戦慄の宣告
少女たちは耐え難い暑さの中で戦っていた。身に着けている物は下着まで汗に塗れ、不快感を彼女たちに与えていた。
突然、物音がして穴からペットボトルが落下してきた。
「み、水よ」
恵子が落ちてきたペットボトルを拾い上げるとさっそく水を口に含んだが恭子は立ち上がると険しい声を放った。
「おい、どういうつもりなんだ?こんなとこに閉じ込めて。私たちを解放しろ」
恭子は憤懣をぶつけるように穴に向かって叫んだ。しかし、三本のペットボトルが降ってきた以外は何の反応も無かった。
「畜生、馬鹿にすんなよ」
顔を真赤にさせて怒りをぶちまけた恭子だったが相手が反応を示さない虚しさに落胆すると再び、床に座り込むしかなかった。
「ようこそ、東条学園の生徒諸君。ならびに榊美加子先生」
部屋の壁に反響してあの男の声が響き渡った。
「君たちの声はマイクを通して逐一、私の元に届くようになっている」
少女たちはそれまで溜まっていた不満を解放するように口々に罵りの言葉ををぶちまけ始めた。それは一体となって男の耳に届いたがそれは意味をなさなかった。
「一辺に話をされても私は対処することができない。島原絵里、君が部長のようだから代表して話したまえ」
指名を受けた絵里は立ち上がると見えない相手に向かって口を開いた。
「ここから出してください。暑くて溜まりません」
「それは出来ない。君たちが我々の要求を受け入れるまではそこが監禁場所なのだ。要求を伝える。我々の奴隷となる事を承諾すればそこから出してやる。それまではそこで過して貰う。水は差し入れるし食料も与える」
「ふざけるな。誰が奴隷になんかなるものか」
頭に血が上った恭子も立ち上り、叫んだ。
「気の強いお嬢さんだ。君たちの命運は私が握っていることを忘れないでくれ」
「トイレはどこにあるの?」
「トイレ?そんなものはない。そこで垂れ流せ」
絵里の質問に男はこともなげに答えた。その言葉は少女たちに戦慄を与えた。それまで水を飲んでいた少女の手が止まった。
「お願いです。私はどうなってもいいから、生徒たちを人間らしく扱って下さい」
それまで項垂れていた美加子が悲痛な叫びを上げた。しかし、その願いはまたしても男の失笑を買うだけであった。
「美加子先生ですね。やっと先生らしくなりましたね。あなたの願いは聞き届けるわけには行かない。あなたが奴隷になればそこから出して上げるがそれ以外の事は約束できない」
「そんな、生徒だけでもお願いです」
涙を流しての哀願も男には通じない。男はでは後程といってマイクのスイッチを切ってしまった。
「やっと、先生らしくなったわね。褒めて上げるわ」
留美は嗚咽する美加子に嘲笑めいた言葉を吐くと絵里の方に向き直った。
「さあ、どうするの?奴らの狙いは判ったわ。私たちを監視して、精神的にも追い詰めて言う事を聞かすつもりよ。絵里、あなたがリーダーよ」
「判らないわ・・・」
絵里は率直な感想を洩らした。しかし、留美はそんな事では納得しなかった。
「いい、世の中で一番卑劣な手口なのよ。このままここにいたら私たちは糞尿まみれでこの暑さの中で戦わなければならないのよ。とてつもない悪臭よ。私は耐えられないわ」
留美は吐き捨てるように言うと横を向いた。留美の言葉に下級生もこの静かで残酷な監禁状態を認識したのか考え込む者が多くなった。
「ねえ、これだけ暑ければ水分は汗で出てしまうわ。そんなに心配することも無いんじゃない?」
絵里はこの絶望的状況を少しでも和らげようと希望的観測を口にしたがまたしても留美が口を挟んだ。
「甘いわよ。この部屋は空調もあるみたいよ。冷房を最高に効かされたらそんな仮定は一辺に逆転してしまうのよ」
留美が指差す先にはダクトの噴出孔があった。
「まあ、誰が最初にやらかすか見物だわ」
留美はそんな捨て台詞を吐くとごろりと横になった。
再び、地下室に沈黙が訪れた。全員がいずれ迫ってくる生理の欲求に怯えている。
最初の犠牲者
二度目に差し入れられた三本のペットボトルが空になる頃、冷たい風が地下室に漂い始めた。
暑さからは解放された彼女たちではあったが今度は逆に身体が冷えてきたのである。
「やられたわよ。絵里。今度は寒さとの戦いだわ」
留美が自慢げに髪を梳き上げて言い放った。
絵里は先程まで喉の渇きに任せて取り入れた水分が汗として排出されず一気に下半身に下ってきたのである。
他の少女たちも美加子もその思いは強いらしく、しきりに寝返りを打ち、姿勢を変えて、虚しい努力を始めていた。
「ああ、もう、駄目」
絵里の右隣の美希が遂に音を上げ、起き上がるとジーンズのベルトを解いた。するとその左隣の留美が美希の肩を掴み怖い顔をして睨みつけた。
「あなた、我慢しなさいよ」
「でも、でも、苦しい、我慢できない」
怖い先輩に睨まれて美希は涙を流して哀願している。しかし、潔癖症でプライドの高い留美は美希のそんな行為を許せないらしく、さらに語気を強めた。
「そこで洩らしたりしたら、顔が膨れ上がるほど引っ叩いてやる」
「許して、許して下さい」
美希は号泣寸前の状態で留美に許しを請うている。たまりかねた絵里が留美の振り上げた右手を掴んだ。
「留美。やり過ぎだよ。私だってあなただって限界は近い筈よ。許して上げなよ」
「ふん、勝手にしてよ。できるだけ遠くに行ってやってよね」
絵里の言葉にはさすがの留美も逆らえない、美希の身体を突き放すと自分は出来るだけ遠くの位置に腰を下ろした。
「さあ、していいわよ」
絵里に優しく肩を抱かれた美希は涙で汚れた顔でこっくりと頷くと中腰になって鎖が伸びきるギリギリの場所まで膝歩きで移動した。そこで身体の向きを変え、皆の方を向いた。
「見ないで下さいね」
頬を赤らめ、呟くような声で訴えた美希はジーンズを引き下ろすと堪えに堪えていた欲求を解いた。
皆一様に顔を背けて美希の放尿図から目を逸らしていたが留美だけは汚物でも見るような目付きでその一部始終をしっかりと脳裏に焼き付けていた。
啜り上げながら美希は激しい水音を立てつつ、放尿を終えた。しかし、彼女には後始末すべきティッシュもハンカチも取り上げられていて持っていなかった。美希は仕方なくそのまま衣服を身に着けた。
下半身をキリキリ締め付けられる苦痛からは逃れたものの美希は一番目に放尿した恥ずかしさから顔も上げられない。
「私もするわ」
美希が排尿したことで美加子も踏ん切りが付いたのか出来るだけ離れた場所に腰を下ろした。しかし、留美はそんな美加子の行動にも噛み付いた。
「先生。生徒の前でそんな事をするの?よく恥ずかしくないわね」
「仕方ないでしょう。見ないでね」
美加子は留美の毒舌を軽くかわすとジーンズを引き下ろした。
その頃、モニタールームでは三枝が狂喜の声を上げていた。
「うははは、先生が今度はやらかすぞ」
カメラのフォーカスはこちら側を向いている美加子の下半身に極限まで迫っている。もう一つのカメラは美加子の表情をアップにしている。
「おっ、ほんとうだ」
松井と塩野も興味津々と言った風情でその光景を眺めている。
「あっ、始めたぞ」
美加子の股間から水しぶきが立ち上ると三枝は声を上げて笑い出した。
美加子の顔を映し出すもう一つのモニターは悔しそうに目を閉ざす美加子の無念の表情を捉えていた。
「あの、先生もいい身体してるぜ。畜生、早く、やりたいぜ」
松井が興奮を抑えきれぬように舌なめずりをした。女のこのような姿は男たちに異様な興奮を呼び起こしているのだ。
その頃、地下室では放尿を終えた美加子を留美が難詰していた。
「先生の恥さらしには呆れたわ。このことは学園に詳細に話して先生をいられなくしてやるから」
美加子は留美に何を言われようと黙ったままだった。生徒たちをこのような状況に追い込んだ責任は自分にある以上、何を言われても仕方ないと思っていたのだ。しかし、留美の言葉の暴力は留まるところを知らなかった。
「私たちをこんな目に遭わせて、自分は平気な顔をしておしっこが出来るもんだわ。教師なんて顔をしないでよ」
「待ちなさい」
遂に絵里は堪忍袋の緒が切れた。
「留美。いくらなんでも先生に失礼じゃない。謝りなさい」
「そうよ、先輩。酷すぎます。先生に謝罪して下さい」
男っぽい性格の恭子も同調した。留美もほぼ全員が自分の敵に廻ったことを感じたが意に介さないようだった。
「皆、先生の味方なのね。私、ここにいたくないわ。臭いしね」
いつの間にか空調が止まり、元の熱気が蘇えり、尿が蒸発する異臭が漂い始めていた。
「早く、謝りなさいよ」
絵里も今度は引かなかった。何が何でも留美を謝罪させないと気が済まないまでになっていた。
「嫌よ。謝るくらいなら、奴隷になるわよ」
留美が思わず口走った言葉に反応するように突然、男の声が響き渡った。
「吉橋留美、我々の奴隷となる事を承諾するのか?」
「ええ、構わないわよ。こんなところにいたくないのよ」
留美は即座に答えた。絵里は信じられないといった顔で留美を見つめた。
「それではその場で全裸になれ。服を脱いだらそれを手に持って、穴から降りてくるゴンドラに乗れ」
全裸になれという言葉に幾分、躊躇いを見せた留美では有ったが一度言った言葉を取り消すのは彼女のプライドが許さなかった。
「本当にいいの?」
服を脱ぎ始めた留美に絵里が心配そうに声を掛けた。
「ほっといてよ。私の決断だから」
留美は絵里の方を見向きもせずに答えながら全裸になった。
支柱に繋がれている鎖が外れると絵里は降りてきたゴンドラに乗った。
「皆さん、バイバイね」
不安をひた隠しにし、留美は手を振りながら一階に引き上げられていった。
留美が消えると皆、気が抜けたような表情を浮かべてその場に座り込んだ。
「ごめんなさい。私がだらしないばかりに吉橋さんがここに居辛くなってしまって」
「いいのよ。先生」
涙を浮かべて詫びる美加子を見て絵里は口を開いた。
「留美は何かと皆の和を乱すわ。それにこの場所に居たたまれなかったのだと思う。気にしなくていいのよ」
「でも、吉橋さんの言う通りよ。皆をこんな目に遭わしてしまって済まないわ」
美加子が啜り泣きを始めたので絵里は頭を切り替えた。このまま、美加子を慰めていたのでは埒が明かないと思ったからだ。
「ねえ、まだしていない人はもう我慢できないでしょう?」
美加子と美希を除いた五人は頷いた。
「皆で一辺に済ましてしまわない。それだったら恥ずかしさも少ないし、観察しているあいつも誰を見ていいか困るわよ」
「そうね。名案だわ。やりましょう」
恭子がいの一番に賛同した。他の皆も異存は無いようだ。
五人は中心点から出来るだけ離れるとカメラに背を向けてズボンを下ろした。
「さあ、行くわよ」
絵里の子号令の下、五人はいっせいに放尿を始めたのである。
モニタールームの三枝はそんな少女たちの姿を目にして、憤慨していた。一人一人の羞恥の表情を垣間見るのがこの上の無い楽しみな彼にとってそれは予想外の出来事だったからだ。
しかし、彼には一人目の奴隷が手に入った喜びも有った。
もうすぐ、素っ裸になった留美が自由を拘束されてこの場に現れる筈だ。三枝の胸はときめいていた。
ドアが開き、松井と塩野が留美を押し立ててきた。
均整の取れた長身の裸体を後手に縛り上げられた留美は頬を強張らせ、俯き加減で三枝の前に引き立てられた。
「吉橋留美だな。俺たちの事を何でも聞く奴隷になる事を誓うんだな?」
「ええ、好きにしていいわよ。あんな場所に押し込められるよりましだわ」
留美は不貞腐れたように吐き捨てた。
三枝はその態度に腹を立てるより、むしろ頼もしさを感じていた。最初から素直に言うことを聞くよりこちらの扱いに屈服させる方が喜びが大きいからだ。
「な、何をするんだよ」
松井が背後からその成熟さを感じさせる乳房に手を掛けると留美は身体をくねらせそれを避けると刺すような視線を向けた。
「なんだよ。奴隷になるって誓っておいてその態度はないだろう」
「わ、判っているわよ。でも、その前にトイレ位行かせてよ」
留美は顔を背けて始めてその要求を口にした。恨んでも恨み切れない野卑な連中にそのような欲求を口にすることは留美にとってとてつもない恥辱だった。しかし、生理の要求は容赦なく留美の下半身を襲い続けている。
「そうか、残された連中は一斉にやらかしたがお前はまだだったな」
三枝の言葉に留美ははっとしたような驚きの表情を浮かべた。放尿の羞恥をそのような形で残してきた連中が処理したことに留美は悔しさを覚えていたのだ。
「もう、我慢できないのか?」
三枝に言われ、留美は恥ずかしそうに頷いた。本来なら、このような男たちの前に肌身を晒すことさえ死ぬほどの恥ずかしさを覚える留美ではあったが、その動揺を悟られまいと必死に冷静さを装っていのだった。
「よし、すっきりさせてやろ」
三枝が意味有りげな笑みを浮かべて歩き出すと留美は松井と塩野に取り囲まれてその後に従った。