなさい」
恵子に言われた麻美は便器を受け取るとおとなしく受け取ると床に置いた。
「氷も持ってきて上げて」
絵里がそのままで立ち去りそうな留美たちに悲痛な声を浴びせた。
「判ったわ。後で持ってくるわ」
留美は絵里に言い残すと松井と恵子を促して部屋を出て行った。彼らには大野を接待する大仕事が待っているのだ。
接待の時間
散歩から戻った三枝は再びアトリエに大野を招きいれた。絵の何点かは部屋の隅に片付けられ、応接間にあった長ソファとテーブルが運び込まれていた。
「何をするつもりなんだ」
三枝はそれには答えず片目を瞑るとソファに腰を落とし、大野にも座るように促した。
「まあ、長年世話になってる君にもご馳走しようと思ってな、何も無いけど用意させてもらった」
「怖いな」
大野は苦笑するとタバコに火を付けた。
松井と塩野が次々に料理や酒をテーブルの上に並べ始めた。酒は大野が持参したウィスキーだったが料理は高級なものが次々に並べられていった。塩野が腕によりをかけて作った一品の数々だった。
「いらっしゃいませ」
黄色い声がユニゾンで響くと二人の女が姿を現した。
近くに来たその女のコスチュームに大野は度肝を抜かれた。二人揃って、黒の褌にハッピを着けただけのほとんど裸といってもいい姿をしていた。ハッピは胸の谷間大きく抉り、褌で尻の殆どを露出している。
「ようこそ、いらっしゃいました。私たちは三枝先生のモデルを務めている留美と恵子です。今日は先生のお相手をすることを承りました。宜しくお願い致します」
二人は床に膝を付いて深々と大野に向かって頭を下げるのであった。
大野は驚いて三枝を見た。三枝はただ笑うだけである。
二人の女は大野を挟み込むと身体を密着させてソファに腰を落とすとさっそく大野に酒を勧め、料理を取り分けた。
「君たち、いくつなんだ」
大野は声を上ずらせて留美に尋ねた。
「内緒よ。でも二十歳前な事は確かよ」
甘えるように大野に訴えた留美はそのまま頬をぴったりと合わせると大野の手を自らの胸に導いた。
乳頭に触れた、大野の手がびくっと震え、それを差し戻そうとするのを留美は許さず、ぴったりとそれに密着させた。
すると恵子も負けじとズボンの上から大野の一物を掴み上げ、優しく撫で回す。大野は何がなんだか判らないまま、驚いたような声を上げる。
「君たち、大胆だね」
「あら、ご迷惑?」
「と、とんでもない」
大野は照れ隠しでウィスキーを一息に飲み干した。それで彼も酔いが廻り、その手は遠慮無く少女の柔肌を這いずり回り始めた。
留美と恵子は大野とベッドを共にした方にアクセサリーを買ってやると約束していた。それで二人の少女は大胆な行動に出て、大野の気を引こうと必死なのである。
大野は留美の乳房の感触をディープキスを交わし、恵子に官能の芯を弄られ有頂天になっていた。しかし、この程度のことで買値を吊り上げさせる三枝の思い通りにはならないという強い決意も持っていた。
「どうだい?楽しいだろう」
「あっあああ」
三枝の問い掛けに大野は気もそぞろになって答えるといきなりズボンを下ろし始める。
「これを付けさせたいんじゃ。ないか?」
大野の視線は三枝が手に持って揺らす、例の鎖に釘付けになった。それを付けさせた女を遠慮なく痛め付けるのが大野の長年の夢なのである。
「そ、それは」
大野が何か言おうとした時、恵子がはちきれんばかりなった一物をすっぽりと飲み込み、舌を巧みに使いだしたので、大野は言葉を途切れさせ、快楽に身を委ね始めた。余りに過激な接待に大野の決心はぐらつき始めていた。
「おじさま。口の中に出していいのよ。私たちは厳しく躾けられているから吐き出したりしませんわ」
留美に耳元で囁かれた大野はさらに情欲を刺激され、その花のような唇にぴったりと口を合わすのだった。
大野が女たちの手管に敗北したのはそれから程なくだった。
吸い上げるように大野の残滓を処理した恵子は艶然とした笑みを浮かべて立ち上がった。
「ご馳走様でした」
軽く会釈をした恵子は留美と一緒に呆然とした大野を残して官能的なヒップを揺らし、部屋を出て行った。
「驚いたよ。女の子たちをどうやって手なずけたんだ?」
嘆息した大野は思い出したように三枝に尋ねた。
「うふふふ、内緒だ。今夜はあの二人のどちらかに相手をさせるから決めておけよ」
「ああ」
いまだ興奮が冷めやらぬ大野は上の空の返事をした。大野の心は留美に動いている。しかし、恵子の献身的なサービスも捨てがたかった。
その時、留美と恵子が再び姿を現した。今度はもう一人、別の女が後手に縛られ松井に縄尻を取られて入場してきたのを目にして大野の期待は大きく膨らむのであった。
入ってきた女は絵里だった。絵里は褌を穿かされ、口をガムテープで覆われていた。そして、見知らぬ男が待ち構えている事を知り、表情を固くしていた。
襟の均整の取れた裸体を天井から伸びるロープに繋ぎ止められた絵里は目の前に陣取る中年男の好奇な視線を全身に受け、思わず全身が震えだす。
「この娘にこの鎖を取り付けて見ようと思うんだが」
「えっ、本当か」
三枝の言葉を聞いた大野の目は異様に輝きだし、処刑を待つ絵里の裸身にその粘い視線を投げ掛けたのである。
留美と恵子は忙しく動き廻り、剃刀、湯の入った洗面器、タオル等を絵里の足元に配置して行く。それを目にした絵里の表情は悲しく曇り出した。彼らに反抗したわけではなく、何の落ち度も無い自分が何故、剃毛の仕置きを受けなければならないのか?絵里には理解できなかった。
留美が褌を取り去り、漆黒の繊毛が姿を現すと大野の我慢できずフラフラと立ち上がると絵里の前に跪き、その見事な生えっぷりに目を瞠るのであった。
「おじさま。剃り上げてしまうには惜しいでしょう?でも、おじさまにお見せするために剃ることにしたのよ」
留美は笑窪を作って大野に笑い掛けながらせかせかとシャボンをその箇所に塗りこめて行く。絵里は不快感を堪えながら、目を閉ざし、悪魔たちの饗宴に供される心の震えを押さえ込むのに必死であった。
「おじさま。剃って差し上げたら?」
留美に差し出された剃刀を手に取った大野の目は妖しい輝きを浮かべ、シャボン塗れにされた絵里のその部分を見つめるのであった。
「さあ、しっかり抑えてるわ。どうぞ」
留美、恵子、そして、松井までもが絵里の臀部に手を添えて身悶え出来ぬようにガッチリと押さえ込むと大野は小刻みに震える絵里の肌に剃刀を押し当てた。
剃刀を滑らせ、シャボンと共に陰毛が足元に落下すると大野は身体全体が熱くなるのを感じた。今までも剃毛を施した経験は有ったがどれも金目当ての女で羞恥も無ければ悔しさも感じさせない女ばかりだった。それが目の前の少女は顔を真赤にし、悔し涙さえ流している。大野の欲しかった瞬間が訪れているのだ。
大野は剃刀を滑らすたびに絵里の眉を寄せた悔しそうな表情を見上げては楽しんでいる。絵里にとっては苦痛の時間が延々と続くことになる。
「よし、これで最後だ」
大野が名残を惜しむように剃刀を動かすと絵里の翳りは全て失われた。
含み笑いを浮かべた留美がお湯に浸らせたタオルを使ってその部分を丁寧に拭うと絵里のその部分は剃り跡も生々しい縦の亀裂をくっきりと露わにしたのだった。
「まあ、絵里。若返ったじゃない。おじさまも満足そうよ」
真赤になった頬を突付いて留美がからかっても絵里は頑なに目を閉ざし、ピッタリと両腿を密着させ、屈辱の衝撃に身を震わせるだけであった。
その童女のよう姿に見とれていた大野は我に返ると照れたような笑いを浮かべてソファに腰を落した。身体中から吹き出た汗が収まるように大野は心地よい疲労感を感じ、グラスを口に押し当てた。
「どうだ?気に入ったか?」
「あ、あああ、驚いたよ。お前がこんな若い娘たちを自由に出来るなんて。羨ましい」
大野は溜息混じりに呟くと残りの酒を一気に呷った。
「ふふふ、これからがお前のお楽しみだぜ。これをあの娘に取り付けるんだからな」
三枝が鎖を揺すると大野の目は再び妖しく輝きだす。これもまた夢に見た瞬間なのである。
「おい、留美。これを取り付けてやってくれ」
三枝が放った鎖を受け取った留美はニッコリと微笑むと鎖を手にしていまだ剃毛の屈辱に身を震わせている絵里に近づいた。
「今度はこれをあんたの身体に取り付けるのさ。何だか判らないだろう?」
絵里は目の前で揺れる鎖を見つめながら言い知れぬ新たな恐怖に身を竦ませるだけであった。