Everything is made from dream
暗い部屋の中から遠く近く散ばる街の明かりを見つめる。 数え切れぬその光の地図は毎夜不変のように見えるが、だが一つとして同じ物ではない。 時折。 彼は酷く醒めた眼をして、開け放ったカーテンから望むこの明かりを見ていることがあった。 同じ熱を、同じ吐息を、体液すらも分け合っても、彼の視線はどこか遠くを見据えていて。 自分には知りえぬ遠くを見つめるその眼が怖くて、そっと頬に手の平を寄せると、我に返ったように視線を戻す。 問い掛けるように向けられたその強さに怯え、言葉の代わりに落とされる接吻けに酔ったふりをした。 彼がその冷ややかにすら見える視線で眺めていたものは、何だったのか。 彼の長き不在の静寂に、一人同じ色彩を見つめ、その意味を探ることもある。 だがすべてを覆い尽くすには明るすぎる月の光と、地上に散らばる光の波に彼の視線の色を重ねることはできず、溜息をつくのが常だった。 もしかしたら彼が薄暗い闇の中で見つめていたのは自分たちの関係なのかもしれない。その考えに至ったのはいつの頃だったか。 恋と言うには過ぎるほどお互いを見つめすぎ、友情と言うにはあまりにも近い距離を保ちすぎる。 これが愛というものかは今でも分からないけれど。 だが、自分はそんな名前の繋がりを求めていたのではないだろうか。 『こんなことさせとるのはキミだからや…』 言葉にならぬ彼の問いかけに、繰り返し囁いたのは彼を絡め取るためか。 どうしたら彼を捉えたまま惹きつけておけるのか。ただそれだけを算段するように、密かに媚を含んだ自分の言動。 それに彼は気がついていたのか、いなかったのか。今となっては分からない。 ただ。 『…いつも傍にいるから』 ―――― だから泣くんじゃない。 苦笑交じりに落とされた接吻けの味は、今も覚えているけれど。 分かっているのは彼のその言葉が守られなかったと言うことだけだ。 吸うどもなくマッチの微かな燐光に翳した煙草が、白い流線を描く。 白いシャツに、少しぱさついた黒い髪に染み付いていた、くすんだキャメルの匂い。懐かしいその香りに胸の片隅がざわりと波立つ。 どんなに掻き抱いても掴めなかった彼の背中は、夜を重ねるごとに遠いもののように思えて、今はこの手のひらにそのぬくもりを思い出すことができない。 「……嘘吐き」 小さく呟いてみた言葉は紫煙とともに目に染みて。 窓辺に蹲った自分は今もまだ一人きり。 |