当節男声合唱事情 タダタケ復活?!
加 藤 良 一    2010年2月6日



近ごろ、男声合唱の話題をよく目にする。目にするといっても、合唱という狭い世界の中のことだから、一般の人が目にするわけではない。世の中には男声合唱をいまだに聴いたことがない人というは山ほどいるし、ぬか喜びしないにかぎる。それに“男声合唱が熱い”といわれながらも、かたや大学グリーの衰退も見聞きするし、コンクール参加団体の減少も悩みのひとつである。

それはそれとして、201011月、宮崎県で全日本合唱連盟・朝日新聞社主催の男声合唱のお祭り<第1回全日本男声合唱フェスティバルinみやざき>が開かれる。これは全国レベルとしては初の催しである。男声合唱祭りは全国にいろいろあるが、そのはしりは、1973年の日本男声合唱協会演奏会で、ついで1990年に埼玉県合唱連盟が<おとうさんコーラス大会>を立ち上げ、それが2009年に<関東おとうさんコーラス大会>へと変遷した。それに引き続き11回の関西合唱連盟<バッカス・フェスタ>、同じく11回の宮城県合唱連盟<男の合唱まつり>、9回の東京都合唱連盟<男声合唱フェスティバル>などがある。そのほかにもくわしくは知らないが地域ごとにあるようだ。

全国の男声合唱団が一堂に会するお祭り<全日本男声合唱フェスティバル>は、20101127日(土)・28日(日)の2日間にわたり、参加各団体の演奏と合同演奏、そしてお目当ての交流会という企画である。ちょっと辛いのは、誰でも参加できるというわけではなく、全日本合唱連盟加盟団体で、各支部の推薦を必要とするところ。合同演奏曲は、多田武彦作曲 男声合唱組曲『富士山』より、田三郎作曲 男声合唱組曲『水のいのち』、グノー作曲『Mass No.2 in G(第二ミサ)』が上げられている。

ところで、このような大きなジョイントステージの合同演奏曲を選ぶのはけっこうむずかしいものだ。どうしても参加者の希望の中から最大公約数的に決めることになる。すると「また?!」の選曲になりがちである。<第1回全日本男声合唱フェスティバル>にもそれが現れていて、大人数で男声合唱をやるとなれば、やはりタダタケ『富士山』に落ち着くらしい。男声合唱プロジェクトYARO会の最初のジョイントコンサートでもそうだった。あれこれ案は出るものの、やはり最初はとにかく定番中の定番でいこう、となる。もっとも『第九』や『モツレク』だって、日本中で毎年こぞって演奏されることを考えれば、いい曲は誰がなんといおうと歌い続けられるものなのだ。

「ハーモニー」(20101月・第151号・冬号)に音楽評論家の日下部吉彦さんが「とっときの話」としてタダタケさんについて書いた記事を紹介しよう。


 日下部さんは、「2009年は多田武彦復活の年となったという「柳河風俗詩」はじめ「雪と花火」「中勘助の詩から」「雪明りの路」「雨」などは、当時の若き大学生たちの心をとらえた。ところが時代は移り、ハンガリー、ロシア、北欧の音楽、アメリカ音楽など、合唱界は変貌した。
 20091月、なにわコラリアーズが「ただたけだけコンサート」を京都で開いた。文字どおりタダタケだけのプログラムだった。「柳河」「中勘助」など「多田ロマンへの想いに血が騒いだ」と指揮者伊東恵司さんはその動機を語る。伊東さんは「けっしてナツメロとしてとりあげたのではない。私たちのハートにしみ込む魔力を多田音楽は持っている。」と強調する。近頃とくに大学合唱団の低迷が続いている。タダタケによって合唱の流れを変わることを期待したい。


 埼玉の男声合唱ファンは、今年ドイツでタダタケを歌いたいという夢を持っている。ミュンヘンの合唱団と交歓演奏会を持ち、そこで日本の男声合唱曲を紹介し、そして大いにビールを飲もうじゃないか。