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   これは、男声合唱団コール・グランツの機関紙“CHOR GLANZ Chronicle”1996年5月25日号に掲載した記事の復刻版です。機関紙のヘッダーは当時のものでMacで作ってありましたのでオリジナルが見つからずスキャナーで取り込みました。Macは4世代ほど使いましたが、現在はWindowsに変わっています。
   この架空対談は作曲家の廣瀬量平さんが講習会で話されたことに基づいています。が、マユツバで読んでください。廣瀬量平さんは2008年11月24日に亡くなられました。茲に謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
  
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加 藤 良 一 2010年9月17日


「海鳥の詩」の作曲家・廣瀬量平氏を迎えた埼玉県合唱連盟主催の合唱講習会が1996年5月、さいたま芸術劇場で開催された。蕨市立第一中学校と埼玉栄高校の学生を中心にした一般公募の方々がモデル合唱団としてこの廣瀬作品を演奏した。
今日ここに紹介するのは、コール・グランツの合唱フリーク二人が、ビアジョッキを傾けながら感想を語り合った架空の対談である。もし意味不明の部分があるとしたら、それは多分にジョッキの中身によるものである。
 
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       ♯ あなたも外国へ行けば本場の歌手 ♯  | 
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       一 同:  | 
        
       乾杯! 今日はご苦労さまでした。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       今日の講習会についてのご感想はいかがですか? わかりやすかったですか?  | 
    
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       K:  | 
      
       ちょっとわかりにくいところもありましたけど、先生の誠実なお人柄が出ていて親しみやすかったです。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       私は、音楽に転調が必要なように、お話にも彩りがあったほうがいいと思っているので、ずいぶん脱線してしまいましたね。  | 
    
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         N:  | 
      
       全米の合唱指揮者の集まりが先生の曲を採り上げ、各地で合唱講習会を開くのでぜひにと招かれたという話にはさすがという思いがしました。また、受講者全員が指揮者というのもすごかったです。その時のビデオがあるというのでぜひ見せていただきたいですね。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       米国の合唱団では、外国の曲であっても出来るかぎりそれぞれの原語で演奏しようという姿勢があるから、私の作品も当然日本語でやっていました。  | 
    
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         K:  | 
      
       ヘェー、大変な力の入れようですね。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       アメリカ人が妙な発音で日本語と格闘していたところはとても面白かったし、感心しました。だから、そこへあなた方のような日本人の歌い手が指導に行けば、さすが本場の演奏家はすごいなとなること請け合いですよ。  | 
    
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         N:  | 
      
       われわれが外国人が英語で歌うのを感心して聞いているのと、ちょうど逆の関係という訳ですね。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       私は、楽譜にあまり書き込まない主義です。つまり演奏者に自由に解釈して欲しいし、思いもよらない解釈の演奏に出会うとドキドキしますよ。  | 
    
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         N:  | 
      
       それはいいことを聞きました。われわれはいつもほとんど楽譜に従わずにのびのびやっていますので…。安心しました。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       !? まぁ、それは結構なことです。ところで、私とは正反対の立場をとる作曲家には、とにかく自分が書いた譜面どおりに演奏しろというタイプの人がいます。  | 
    
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         K:  | 
      
       そうしましょう。  | 
    
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         N:  | 
      
       先生はモデル演奏を聴いたあと、解説されるときに先ず歌詩の解釈についてかなり時間をかけていましたけど、やはり歌詩は重要なものであるという認識からくるのでしょうか。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       そのとおりです。歌曲は詩からできているという原点を忘れてはならないと思っています。ところで、今日の最初の女声合唱曲「海はなかった」は、それまでの綺麗ごとだけで曲を作るのではなく、もっと人間社会の底にある問題も取り上げたいという観点から作ったものです。歌詩が持つ力をどこまで作曲家が活かせるかが重要です。 ここで企業秘密をひとつ明かしますと、この曲を作るに当って、そのとき流行っていた井上陽水の雰囲気も意識に入れたことは確かです。  | 
    
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         K:  | 
      
       なるほど、そのような深い解釈が必要な曲を今日は中学生がやった訳で、ちょっと荷が重かったかも知れませんね。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       でも、よくやっていたと思います。しかし私は中学生だからとかいって変に妥協することはしたくないので、言いたいことは言わせてもらいました。  | 
    
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         N:  | 
      
       やはりそうでしたか。中学生も必至にやっていましたね。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       「オロロン鳥」は作詩家の更科源蔵さんが不遇の時代に作られた詩を使っているので、背景としては暗いものです。だからあまり遅すぎるテンポでやるとますます暗くなり過ぎるので注意して欲しいと思っています。  | 
    
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         K:  | 
      
       なるほど、よくわかりました。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       また「エトピリカ」は子音をはっきりと発音し、鋭さを出すように心がけてください。盛り上がる部分ではブレスも素早くするといいですね。  | 
    
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         N:  | 
      
       とても勉強になりました。でもそろそろ頭がグルグルしてきたんで、先生今日はこれで終わりにしましょう。  | 
    
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       H先生:  | 
      
       えーっ…! ? ちょいとー  |