M-73

合唱連盟は何をすべきか

加 藤 良 一
埼玉県合唱連盟理事>

 2006年4月30日)



 去る4月22日開催した埼玉県合唱連盟総会において、昨年から懸案となっていた会費値上げ案が否決された。会費の値上げは、昨年の総会で提案し、一年間の検討期間をおいて準備してきたが、主旨が理解されず残念である。
 もっともこの一年間どうしたかといえば、会員からの質問を待つ以外に積極的に働き掛けなかったことも事実だが、理事会としては検討時間をおくことで理解されると踏んでいた気配もあり、全体として説明が足りなかったと反省すべきであろう。むしろめずらしく総会で白熱した議論がなされたことをよしとすべきであろう。議事の経緯はつぎのとおりであった。
 前年度の事業報告に続いて、会費値上げ案について事務局長が詳細な説明を行った。現行では、少年少女・中学・高校15,000円、大学・職場・おかあさん・一般20,000円となっているが、これを、少年少女・中学16,000円、高校20,000円、大学20,880円、職場・おかあさん・一般25,600円とした。ただし、全日本合唱連盟発行の機関誌「ハーモニー」の代金について、少年少女・中学・高校は会費に含まれるが、大学・職場・おかあさん・一般は別途とする形とした。詳細は省くがこの点がやや複雑になっていたため、全体像がぼやけてしまっただろうか。一般会員を例にとると年間5,600円の値上げである。

 総会では、値上げ案に対して内容を確認するような発言や団の経済事情を訴える要望などはあったが、とくに値上げ絶対反対のような意見は出されなかった。そこで、議長は拍手をもって賛否を問うたところ、大多数というにはやや少ないかなと思われる拍手が起こった。一瞬どうかなという気もしたが議長は「賛成」とみなして可決した。
 そして議事は今年度の事業計画案、予算案へと進んでほぼ終息に差し掛かったころ、先ほど拍手で賛否をとったのは、第29条の「本規約の変更は総会出席者の3分の2以上の賛成を要する」という規定に反するのではないか、拍手でははっきりしない、との意見が出された。それに同調したほかの会員からも追加意見が出され、最終的に「緊急動議」として拍手以外の方法で再度採決のやり直しをすることとなった。
 たしかに規約に照らせば議長の議事進行に問題はあったが、指摘するなら採決したその時点で言ってほしかったという意見も多く出された。しかし、理事会としてはとくにそのまま強行するつもりはないし、会員が納得する形で決めることに異存はない。動議を受け入れ、あらためて起立による採決を行うこととした。そうなると、正確を期すために投票権の確認をしなければならない。というのは、総会には1団体1名だけが出席しているわけではないからで、代表者以外を議場から締め出して議場閉鎖するのも大袈裟である。
 たまたま資料を入れた大きな封筒を各団体に一部ずつ渡してあったので、これを掲げてもらうことで投票権の証しとすることができた。投票総数286票のうち、賛成184票、反対53票、保留49票で、3分の2以上の190票にわずかに達せず、会費値上げ案は逆転否決された。否決された以上、予算の組み直しが必要になり、会費増加を見込まない金額で一般会計予算を策定し、あらためて臨時総会で諮らねばならなくなった。
 さいわいなことに現在はまだ赤字財政ではない、些少ではあるが来年迎える創立50周年記念の積立もあるから、万が一の場合はこれを取り崩すことだってできる。しかし、それでよいのだろうか、これでは問題を先送りしただけに過ぎないのではないか。

 この値上げ問題を通して、連盟の役割とは何か、会費とはどうあるべきか、会員は何を望んでいるのかなど、合唱連盟のあるべき姿をあらためて考え直すよい機会を与えられたととらえたい。
 たしかに、景気がいっこうに回復しないこの時代に値上げの提案をすることがむずかしいことはわかっている。反対する人もいろいろな立場があるだろうし、それぞれ意見を持っていよう。しかし、反対の理由はひとえに経済的なものであって、連盟の事業や活動に関するものではなかったようだ。なぜか年金の問題まで持ち出して家計の経済危機を訴える人、これ以上会費が高くなっては小さな合唱団は存続も危ぶまれるという切実(?)な訴えまで出てきた。そうはいうが、細かいことをいえば、年間5,600円の値上げは、10人の合唱団なら1人当り月に47円である。さらにいえば、合唱団の存続が危ぶまれるような状況で、無理に連盟に所属することだけが合唱団のあり方ではないはずだし、現に加盟しないで立派にやっているところもあるくらいだ。ただ勘ちがいしないで欲しいのは、このていどの会費が払えないなら脱退せよといっているのではない。
 いずれにせよ、なかなか熱心な議論が展開されたが、連盟に加盟することの意義とはなんなのだろうか、どうも何かがちがう、というわだかまりを最後まで拭い去ることができなかった。

 日本の合唱界にはそれぞれの位置に応じた役割がある。全日本合唱連盟においては全国を対象とした大きな取組みが欠かせないし、当然予算も半端でない。それは、大きなイベントに参加したことのある人なら誰でも容易に理解できるはずだ。たとえば、昨年は「世界合唱シンポジウム」という一大イベントを開催し、世界中から合唱関係者が京都へ集まった。たいへん意義ある大会だったと聞いている。世界中から人が集まるのだからそれなりに大きな予算が必要であったろう。
 ところが、値上げに反対する人は、そんな金のかかることはやめろということでもないから、反対の主旨がわかりにくい。県連は、あくまで全日本合唱連盟の傘下にあって、そこへ負担金を出すことで合唱界のピラミッドを形成しているのである。また、県連においては県レベルの合唱活性化のために欠かせない活動があり、それにもやはり予算が必要である。埼玉は小中学校や高校の合唱レベルが高いといわれるが、それは、コンクールや講習会などの事業を活発に行い、学校現場の活動を一緒になって盛り上げているからこそではないだろうか。

 もちろん各事業の経費節約はつねに怠ってはならない。しかしそれにも限度がある。値上げ反対派の人は、では、値上げを認めないで連盟にどのような活動をせよというのだろうか。たとえば、合唱祭を5日間もやるのは他県にはみられない大きな規模だが、これを縮小したほうがよいとでもいうのだろうか。たしかに規模を半分にすれば経費は少しは減るだろう。しかし、こんどは出演できるかどうかが抽選になるとか、毎年交代で出るようにするとか、会員の意に沿わないことになってしまうが、それでもよいのだろうか。もっとも合唱祭を完全にやめるとなると、当然規約の改正が必要になるが、それは誰も望まないことはまちがいない。

 値上げそのものでなく、運営方法すなわち予算の使い方に疑問があるなら、どこをどうしたいかを明確に主張すべきである。その上で値上げに反対すべきである。それをせずして、ただ 単に値上げ反対が通るものではない。