さて、久しぶりの新ネタ…、と言っても「仕込み」はもう4年も前ですが(シュミマシェン)…、をやっと公開させていただきます。ワイドローライと3.5Fプラナー+0.7xムター(倍率0.7)のコンビの変則対決です。 尚、今回の比較には、CDGさん、風来坊さんのご協力を頂きました。CDGさん、風来坊さん、ありがとうございました。(見てくださってますか〜!) さて、ご存知の通り、「ムター」というローライTLR用のコンバージョンレンズには、「ワイド」用の「0.7x」と、「テレ」用の「1.5x」の2種類があります。さらにカメラ本体に装着するバヨネットにはB2とB3がありますが、基本はB2、つまり75mm用の設計だったようです。というわけで、今回の比較はワイドと3.5F+0.7xムターの組み合わせで行いました。 「元々ムターが発売されていたときには交換用のバヨネット部分がセットで付いていた(つまりB2、B3とも付いていた)」という話も聞きますが、私は「元箱入り」として中古市場に出回っているものでも、交換用のバヨネットが入っているものは見たことがありません。(交換用のバヨネットそのものが箱入りで売られているのは見たことがありますが)いずれにしても、現在では購入した時点で装着されているバヨネットのままで使わざるを得ないことがほとんどでしょう。(うまく「レンズが破損している」などのバヨネットサイズ違いの固体がジャンクとして安く手に入れば、付け替えて使用することは可能でしょうが) 一方、ワイドはと言えば「生産台数が少ない」ということで、中古市場では高値で取引されておりますが、(発売当時はテレの方が高かったようであります)、某有名写真家の方には以前に「駄作である」と評されたようであります。果たして、その写りのほどはいかがなものでしょうか。 まずはワイド、テレと、ムターを使用した場合の3.5Fとの画角を確認しておきましょう。 |
今回比較したワイドと3.5F+0.7xムターの組み合わせですと、画角55mmと52.5mm(いずれも公称)の比較となるわけですね。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f8, 1/30 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f8, 1/30 |
こうして見ると、計算上で2.5mmの違いというのは半歩前へ出るか否か、という感覚でしょうか。心理的には結構大きいといえるかもしれません。 それぞれを単体で見ているとあまり気にならないのですが、意外なことに3.5F+0.7xムターと比べるとかえってワイドの樽型歪曲が目立ちます。逆に言うと、3.5F+0.7xムターの歪曲が非常に小さいのに驚きます。言ってしまえばただの…、いや、高価な(笑)「コンバージョンレンズ」なんですが、中心部が浮き上がったように見えるワイドに対して、かえって自然な感じです。 解像感、クッキリ感もむしろ3.5F+0.7xムターのほうがあるように思います。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f4, 1/500 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f4, 1/500 |
このフェンスはどうでしょう。ここでも3.5F+0.7xムターが健闘し、細かいところまでがんばって描写しています(特に中心部)。一方、ワイドの方がコントラストというか、ちょっとメリハリがあるように見えます。(3.5F+0.7xムターの時より日差しが強い瞬間にシャッターを切ってしまっているのかも知れませんが) 同じ絞りにセットすると、3.5F+0.7xムターの方が実質的にやや暗くなるせいか、被写界震度はより深くなり、一方画面横方向で見ると周辺の解像度は大きく落ちていきます。使いようによっては3.5F+0.7xムターはメインの被写体をより際立たせることができるかもしれません。逆に、ワイドの方がカメラの描写としては素直です。もし、「F型とワイドの2台持ちか、F型プラスムターで少しでもコンパクトにまとめるか」でお悩みの方がいらしたら、この辺は悩みどころかもしれませんね。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f4, 1/125 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f4, 1/125 |
うーん…、むずかしいなぁ。どう表現したらいいのでしょう。 細かいところの解像感に関して、3.5F+0.7xムターが意外なほどいいのですが、それでも全体を見渡したときのメリハリはワイドの方がいいと感じるんですね。「解像度は3.5F+0.7xムターが健闘しているが、コントラストはワイドの方がいい」と言えばいいでしょうか。ワイドの方が、影が影としてしっとり写っている感じです。悪く言えば「シャドウがつぶれ気味」とも言えるかも知れませんが、画面全体としてのメリハリがあるのです。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f8, 1/500 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f8, 1/500 |
こ、これは…!?ちょっと失敗したかな? この画像では、ワイドがちょっと悪すぎますね。手前のビルにピントを合わせているのですが、建造物のかっちりした感じがぼやけてしまっています。対して3.5F+0.7xムターは相変わらず「意外なほど」しっかりとした描写を見せています。窓などの輪郭もカチッとした感じです。周辺へ行くとさすがにつらくなってきますが、とても「コンバージョンレンズ使用」とは思えません。 …ワイドの方はもしかしたら、シャッターを切った時にバスの振動でも拾ってしまったかもしれません。 色合いについてはほとんど差がありません。非常に素直な「ツァイス色」であります。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f8, 1/60 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f8, 1/60 |
うーん、やはり3.5F+0.7xムターが予想以上にいいですね。特に中心部分については、ワイドを凌ぐ解像感です。真ん中の獅子飾りには、金色に塗ってあるところに微妙な地模様が見えるのですが、この“スジ”が3.5F+0.7xムターの方がはっきり写っています。もっとも、そこだけ見てもどちらがどちらかを判別できる方は少ないでしょうが。 周辺部についてはやはり、当然と言えば当然ですが、3.5F+0.7xムターの方に分が悪いようです。頑張ってはいますが、ややざわついたと言うか、いささかナチュラルさのないボケ方になります。 奥行き方向については、モノクロのところでも述べたとおり、ワイドよりも3.5F+0.7xムターの方が被写界深度が深く、山門下の暖簾にまでそこそこピントが合った感じになってしまっていますが、ワイドでは自然にボケています。この辺、どちらを自分の撮影スタイルに向かないと考えるか、むしろ好都合と考えるか、好みが分かれそうです。 発色はともに良好。本当に、0.7xムターは「たかがコンバージョンレンズ」とは侮れませんね。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f8, 1/15 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f8, 1/15 |
やや逆光気味のこのカットでは、ともにかなりフレアが出てしまいました。 もう少し細かく見てみましょう。 どちらのフレアも似た形で出ていますが、その影響は3.5F+0.7xムターの方がより強く出ています。ワイドでは画面の右上25%程度に影響が出ているという感じですが、3.5F+0.7xムターの方はというと、画面の40%以上に出てしまっている感じです。しかも、そのフレアの色目がかなり青白く、気になります。ワイドの方は比較的ナチュラルな色調を保っていて、「ああ、フレアだな」とは思いますがあまり嫌味がありません。 細部の解像感、クッキリ感はやはり3.5F+0.7xムターの方があるようです(特に中心部)。ワイドも悪いとまでは言いませんが、全体に軟調です。 |
![]() |
![]() |
Wide-Angle Rolleiflex(DistagonF4) f4, 1/8 |
Rolleiflex3.5F(Planar)with Mutar0.7x f4, 1/8 |
夜景で試してみました。 どちらもパッと見ではいい感じですが、一言で言えばやはり「バランスのワイド、中心部のクッキリ感で3.5F+0.7xムター」でしょうか。 画面ほぼ中央のビルの時計台の下の窓には飾り格子が付いています。描写が柔らかいとはいえ、これはワイドでももちろんきちんと写っています。しかし、驚くべきことに3.5F+0.7xムターはそれを上回ってクッキリスッキリと写っているのです。 しかし、そんな優秀な3.5F+0.7xムターの組み合わせですが、やはり周辺部においては分が悪く、端のほうに写っているネオンや看板を見ると、ワイドが周辺まで自然な写り方をしているのに対し、3.5F+0.7xムターでは2線ボケというか、露出を変えて2重露光したような滲み方をしてしまっています。この違いのせいか、3.5F+0.7xムターの方がより鮮明な部分もありながら、画面全体としての“落ち着き”はワイドの方があるように感じます。この辺は分かっていて使えば、それぞれの「特性」として活かせるところかも知れません。 普通は、一貫した設計で完成されたカメラ、レンズと、コンバージョンレンズを付けたカメラ、レンズを比較するなどと言っても、「どうせコンバージョンレンズの方が悪いに決まっている」と決め付けられそうなものです。それに反して、今回のムターについての結果はなかなか興味深いものとなりました。さすがは超高級。そんじょそこらのコンバージョンレンズ風情とは格が違います。(笑)通常の撮影では十二分な性能でしょう。知らない人なら撮影結果だけ見たって、まさかコンバージョンレンズ使用とは見破れないでしょう。 そうとなると問題は、「ローライ二眼で広角撮影をしたい」と思った時に、「ワイドを買うべきか、ムターを使うか」、ということだと思います。 もし、ローライ二眼をまだ持っていない方が、「できるだけ広角なレンズを」と所望されるのであれば、これは潔くワイドを探された方が使い勝手がいいでしょう。対して、ローライ二眼(F型などムター対応の)をすでに持っていて、たまには画角を変えてみたいということなら、ムターも有力な選択肢かも知れません。ワイドを買い足しての2台持ちより、経済的にも、持ち歩きの重量的にも大幅に負担が軽くて済みます。ムターが画質的にお話にならなければ話は簡単なのですが、ワイドで30〜40万以上も出費するなら、「高いとはいえ程度がよくても10万ほどのムターで楽しもう。気分で画角を変えられるし」というのも堅実かもしれません。(まあ、そこで悩むような方は結局、ムターを買った上にワイドも買うことになりそうですが(笑)) ワイドと3.5F+0.7xムターの描写の違いは、プラナーとクセノターの違いにちょっと似ています。全体に甘めだが周辺まで破綻の少ないワイドと、中心部で鮮鋭だが周辺では描写が崩れてくる3.5F+0.7xムター、ということです。クセノター的な特性を、中心近くのメイン被写体を目立たせるのに好ましい特性と捉える方には、ムターはかえって好ましい特性を持っていると言えるかも知れません。「広角撮影に対する投資額」も抑えられます。「いや値段は張っても、中心から周辺まで素直で安定感のある方がいい」というならやはりワイド、となるでしょうか。 ワイドにしろムターにしろ、程度のいいものはそれなりの出費を強いられるところがまた難点ですね。また、欲しいと思ったときにタイミングよく、値段と程度のバランスのいいものが見つかるとは限らないのも頭の痛いところです。それでもご興味を持たれた方は、気長にボチボチと探していると、いい出会いがあるかもしれません。 50〜55mm。お散歩のお供には中々、気持ちのいい画角ですよ。 |