16.Rolleicord ArtDeco(TriotarF4.5)  vs  Rolleicord1(TriotarF3.8)

 さて、今回からは戦前ローライコードにスポットを当てていきましょう。

 戦前ローライコードと言えば、レンズは「トリオター」であります。その名の通り、前、中、後の「3枚玉」と、現代レンズに比すれば非常にシンプルな構成となっています。
 しかしながら、「味のある描写が好き」というファンの声も良く聞きます。その実力は、いかほどのものなのでしょうか。まずは、ローライコード第1号、いわゆる「アールデコ」に搭載されたトリオターF4.5と、初期1型のF3.8を見てみます。

 尚、この「トリオター比較シリーズ」では、ととろさん、ツグムさんのご協力をいただきました。ありがとうございました。


RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f8, 1/100
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f8, 1/100


 いつもの通り、歪曲具合から見てみました。
 3枚構成というシンプルさから、また「古い時代の“フレックスの廉価版”」という位置付けから、もっと気になるほどかと想像していましたが、F4.5、F3.8ともに「やや樽系」という程度で、わりと穏やかな出方です。この2台で比べてみると、F4.5の方が若干強めに歪曲が出ていますが、それでも「非常に気になる」とまでは思いません。
 共通しているのは、どちらも単なる「樽型」というより、特に「同心円状に歪んでいる」というか、「真ん中が浮き上がっている」という感じに見えるということでしょうか(まあ、レンズで正方形に投影しているのですから、そりゃそうなのでしょうけど)。


RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f4.5, 1/100
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f3.8, 1/100


 「F4.5とF3.8で、絞り開放で撮ってみても、際立つほどの被写界深度の差はないように見える」という点では、スタンダードのテッサーを比較した時と同様の感想です(もちろん、よく見れば差はありますが)。
 それよりも、上の写真をご覧いただくと、恐らくWEB上でもお感じになると思うのですが、F4.5の方が随分柔らかい描写です。悪く言えばコントラスト感に欠けています。逆に、F3.8の方が黒がより深い黒に描写され、締まって見えます。このカットの他に、絞り8同士でも撮ってみたのですが、それでも同様の傾向でした。テッサーの時は、F4.5とF3.8で、「総合的に見ると、やはり“兄弟”であることを感じさせるかな」という印象を持ったのですが、トリオターではこの2つの開放値のレンズの間にも、ややキャラクターの違いがあるようです。


RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f4.5, 1/25
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f3.8, 1/25


 さてさて、この文字ばかりの看板はどうでしょう。
 これはWEB上ではお分かりになり難いと思いますが、総合的にF4.5がいい結果のように思います。中心部と周辺部の差が少なく、まとまりのある描写をしています。対して、F3.8は中心部のコントラスト感でややF4.5を上回るのものの、周辺部での破綻はF4.5よりかなり大きくなっています。そこだけ見ると、「手ブレしたか?」と思うほどです。


RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f5.6, 1/100
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f5.6, 1/100


 さて、今度はちょっと絞って、f5.6にして見てみましょう。
 すると、面白いことに、今度はF4.5の方が、中心から周辺までシャープな印象を増してきました。F3.8は開放での特性とあまり差がなく、中心でそこそこシャープ、周辺に行くと像がやや崩れてくるため、屋根のハイライト部分、特に端の方ではちょっと飛んでしまったような感じになっています。
 もっとも、その差は開放時のキャラクターほど明確ではなく、「やはり兄弟」であることを思わせる結果と言えると思いますが…。


RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f8, 1/50
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f8, 1/50


 スンマセン!私としたことが、カブらせてしまいましたぁ!(笑)
 しかも両方。(T-T)
 まあ、何でこうなったかの言い訳はおいといて、感想を述べさせていただきます。

 ここでは、f8にしてみました。奇しくも両方同じようなカブり方をしてくれているので、WEB上でも分かりやすいのではと思うのですが、やはり、コントラストはF3.8の方が高い感じがします。F4.5の方が明らかに柔らかいです。個体のレンズ状態は決して悪くないと思いますので、ほぼ「特性」とみていいのではと思います。
 では、F4.5の方が解像度が低いのかというと、そうではないようです。細かいところが出ているかどうかという意味では、必ずしもF4.5が劣っているわけではなく、部分的にはむしろ出ているようにも思えます。
 また色目を見ると、このカットではF4.5の方がややシアンよりです。



RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f8, 1/25
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f8, 1/25


 これもf8にしてみました。
 「ちょっと絞ったら、シャープさが増したか?」と思ったのも束の間、ここではF4.5はあまりいい結果ではありませんでした。露出を変えて3枚撮ってみたのですが全て同じです。どうやら、少なくとも今回比べた個体で言うと、F4.5の方がF3.8より、強めの光や反射がレンズに当った時にフレアっぽくなりやすいようです。
 今回はわりとさっさと撮影してしまったのですが、このレンズをより活かしてあげるためには、もっとハレ切りに気を使ってあげる必要があるのかも知れません。



RolleicordArtDeco(TriotarF4.5)
f8, 1/25
Rolleicord1(TriotarF3.8)
f8, 1/25


 最後のカットは、歩道橋の上から撮っていますので(と言っても、コンクリートの連絡橋ですが)、多少震動の影響があったかも知れませんので、参考程度に見てみます。
 画面奥の方まで並んでいる信号が、点光源としてどう見えるかに注目したのですが、あまり際立った差は見てとれませんでした。曇天の下、f8としたこのカットでは、やはりF4.5の方が画面全体に締まりがあり、F3.8は中心部ではいいのですが、周辺部ではやはりF4.5に1歩譲るという出来でした。


 「トリオターを買うなら、暗いのにしとけ」という方がいらっしゃるそうですが、その「暗いの」というのは、F3.5のモデルに対する、今回試写したこの2種のレンズのことであると思います。しかし、実際に試写してみると、「もっとも暗いの」と「真ん中の」の間には結構なキャラクターの差があり、こだわる人には中々興味深いところだと思います。
 開放で柔らかく、絞るとキリリと締まってくるF4.5モデルは、ある意味「万能選手」と言えるかも知れません。一方、どのシチュエーションでも総じてコントラストが高く、中心部から周辺部にかけて緩やかに像が崩れていくF3.8モデルは、そうした特性を「立体感の演出」ととらえる方には面白いモデルかも知れません。

 「比較的安価に入手できるローライ」であるローライコードでも、これほどいろいろ楽しめるとはうれしいですね。