突然の雨に追われ駆け込んだ軒下で空を見上げた。 鈍色の空には雲が切れ間無く覆い昼間というのに陽の光一つ射してこない。 ずぶ濡れ衣類が肌に張り付き、一つくしゃみをした。 雨脚は次第に激しさを増して、地面に叩きつけられた飛沫で裾といわずすぐにびしょ濡れになる。 このままここで雨宿りをしつづけるべきか、それとも…。 待つだけ状況が悪くなるような気がして、それでも雨に打たれつづけていた身体は束の間の穏やかな空間に慣れ、また冷たい雨の下へ一歩踏み出す勇気がでない。 せめて傘があれば、そう思った時道向こうに友人の姿を見かけた。 気がつかないだろうか。 「あ…、」 声をかけようとした時、傘をさした彼の隣に誰かがいるのに気づく。 セミロングの黒髪の印象的な女性。 法学部の講義でよく彼に話しかけていたのを覚えている。 多分彼女が想いを寄せているのであろう優しい瞳の色をした友人は、楽しそうな表情で彼女に話しかけていて。 道一つ隔てた彼等は軒下の存在に気がつくことなく、やがてけぶる雨幕の向こうに姿を消していった。 そんな姿をただ眼で追うしか術はなく、やがて戻ってきた一人だけの空虚な空間に知らず白壁に凭れ掛かった。 口では友人とは言っているが、大学の友達など所詮ただの顔見知りだ。 どうせ後数年も経てばお互いの道も分れ、そのうち存在すらも朧気になってくる程度の付合いでしかない。 そんな相手に何を望んでいたのか。 そう、自嘲して。 それでも何故か濡れほそった体躯とは裏腹に、乾いた気持ちを感じていた。 雨音がやけに遠くに響く。 「またこんな所で道草しくさってからに」 不意にかけられた声に顔を上げた。 「どうして君はそんなにずぶ濡れになってぼーっとしとくのが好きなんやろうな」 呆れ顔の彼の顔が間近にある。 「講義はどうしたんや」 「雨が降ったから休講」 そう言った途端変わる表情に頬を緩める。 「嘘だよ、今日はもともと年度末の調整期間で休講だったんだ」 「やったら初めから言っとかんかい。あうやく大学まで行ってしまうとこやったやん」 溜息一つ吐いてそう呟いた彼に、低く謝罪した。 大学を卒業するまでの付き合いの筈だったのに。 なぜか彼は今も傍にいる。 濡れた髪を掻き揚げにくる手も、少し怒ったように尖らせた紅い唇も、そのままに。 いつからか変わっていったお互いの関係の歪みを内に隠し持ちながら。 「いつまでもそんな所で濡鼠になっとくつもりなんや、ほら帰るで」 幼稚園児でもここまで手ェ掛けさせんで、そう毒づきながら、当たり前のような顔をして彼は傘を差し出してきて。 だから自分は黙ってその傘を受け取る。 |