さて、前回に続いて今回もちょっとイレギュラーな対決。テレローライと3.5F+1.5xムターを比べてみたいと思います。 テレローライ(ゾナーF4)の画角は135mm。35mm換算ですと75mm程度でしょうか。3.5F+1.5xムターでは62mmほどかな。ものすごい望遠というわけではないですね。「ポートレートなどにちょうど良い」と言う方も多い、控えめな望遠です。 さて、前回のような「意外な結果」が出るでしょうか? 尚、今回の比較もCDGさん、風来坊さんのご協力を頂いております。CDGさん、風来坊さん、ありがとうございました。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f8, 1/30 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f8, 1/30 |
ワイドと3.5F+0.7xムターの画角の違いは、「半歩前へ出るか否かという感覚か」と書きましたが、テレと3.5F+1.5xムターではやはりかなり違いますね。35mm換算でざっと13mm違うのですから仕方ありませんね。 パッと見で3.5F+1.5xムターの歪曲が目立ちます。四隅に引っ張られた感じと言うか真ん中がへこんだ、あるいは浮き上がった感じで、お世辞にも自然とはいえません。周辺の解像度もかなり落ちます。サービス判でプリントしても分かるであろうレベルです。 一方のテレは何とか許容範囲といったところでしょうか。周辺の歪曲もあり、中心から外へ見ていくと割と早いところからコントラスト、解像感とも落ちてきて、タイルの目地の線がやや毛羽立って見えてきますが、中心部を活かす構図であれば我慢できるレベルでしょう。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f4, 1/500 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f4, 1/500 |
パッと見て、テレはそんなに問題を感じませんが、3.5F+1.5xムターは画面横方向のピントが外れていく方向だけでなく、ピントを合わせた真ん中の支柱を上下方向に見ていっても「ありゃ?」という感じです。つまり周辺に行くにしたがって目に見えて画質が低下していくということですね。ちょっと二線ボケっぽくなる傾向です。はっきりと2本の線になってしまうわけではありませんが、連続的にきれいにボケて行きません。ちょっと酔ってしまいそうなボケ具合です。 テレの方がボケ方は素直。ややクセがあるようにも思いますが、被写体を中心に据えて、周辺をぼかしたいというオーソドックスな構図なら問題ないでしょう。3.5F+1.5xムターでは背景を選ぶと思います。クセのあるボケ具合が気になる場合もありそうです。 残念ながら、テレもそれほどシャープな感じではありません。個人的にはこういうものを撮るときには、もう少し金属感が出て欲しいのですが、あまり「カタさ」が出ていません。「ポートレート用だった」と紹介されていることもありますので、そういうものと理解して使ってあげればいいのかも。3.5F+1.5xムターはそれを下回って(苦笑)もっさりしています。よくTVドラマなどで、「割れやすいビール瓶」が使われますね。一瞬しか画面に映らなくても何となく輝きが本物の瓶とは違いますよね。良好な写りを本物のビール瓶に例えるなら、3.5F+1.5xムターは残念ながらあの小道具のビール瓶といった質感です。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f4, 1/125 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f4, 1/125 |
このカットを見ても、どちらもあまりカチッとした感じはありません。 それでも比べてみると、全体にテレの方が解像感、コントラストともに上です。やや軟調ではありますが、メリハリがあります。3.5F+1.5xムターの方はちょっと、「大きくは伸ばしたくない」といった感じです。中心部はまだいいのですが、いいと思える範囲が狭い。上のフェンスの写真を見てもお分かりのとおり、被写界深度はテレよりも妙に深くなるにもかかわらず、例えば門の上のしめ縄など、テレでは編んである藁の1本1本が見えるのに、3.5F+1.5xムターではほとんどつぶれてしまっています。手前にある木の葉のボケ方もざわついた感じで、「うるさいボケ方」です。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f8, 1/500 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f8, 1/500 |
これはちょっとここまでと違う結果になりました。ビルの外装のタイルの線が、3.5F+1.5xムターの方がよく写っています。もしかしたら、ピントを中心でなく左のビルの角に合わせているので、「ピントを合わせたところとレンズ性能の一番いいところがより一致している」というだけかも知れませんが、一応、1.5xムターの名誉(?)のために正直にご報告しておきます。(笑) テレの方も写っていないわけではありません。「写ってはいるけれども、軟調なのではっきりしていない」というだけかも知れません。しかし、中央からちょっと上の辺りにある屋上のアンテナも、この比較に関してで言うと3.5F+1.5xムターの方がクッキリしています。 画面の歪みに関してはどちらもこういう構図ではやや気になるレベルでありますが、やはり3.5F+1.5xムターの方がより顕著ですね。平らな歩道橋がアーチ橋のようです。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f8, 1/60 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f8, 1/60 |
元々、色あいを見たくて撮ったカットなのですが、色あい的にはどちらも素直な発色。同じ傾向です。順光で撮っている分にはどちらも特に問題なさそうです。 描写についてもこのカットではどちらもわりと良好でした。傾向としてはテレの方は変わらず、やはり全体にやや軟調。3.5F+1.5xムターの方が全体のクッキリ感がやや高いかな…。「全体にクッキリ感が高い」というのは、「もう少しボケてきてもいいはずのところでまだボケていない」ということと裏表なのですが…。これは大きくプリントする時には印象がだいぶ違ってくると思いますので、目的がはっきりしている撮影なら使い分けたいところでしょうね。 質感の表現としてはどちらもいい感じです。こういう撮り方をするときなら、あまりアラが目立たないということですかね。これくらいなら1.5xムターも十分使えると思います。 |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f8, 1/15 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f8, 1/15 |
逆光気味になってくるとどちらも影響が出ますね。(テレの方が3.5F+1.5xムターより少しシャッタースピードが長めだったのか明るく写っていますが、比較自体は段階露光した上で行っています)とはいえ、広角対決だったワイド、0.7xムターたちに比べれば、ちょっと意識していれば大ケガは回避できるかな、というレベルです。おおむね、優秀と言えるでしょう。 ものの質感も木材部分、金属部分、塗りの部分まで含めて良好。金属のきらめき、木材に塗りを施した部分のテカリなど、いい感じ表現できています。 3.5F+1.5xムターの歪曲は気になると言えば気になりますが、こういう構図なら「コンバージョンレンズでこれだけ写っていれば」と割り切れないというほどでもないように思います。ただ、ピントをこっちを向いている狛犬の目にあわせると、テレではすぐ後ろの横を向いている狛犬からボケてきますが、3.5F+1.5xムターでは奥の狛犬まで結構ピントが来てしまっています。この辺が扱いにくいところですね。やはり一般的な、「望遠レンズで絞りを開けて被写体を浮き立たす手法をローライ二眼でやりたいなら素直にテレを入手すべし」と言うべきかもしれません。(そんなときがどのくらいあるかですが) それにしても、カラーの方が3.5F+1.5xムターの「アラ」が目立たないのは何故でしょう? |
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Tele Rolleiflex(SonnarF4) f4, 1/8 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar1.5x f4, 1/8 |
夜景で試してみました。 結論から言えば、この条件ではテレの圧勝です。クッキリ感。自然なボケ。3.5F+1.5xムターも健闘しているのですが、全体にキレがありません。よく「ベール1枚かかっているような」というような表現をされる方がいらっしゃいますが、これもまさにそんな感じです。細かいところまでせっかく写ってはいるのですが、何かぼやけています。画面周辺に行くとさらに滲んだようなボケ具合。 …と、この2枚ではそうなのですが、どうやらf8まで絞ると3.5F+1.5xムターは一変するようです。同じところからf8にして撮ってみたコマを見てみると、不自然な滲みは消えスッキリ。解像感も上がり、「え?これ同じレンズ?」と思うほどです。テレの方もf8まで絞るとやはりシャープさが向上しますが、3.5F+1.5xムターほど極端な変化ではありません。 改めてここまでにご紹介したカットの露出違いのコマを見直してみると、やはり絞りを変えたときの変化は3.5F+1.5xムターの方が顕著です。光の限られている夜景まで撮ってみてはっきりしましたが、昼夜を問わず、絞りを開け過ぎないのが1.5xムターを使うときのポイントなのかも知れません。 0.7xムター、1.5xムターを続けて見てきたわけですが、どちらも「思ったほどは悪くもない」というのが私の印象です。もちろん、「コンバージョンレンズとしては」という接頭辞は着きます。こだわる人なら結局、ムターを手に入れても使わず、テレ、ワイドを探すことにはなるでしょう。(笑)しかし、例えばF型をいつもお供にされていて、「他に2台もなんて重くて持って歩きたくない」というような方には、一定のメリットがあるアタッチメントだと思います。単体で完成形となっているテレ、ワイドに比べれば、しっかり写る絞り値が狭いなどの制約はありそうですが、それを理解して使いこなせばいいのでしょう。あるいはわざと雑然としたボケを利用した表現で遊んでもよいかも。古いカメラを使いこなすというのは、そもそもそういうことも楽しみの1つですから。 F2.8のレンズとの相性もいずれ試してみたいと思います。 一方のテレですが、これもある程度使い場所を選ぶかも知れませんね。今回の試写の範囲で言うと、基本的にはあまり硬質な描写が期待される撮影よりは、やはりポートレートなどに威力を発揮するのかな、という気がします。とはいえ、絞り値、露出による変化をちゃんと使いこなせるようになれば、1台の、レンズ交換もできないカメラながら、なかなか幅広い表現にも対応できそうです。「職人芸」の域を目指してみるのも面白いのではないでしょうか。奥の深いカメラだと思います。 |