美加子の動揺

 絵里は息苦しさで目を覚ました。地下室の中では相変わらず強烈なライトが自分たちを照らしている。昼なのか夜なのか判らない空間の中で絵里はいつの間にか寝入ってしまったのだ。

 隣では美希も可愛い寝息を立てている。美希に声を掛けようとした時、低いしゃべり声が聞こえてきた。

 「私、恭子ちゃんが降伏する時は一緒に降伏する。死ぬ時も一緒だよ」

 「馬鹿、言ってんじゃないよ。あんな奴らの餌食になってたまるか。私は降伏なんかしないよ」

 絵里の反対側に位置する恭子と麻里がヒソヒソ話を続けているようだ。絵里はそのまま二人の話を聞くことにした。

 「でも、でも、おしっこだったらいいけど、うんちまでするようになったら私、耐えられない」

 麻里がくぐもった泣き声を響かせ始めた。

 「泣くなよ。こうしてやるから」

 恭子が麻里を抱きしめたらしい。泣き声が止み、麻里の溜息が聞こえてきた。

 絵里が二人に声を掛けかねているとあの男の声が部屋中に響き渡った。

 「おはよう。東条学園、天体観測部の諸君。君たちも腹が減ったと思って、食事を用意した。受け取りたまえ」

 絵里が上体を起こすと上方の穴からゴンドラが下りてきた。その上にペットボトルと小さな紙の箱がいくつも載っていた。

 「それから空のペットボトルも回収する。その上に載せたまい」

 男の声で皆が起きてしまったようだ。言われた通りに散らばったままのペットボトルを代わりに載せ始めた。

 「サンドイッチだわ」

 紙の箱をさっそく開けた弘美がこぼれるような笑顔を見せた。どんな状況でも食事は人間をおだやかな気持ちにするものだった。

 ペットボトルの回収が済むとまたしても男の声が響いた。

 「ご協力有難う。ゆっくりと食事したまえ」

 「待って、留美をどうしたの?」

 男が消えそうな気配に慌てた絵里は立ち上がって大声を張り上げた。

 「吉橋留美はここにいるよ。夕べは松井と塩野に腰が抜けるほど可愛がられたらしい。今は大変、おとなしくなっている。褒美に私の生ジュースを飲ませてやったばかりだ。あははは」

 男は高笑いを残して去っていった。

 絵里は留美が非道の扱いを受けているのを知らされ、暗い気持ちになって腰を落した。許せない、許せる筈も無い。絵里は膝を抱えてあの男たちに一矢を報い、ここから脱出することに思案を巡らすのであった。

 「やめなよ。先生」

 恭子の声に振り向くと美加子が立ち上がったところだった。表情は虚ろで唇を開いている。明らかに尋常ではない表情をしている。

 「どうしたの?」

 「先生が奴らに投降するって、言い出したんだ。先輩止めてよ」

 恭子の悲痛な声に絵里は美加子の腕を取った。

 「先生。しっかりして下さい」

 「私が悪いの。私が吉橋さんのそばに行って励ましてあげるの」

 美加子はこんなところに導いてしまってことに責任感を感じていた。自分も奴隷の一員になって留美の苦しみを少しでも和らげようと決意したのだった。

 「駄目だよ。先生。頑張れるだけ頑張ろうよ。先生が奴隷になったて、私たちは助からないのよ。留美もだよ」

 絵里はとにかく美加子を落ち着かそうと腰を下ろさせ、必死の説得を続けた。

 「留美先輩はここに居辛くなって出てっただけよ。先生が責任を感じる必要はないよ」

 恭子も加勢して美加子を引き止める。

 「判ったわ」

 美加子が納得しように頷いてサンドイッチをついばみ始めたので絵里もほっとして水を口に含んだ。ここで美加子が脱落するのは何としても避けなければならなかったからだ。

 「何とか騒動は収まったようだな?」

 再び、男の声が地下室に響き渡った。

 「今は投降者を受け入れるわけには行かない。後で意思確認をするからその時に決めればよい。それから君たちは一斉に用を足して私を撹乱するようだが今度そんなことをしたら君たちの頭上から水を降らせて上げるよ。くくくく」

 男の声は不気味な笑いを残して消えた。

 「畜生、人でなし、鬼、悪魔!」

 恭子は顔を真赤にして見えない相手に毒づいた。 

 どろりとした空気が地下室に蔓延していた。横になり、じわじわと込み上がってきた尿意を堪えている。皆の食事が終わった頃から気温が下がり始めているのだ。

 「ああ、ごめんなさい。我慢できないの」

 一年生の弘美が鎖の限界まで遠ざかるとジーンズを下ろそうとした。

 「ふふふ、西村弘美。君の放尿シーンはとっくりと見させて貰うよ」

 男の声が響き渡ると弘美は悲鳴を上げてジーンズを引き戻してしまう。カメラが自分を狙っていると思うととてもそんな行為を出来ないのだ。

 「ひ、卑怯だぞ。いい加減にしろ」

 恭子がまたしても男に噛み付いた。

 「卑怯でも何でもない。嫌だったら、降伏したまえ」

 少女たちの叫びを何とも感じない男の態度に業を煮やした恭子は麻里の傍らにしゃがみ込んだ。

 「私が見えないようにしてやるよ。こっちにお尻を向けてご覧」

 「先輩」

 羞恥に頬を赤らめていた弘美は恭子の申し出に驚いたような表情を浮かべた。

 「いいから、遠慮しないで」

 弘美の体勢を入れ替えた恭子はその華奢な身体を背後からしっかりと抱きしめ、カメラの視点から彼女を守ろうとするのだ。

 恭子に守られて勇気が湧いた弘美はジーンズを引き下ろすと大きく息を吸い込んだ。

 ささやかな水音が地下室に響き、弘美の両足の間から水流が部屋の隅に向かって流れ出した。弘美はその恥ずかしさに耳たぶまで真赤かに染めて、しゃくりあげ始める。

 「私が守ってあげる。恥ずかしくないだろう」

 抱きしめられて弘美は放尿を終えると恭子の胸に顔を埋めて泣きじゃくった。

 弘美を抱きしめているうちに恭子の胸の中は三枝に対する怒りで充満していた。

 恭子は立ち上がるとジーンズと下着を一気に引き下ろした。

 「今度は私がやってやる。見たけりゃ見るがいいさ」

 眉を吊り上げてカメラに向かって宣言した恭子はその場にしゃがみ込むと堂々と放尿を始めるのであった。

 モニタールームでその様子を観察している三枝は苦い顔になっていた。羞恥のカケラも見せないその姿は三枝の理想とはかけ離れていた。あの娘を捕らえたら死ぬほど恥ずかしい目に遭わさなければならない。三枝は固く心に誓うのであった。

美加子の構図

 それからどれくらい経過したのか地下室の少女たちにはわからなかった。

 結局、美加子と麻里以外は放尿を終えて、再びエアコンは止まり、地下室には熱気が充満し始めていた。

 「お待たせした。投降する者がいたら立ってくれ」

 男の声が再び地下室に響いた。

 結局、美加子は立ち上がった。絵里はもう止めても無駄だと考えて黙っていた。しかし、驚いたのは麻里も立ち上がった事だった。

 「麻里、どうしたんだ。一緒じゃなかったのか?」

 恭子が慌てて声を掛けると麻里は寂しそうな笑みを浮かべた。

 「恭子は弘美さんを可愛がって上げて。私はここから出るから」

 「何を気にしてるの?私は麻里を大切にするよ」

 先程、弘美を慰めたことが麻里の投降に繋がったことを知った恭子は慌てていた。恭子は何でも自分の言うことを聞いてくれる麻里をかけがえの無い存在だと思っていたからだ。

 「いいのよ。私は行くわ」

 麻里に宣言された恭子は黙り込んだ。そして、先程の行動を悔いた。

 「よし、二人だな。二人とも全裸になって服を持ってゴンドラに乗れ」

 美加子と麻里の閂が音を立てて外れ、ゴンドラが下りてくると手早く全裸になった麻里から上に吊り上げられて行った。

 全裸で後手に括られた美加子はいきなりアトリエに連れ込まれ、その異様な光景に圧倒されていた。

 「驚いたか?これがあの先生の作品だ」

 天井から垂れ下がるロープに縛り付けながら松井が驚愕の表情を浮かべている美加子に楽しそうに話し掛けた。

 「あの、真ん中の奴が留美の姿だ。先生もあそこに飾られるんだぜ」

 松井が壁の空間を指差すと美加子は膝をガクガクと振わせ始める。三枝の異常さに恐怖を覚えたのだ。

 「なんだ、震えてるのか?先生なんだからしっかりしろよ」

 松井が豊満な乳房を突付いても美加子はたじろいだりしなかった。それほど、その恐怖に美加子を押し潰されそうになっていたのだ。

 「先生。さすがに生徒とは違って色気満開だな」

 三枝がペット宜しく留美の縄尻を引いて現れた。

 その留美の姿を見て美加子は再び、驚愕しなければならなかった。

 留美はパンティ一枚を許された裸身を後手に括られていた。しかし、美加子が驚いたのはそのパンティから伸びるチューブが胸を縛ったロープに挟まれ垂れ下がっている事だった。

 尿道チューブを装着させられている留美はがっくりと首を落とし、留美の顔を見ても何の反応も示さなかった。

 「よ、吉橋さん!」

 美加子が呼びかけても留美は顔を背けたままだった。彼女の僅かに残ったプライドが美加子の視線に惨めな姿を晒すのを嫌っていたのだ。

 「さ、三枝さん。あなたって言う人はなんでこんな事をするの」

 美加子は全裸にされている自分の恥ずかしさも忘れてニヤニヤと笑う三枝に激しい声を放った。

 「このチューブかね。これをつけておけば奴隷がトイレに行く時、いちいち、パンティを脱がす必要が無い。このまま、コップで受け取る事だって出来る。実に便利ではないか、あははは」

 「やめてよ」

 三枝がチューブの先端を弾いて高笑いを始めると美加子は悲鳴のような声を上げた。

 「三枝さん。私はどんな目に遭ったって構わない。殺されたっていいから、生徒たちを解放して、お願いです」

 美加子は教師としての責任感を込めて哀願した。しかし、それは三枝の失笑を買うだけだった。

 「何を寝惚けた事を言ってる。お前は奴隷になるつもりで地下から上がってきたのではないのか?俺にそんな事を無駄だと言うことがわからないのか?」

 「お願いだから、生徒を酷い目に遭わすのは止めて。それだけは、それだけは・・・」

 涙を流しながら哀願する美加子を鼻で笑った三枝はそばで控える松井に目で合図をした。

 「失礼しますよ」

 松井は美加子の前に跪くとその右足首に天井から垂れ下がるロープを巻き付けた。

 「な、何をするの?」

 恐怖に駆られた美加子が口を開くと答えたのは三枝の方だった。

 「先生にポーズを取って貰います。とても恥ずかしいポーズです。うふふふ」

 松井が壁際のハンドルを廻すと美加子の足首に巻かれたロープは緊張し、やがて上方に持ち上げられ始める。

 「や、やめて」

 美加子の悲痛な叫びがアトリエに響き渡った。自分が取らされるポーズに慄き、心からの悲鳴を上げたのだ。しかし、松井はそんな美加子の哀願など無視してハンドルを廻し続ける。

 「い、嫌」

 真赤になった顔を激しく揺さぶって切れ切れの悲鳴を上げ続ける美加子の片足は九十度以上も跳ね上がり、やがて静止した。

 「ふふふ、先生にはお似合いのポーズですよ」

 三枝はタバコに火をつけると美加子に近寄り、無理矢理開かされた太股の付け根に目を凝らすのだった。そして、後に廻ると息苦しいほどに盛り上がり、緊張を示している美加子の臀部を撫で上げる。

 「嫌、さ、触らないで」

 片足立ちになり、避けることが出来ない美加子が悲痛な叫びを上げると三枝はますます図に乗り、官能美豊かな、双臀の切れ目にまで指を這わして隠微な笑いを浮かべた。

 「ここが先生のお知りの穴ですね。ここを虐めるのはまた、今度にしましょう。今日はこのままおしっこをして貰います」

 三枝の言葉に美加子は蒼白になった。こんな惨めな姿で排尿すれば、どういう姿を露呈するか、一瞬にして理解した美加子を戦慄が襲ったのだ。

 「嫌よ。こんな格好じゃ嫌よ」

 美加子が涙を流して哀願しても三枝は一向に気にも留めずに前に廻って、絵の構図を決め始める。やがて、三枝は構図を決め、キャンバスと椅子を移動すると早くもデッサンを描き始めた。

 「こんな格好じゃ出来ません。お願い許して」

 「いつまでも待ちますよ。先生は既に溜め込んでる筈だ。そんなに我慢は効かないですよ」

 美加子の願いを一蹴すると三枝は無心にキャンバスに向かい始めた。声の無くなったアトリエの中では美加子の啜り上げる声と三枝が木炭を滑らせる音だけが響いていた。

 「あっ、おしっこー」

 不意に留美が舌足らずな声を上げた。尿道口にチューブを差し入れられてるために我慢が効かずに一瞬のうちに溢れ出てくるのだ。

 立ち上がって腰を揺さぶる留美の前に慌てて駆け寄った松井は栓代わりにしてある洗濯バサミを外すとその先端を空のペットボトルに差し入れた。

 ドボドボと注ぎ込まれる黄色い液体を目にして松井は恥ずかしそうに下を向く留美の顔を覗き込んだ。

 「これじゃ女の立小便だ。器用の真似が出来るようになって嬉しいだろう」

 火照った頬を突付かれて笑われた留美は悔しげに唇を噛んだ。しかし、罵りの言葉は吐かなかった。悔しさを噛み殺すように目を閉ざした留美はペットボトルの中に次々と液体を放出していく。

 留美が突然の放尿を終え、三枝の傍らに再び腰を押し付けると、アトリエのドアが開き塩野に縄尻を取られた麻里が入ってきた。

 何故か麻里は体操着とブルマを身に着けていた。三枝が絵を描くために用意させた物なのだろう麻里は恥ずかしそうに俯いている。しかし、麻里はまず哀れな留美の姿に驚き、美加子のあさましい姿に驚愕した。

 「ここに座って、先生が粗相する姿を見ていろ。次はお前の番だからな」

 松井はそう言い含めると麻里の肩を押して留美の隣に座らせた。

 「先輩」

 「な、何も言わないで」

 惨め姿を目撃され、苦悶する留美はそれだけ言うと顔を背けた。正面には片足を吊り上げられ、羞恥に悶える美加子の姿があった。女にとっては地獄の館。まさにその形容詞がピッタリと悪魔の館に自分も取り込まれてしまった麻里は言い知れぬ恐怖に身体の震えを止めることが出来なかった。

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