※玉城さんにいただいた小説<1>です。


この夜が明ければ(Di fronte ad alba)

by 玉城



 静まりかえった部屋に、秒針の音が響く。
 俺は部屋を見渡した。六畳畳敷きの、見慣れた部屋。北向きの窓には色のあせたカーテン、笹の絵柄に被さるようにジュースをこぼした痕がまだらに残る押入れ、ポスターやカレンダーを飾った壁には画鋲の小さな穴があいている。
 目の前には小学生の頃から高校を卒業するまで使った勉強机。今の俺には随分と小さい、小学校の入学祝いに祖父母が買ったというその上に、中身の詰まったでかいスポーツバッグが乗っている。明日から、それが俺の全財産だ。
 二年前まで、俺はここで寝起きしていた。戻ってきたのは三日前。そして夜が明けたら、もう一度ここを出て行く。そして二度と戻らない。
 胡座をかいて壁にもたれて、布団を敷くどころか着替えもしていない。時刻はもうしばらくしたら日付が変わろうかという頃合。閑静と言えば聞こえのいい都心から中途半端に外れた住宅街は、表通りを走る車の音も途絶え街全体がすっかり眠りの中だ。
 机のスポーツバッグから、ゆっくりと視線を上にずらす。大きく引き伸ばされ壁に飾られた写真。泥だらけのユニフォームを纏った自分が、今より少し幼い笑顔で見下ろしている。懐かしむにはまだ鮮やかすぎる輝かしい日々。もう二度と手にする事はないと思うと、覚悟を決めたはずなのにこみ上げてきたもので鼻の奥が痛かった。
 将来の夢を夢としてしか語れないくらい幼い頃から、見る夢は常に一つだった。小さな白いゴムボールを手にしたその時から、野球が自分にとって一番だった。「大きくなったら野球選手になる」将来を疑った事はなかった。白球を追うことに躊躇いなく一筋だったから。
 未来とは約束されたものだった、あの時までは。
 それがあの二人に出会って少しずつ変わり始めた。友達も仲間も沢山いた自分に初めて出来た親友と、一生を賭けたライバル。突拍子もない彼らの未来。世界の中心以外の場所で出会った彼らがとても大切なものになるのに、さほど時間はかからなかった。
 そしていつしか心の中には、ゆらゆらと揺れ動く天秤のイメージが消しても消しても浮かび上がるようになっていた。どちらの皿にも手放したくないものが乗っている。両方選びたいのに、片方しか選べない。
 高校入学の春、親友はすでに目の前に敷かれた道を歩むことを受け入れていた。何がそこまで覚悟を決めさせたのか、窺い知る事はついに出来なかった。しかし将来に向けて胸を張り、はるか先を見据えようと毅然とこうべを上げたその姿にかつての気弱で後ろ向きだったちっぽけな少年の面影はなかった。元服をすませた若武者の風格すら漂う薄い体の斜め後ろには、ここが生涯の居場所と中一で一生の結論を弾き出してしまった忠実すぎる腹心が、同級生とはとても思えない冴え冴えとした眼差しで大事な主人の周囲に気を配り、物音ひとつ立てず控えている。
 一途と呼べば聞こえは良いが、微妙に軸からずれた武士道精神でもって同い年の少年に忠誠を誓ったこの留学生は、義務教育を終える頃には現代の日本人が忘れ去った主君絶対の志を忠実に貫く、立派なサムライへと成長していた。血の気と負けん気だけは人一倍持っていて、何でもかんでも手当たり次第に過敏に反応して、解決策と言ったらこっちまで危険に晒されかねない爆破にしか頼れなかった転校生の姿が嘘のようだ。
 忠義が過ぎてたまに融通の利かなくなる部下を宥める綱吉には上に立つ者特有の覇気が見え隠れするようになり、別段量が減ったわけではない血の気や負けん気を上手く制御できるだけの冷静さを身に付け、その無駄に高い矜持をも自らの手で飼い慣らしつつある獄寺は、自分が見ても惚れ惚れするくらい、その男振りを着実に上げていた。
 俺の目に映る二人は格好良かった。格好良くて立派だった。どんどん遠いものになっていった。だからこの置いてきぼりな気分を、当の二人に話せるはずもなかった。悩み抜いた挙句俺が出した答えは、今追いすがろうとして走り出しても、途中で必ず挫折するだろう、ということだった。
 待ってくれと、二人を足止めしたいというのとは少し違う。ただ、もう少しこのままでいたい自分に流れる時間より、二人の時間の流れは確実に速くて、仕方なくその速さについていこうと歩調を速めても、きっと二人が固めた信念には遠く及ばない気持ちしか持たない今の俺では、足手まといになるのが関の山だと思ったのだ。
 二人に付いて行きたい。すぐ手が届くところで助けてやりたい。でも自分を一番表現できるものを、それが世間に通用するかどうか試しもしないで諦めて、投げ捨ててしまうような真似はとても出来ない。それだけは出来なかった。
 高校最後の夏、すぐには付いて行けないときっぱり告げた俺を、あのちびすけは何故かあっさりと許した。あまりにも予想と違う手ごたえのなさに、ぐずぐずと悩み抜いた末だからこそ何を言われても引き下がるまいと覚悟を決めて宣言した俺は拍子抜けした。これでも裏社会の……それがどの程度重要な事柄かは実感がないが、仮にもイタリア一と言われるファミリーの御家の事情に何年も首を突っ込んできたのに。確かに最初は上手いこと手招きされて巻き込まれた形だったが、それは本当に最初だけで、後は自分の意志で二人の近くにいたのだ。友達でいたかったから、そうした。彼らのそばにいたかった。
 そんな、いわば知り過ぎている人間をひとりこの国にほったらかすなんて、本国の連中が黙っていないんじゃないか?目線で問うたら、窓の桟に小粋な角度で脚を組んで座ったちびすけが大げさな仕草で肩をすくめてみせた。その芝居がかった、子供の体には不似合いなはずの動作が無理なく決まっている姿は、俺にこいつがどういう奴だったかを思い出させるには充分だった。
 そうだ、こいつより上の立場で命じる事のできる人間は、欧州を裏から動かすと言われるボンゴレの九代目以外いない。あとは、全部自分の裁量ひとつで動く権利がこいつにはあるのだ。
 許してくれる、ということか。そしてこいつの口からの説明なら、あの二人も納得してしまうだろう。なぜなら今までこの子供の口から出された言葉は全て決定事項だったのだから。
 「ある意味おまえはダメツナよりも手がかかるよ」いっそさばさばした口調でにやりと口の端を引き上げてみせたあいつには、俺の考えなど聞かされるまでもなくお見通しだったに違いない。
 手がかかる、確かにその通りだろう。本当は、どちらを選ぶかはもうとっくに決まっている。なのにこの国に残る理由は、実はとてつもなく利己的なものだと自分でも承知していた。今まで築き上げてきたものをそんなに簡単に手放せやしない。そんなずるい男をよくも待つと言ってくれたものだ。
 半年後、桜のつぼみもまだ固い三月、友人は遠い異国へと旅立った。残る俺に何を言うでもなく笑顔で手を振った綱吉は、間違いなく自分よりずっと大人だった。せめてしばしの別れの思い出にと、自分も顔だけは晴れやかに笑ってみせた。次にこの笑顔に会う時はすべてに別れを告げた後だ。それが俺にも、そして綱吉にも分かっているのが、なぜか妙に寂しかった。
「来なくていいぞおめーなんか」獄寺の俺に対する態度は最後まで変わらない。怜悧な表情が板についたこの男がこんな歳相応な顔で憎まれ口を叩くのはまがりなりにも俺を仲間と認めてくれている証のようで、それを今はただこうして見送るというのは、素直には表せないけれど確かにそこにある信頼や期待といったものを裏切っているみたいで、切なかった。
 何も言えない俺のケツを容赦なくひっぱたいたのは、小さな、もみじのような手のひら。その手の持ち主はあの日と同じニヒルな笑みを浮かべて、さっさと搭乗口に消えていった。
 束の間の別れだ、言葉は必要ない。黒衣の背中がそう言っている。若すぎる主従を影で支える為、中折れ帽を小粋に被ったいつもと変わらぬ出で立ちで、ちびすけもまた生まれ故郷に戻っていった。
 実際のところ、別離の哀愁に浸っているひまはなかった。プロ入りして以来一日一日が文字通り飛ぶように過ぎていき、めまぐるしく移り変わる状況に足を取られないよう必死で毎日をやり過ごす。かえってそれが有難かった。少なくとも考えなくていい事を考え、振り返らなくてもいい事を振り返って悩み迷う隙を与えられないのは、自分にとって都合の良い事だったから。
 決めている事はたった一つだ。それさえ見失わなければ、後はどうとでもなる。
 三度目の春、決意を実行に移した。当然周りの反響はすさまじく、中には裏切り者と声高に罵る声もあった。
 応援してくれた人達の、悲鳴、嗚咽、哀願や罵声。真相を知ろうとそれこそありとあらゆる、考えつく限りの質問をぶつけてくるライター達の視線に込められた、馬鹿な事をと咎める声なき声。それらを淡々と受け止めた一ヶ月。どんな乱暴な言葉を使っていても最終的には引き止めようと躍起になっている様々な声を聞くたび、ああこれで最後なんだと静かに覚悟が固まっていった。
 あれほど、捨て去るにはこれしかないと血が滲むのもいとわず打ち込んできた。野球というものが自分の憧れの、人生の全てだったと、捨て去った今になって、その重みが両肩から消えた今になって初めて気付かされた。
 人間は捨てたものから捨てられる。軽々しくなった体をその事実は打ちのめした。早すぎる引退を惜しみ嘆く、何も知らないファンや好意的だったライターの声とともに、俺はそれを受け入れた。
 しばらくはこんな風に、ふいに思い出しては胸が痛むだろう。それも、これから先待ち構えているものがあっという間に押し流してしまうはずだ。ひっそりとため息をつき、写真から目を離した。
 そっと頬に指を寄せる。昼間親父に殴られた痕がまだ腫れて熱を持っている。なにしろ古い型の親父だから、雷とともに拳骨が落ちてくる事など珍しくもなかったが、こんなふうに頬骨が軋むほど横面を張られたのは今回が初めてだ。
 詳しい経緯も何故そうなるのかの説明もないままに、やりたい事があるからイタリアに行く、もうこの国には帰らないと、一人息子にこう言われて、ああそうですかとこだわりなく送り出せる親などいるはずがない。拳骨一発で「勝手にしろ」と腕組みして顔をそむけた親父に、懐の広さと父親の偉大さ、男としての潔さを見た。敵わないと素直に思い、気が付いたら自然に頭を下げていた。
 打ちのめされる痛みは罪に対する罰だ。下げた頭の中で真実が閃く。置いていくものの大きさに伏せた唇を噛み締めた。俺はこの人達も捨てていくのだ。この人達に捨てられる道を選ぶ。
 衝動的に顔を上げ、何を言いたいかもまとまらないうちに口を開きかけたその時、背中を向けたきり身じろぎもしなかった親父がぼそりと呟いた。
「おめえもそんな一丁前の口きくようになったか」
 あまりにもしみじみとした口調に開けた口を思わず閉じた。
「てめえで生き様を決められるようになったら、もう男だなあ」
「……」
「通したい筋を守るために、出て行くのが男ってもんだからなあ。武にだけやめろたあ言えねえわな」
「……、親父」
 くつくつと、自分より小さくなった背中が笑う。
「なに情けねえ声出してやがんだ。男が出て行く時は、全部を捨て去る時だってな、ずーっと昔っからそう決まってんだ。
 行け、武。好きなとこ行って、その生き様を守れや。俺も、そうしてきた。だから、どこでも好きなとこ行け」
 父の背中を、こんなにまじまじと見つめたのはもしかしたら初めてじゃないだろうか。なぜ、この背が見上げるように大きかったうちにしっかりと目に焼き付けておかなかったのだろう。
「行ってこい、武」
 思考が霧散する。何か言わなければいけないことがあると、焦れる気持ちとは裏腹に頭は熱を持ったようにぼうっとなってろくに動かない。なにか、とても簡単な言葉で核心に触れられそうな気がするのに、口を開けば出てくるのは甘えや弱音ばかりになりそうで、結局何も言わないままもう一度頭を下げて茶の間を後にした。
 昼間言いたかったのはこれではないかと、寝不足気味の頭にぼんやりと浮かぶものがある。夜更けの静けさが気付かせてくれたのかもしれない。
(なんだ…)
 こんなにもありふれた言葉だったのか。
 だが、それは重い。ありふれた日常で使われる言葉が、今は途方もなく重かった。
(ツナ、お前も)
 この言葉を言ったのか。
 平凡にすら聞こえる言葉で、永遠の別れを。
(獄寺、お前は)
 きっと、はるか昔にそんな言葉は甘いと躊躇わず捨ててきたのだろう。だから今綱吉の隣にあいつはいる。
 では、俺は?
 すうっと息を吸い込み、ゆっくりと時間をかけて吐き出す。肺の中の空気を入れ替えると、気持ちが切り替わって体が引き締まる。高校の部活中にイメージトレーニングで身につけたものだ。
 寄りかかっていた壁から身を起こし、向かい合うように座りなおす。滅多にやらない正座はジーンズの膝を締め付けた。背筋を伸ばし、壁の向こうへと意識をこらす。
 明日になったら、俺はあなたの息子ではなくなる。泥だらけになってボールを追いかけた、初めて買ってもらったグローブで三振をとった、初めて貰った背番号を自慢げに見せた、甲子園で逆転満塁ホームランを打って優勝旗を手にした、あなたの息子はいなくなる。「ドラフト一位指名で、三年後はメジャーリーガーね」と半分冗談半分本気な顔で予想を立てる近所のおばさんに、「こーんな野球馬鹿はよお、そこしか食ってく場所がねえのよ。何しろ馬鹿だからよ」と笑い飛ばして、隣に立つ俺のとっくに届かなくなった頭を腕を伸ばして張り倒したあなたは、俺を心の底から愛してくれた人だ。
 夜が明けたらあなたとこの男は赤の他人だ。愛した子供は永遠に消える。俺がこの国に捨てていく。
 しかたがない。知らず知らずのうちに眉間にしわが寄った。部屋を包む静けさに耳が痛い。
 だってしかたがない、何度同じ場面がきても、俺はきっと何度でもこの道を選ぶ。あの二人の力になりたくて、海を越える道を。今までの家族を捨て、新しい家族の一員になる道を。
 ひとりっ子だった俺に、そこで初めて兄弟ができる。イタリア中、もしかしたら世界中から集まった歳も人種も様々な兄弟。獄寺隼人は数ヶ月違いの兄だ。
 母親のいない閉ざされた家族。彼らは父親のもとへと帰るのだ。両腕を広げ、迎え入れてくれるその人が我が家だ。
(同い年の兄貴ってのもあれだけど、同い年で父親ってのはなあ…)
 眉間をくしゃくしゃにしたまま、ほんの少し笑った。それがまぎれもない真実だから、それを前に笑うしかない。俺も、新たに増えた子供として、その家の扉を叩くだろう。父親の名は、沢田綱吉。
 明日、新しい父親に会いに海を渡る。その情景を思い浮かべた。懐かしい同級生は、あの日のままの笑顔でいてくれるだろうか。
 その前に俺は俺のけじめをつけなければ。
 まばたきをするとぼやけかけの視界がクリアになった。体から無駄な力を抜くと、自然に眉間のしわも消えていった。
 向かいの部屋で、もしかしたら自分と同じように起きているかもしれない背中に向かって深々と頭を下げる。部屋の隅に転がした携帯が午前零時のアラームを鳴らした。
 ああもう時間的には「明日」になったのか。頭を下げたままで思う。自分を殺して、もう一度生まれる日が来た。
(でも今はまだ)
 まだ街が眠っているうちは、夜が明けないうちは、朝日がこの身を照らさないうちは、
(俺はあなたの子供です)
 だからこの言葉を言わせてください。あなたの息子からの言葉を聞いてください。面と向かって言わなくても、壁を隔てたささやきでも、必ずあなたには聞こえるはずだから。
 顔を上げた。壁の向こうに、昼間見た自分よりひとまわり小さくなった背中が見える。その背中に精一杯の笑顔を作った。
 もう二度と会えないからこそ、愁いのない最高の顔でその言葉を残す。昔から皆そうしてきた。海の向こうの父も、きっと。
 新しい道を歩き出す者達に、手を振りながら何度となく使われてきただろう。
 今度は俺の番だ。
 笑顔のままで再び頭を下げた。
(そして今はまだ、あなたをこう呼ばせてください)
 あなたをこう呼ぶのもこれが最後だ。
 もう一生分愛してもらった。あなたの子供で幸せだった。
 だから行ってきます。
 
「行ってきます。…お父さん」


* * * * * * * * * *


*あとがき*

 私の中の山本像は、「普通の子」です。その上で「戦う人間」でもあると思っています。
 で、そういう人間がこの先本当にイタリアに行く道を選んだとしたら、それまで培ってきたものを捨て去るのはきっとすごく辛いだろうな、と思ったのがこの話のきっかけです。
 好きなら野球は続けるはずだし、才能があってチームにも運にも恵まれれば甲子園にも行けるだろうし、その結果当然プロの世界へ進もうとするでしょう。夢と現実が直結する道が目の前に開けていて、それを全部諦めてまったく違う道を選ぶのは、まさに自分で自分を一度殺して生まれ変わるようなものだと思います。
 それとは別に、戦うことを知っている人間が、アマチュアの世界で満足してプロの世界を覗かずに自ら舞台を降りるなんて到底出来ないんじゃないかとも思ったので、作中で二年間だけプロの球団に在籍していたことにしました。
 山本は野球が一番な男だけど、ツナと獄寺とも一緒にいたいと思っていて、二人がマフィアとして生きていくなら自分もその道に踏み込むしかないと分かっています。作中では、捨てたくないものの二者択一を常に問われる思春期を過ごしています。二人は迷っていないように山本の目には映るから、山本視点で見た二人はとても遠い存在なわけです。あ、作中二人をやたら褒めちぎっているのはそのせいです。山本の心象がそう見せていただけです。自分が足踏みしていると思っている山本から見たら、もうものすごく二人が大人に見えるだろうなと思ってああいう風に書きました(実際かなり恥ずかしかった…)
 ツナだってフツーの子だけど、リボーンっていう家庭教師が昼夜を問わず生活を仕切っているならやっぱり中身もそれなりに変わっていくと思う。獄寺は最初から腹を括っているし、客観的に見ても三人の中でこれからに必要な知識や協力を一番得られにくい立ち位置にいるのが山本だと思います。
 だからこの『リボーン!』のお話を一気にシリアスモードにした時、一番ワリを食うのはやっぱり山本だろうなあと思ってしまいます。だって表社会と裏社会の「戦い」じゃ、比べる意味もないくらい途方もなく内実が違うもんね。怖気づくのが普通だよ山本。
 それでも最後の最後で、山本はこの道を選ぶだろうなとも思っています。友との絆を断ち切れる男じゃないでしょうから。
 本当に、天然でも天然装った策略家でもない、悩んで迷って苦しむ、普通な奴なんですよ私の中の山本は…かっこ悪くてかっこ良いというか(あれ?)
 もうひとつ書きたかったのが親と子。あるマンガで「やりたいことが出来たからもう会えないって言ったら『子供の時に目一杯愛したんだからもうどこでも好きなとこに行け』って親父が言ってくれたんです。だから覚悟が決まった」みたいな台詞があって、『リボーン!』だったらこのシチュエーションは絶対山本親子だ、それ以外ないと思い、後半にくっつけて書きました。
 しかし山本父は難しかった。この人の台詞だけで一体どれくらい書き直したか。今も正直ニセモノにも程がある感てんこもりなんですが、さすがにもうどう直していいやら分からなくなったのでこれで妥協しました。つか、頑固親父があんなに饒舌になるとは思えない…しかし喋ってくれないとお話が進まないというこの矛盾。でも親子の別離と、山本が新しい父親を持つと決心するシーンをどうしても書きたかったので、削らずに乗っけました。筆が及ばないのがなんとも悔やまれます。本来もっと素晴らしい文章が書ける方がこういう難しい場面を書くべきなんですよね。身のほど知らずで恥ずかしい限りです。

 長々と言い訳を連ねてしまいました。この辺で失礼します。あの、もし良ければ*下のおまけ*も呼んでください。(まだ懲りないのか)



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