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第4
東京男声合唱フェスティバル

 


加 藤 良 一

2004年12月18日





 今年で4回目を迎えた東京男声合唱フェスティバルが、 12月4日、JR王子駅前の北とぴあ・さくらホールで行われた。一般参加34団体の演奏、招待演奏、そして公募合唱団の合同演奏、さらに最後の人気投票まで、あいだに回の休憩をはさんで午後1時からほぼ6時間。長い正直なところちょっと疲れた。もっとも筆者は途中からだが、はじめから聴いていた人はシンドかったようだ。しかし、そんな疲れも吹き飛ばしてくれるだけの演奏が目白押しだった。これだけは大満足。
 招待演奏は、前年の人気投票第一位の団体が行うことになっている。今年は
アンサンブル・プレイアードがその栄誉をになった。人気投票の仕組みは、各団体に2票づつ投票権があり、もっとも気に入った団体に投票するもので、もちろん自分の団に票を入れることはできない。人気第一位になると翌年は、別格扱いとなって招待演奏として呼ばれる。


 ふつうのコンサートにただ招かれるのとちがって、前年覇者による招待演奏ときてはへたな演奏などできないだろうから、きっとプレッシャーも大きいんでしょうね。私には想像もつかない世界だが、名に恥じないように相当気合を入れて臨んだにちがいない。とにかく聴衆にはうるさい連中が揃っているし。
 さて、その
プレイアードだが、この団はルネサンスから現代曲までなんでも歌える間口の広さをもっている。「 Ave Regina Coelorum」、松下耕作曲『日本の民謡4』、メキシコ民謡「La Cucaracha」とバラエティに富んだレパートリーを松下耕さんの指揮で演奏した。プレイアードは、とにかく発声がよく、表現、ハーモニーどれをとっても、非凡なものを感じさせる。間口の広さだけでなく奥行きの深さも証明した。
 
プレイアードの岩澤さんいわく、「今回は招待演奏とのことで、団員はじめ松下耕さんもかなり気合が入り、結果として皆さんに喜んでもらえる演奏ができた感じです。とはいえ平均年齢も低いためどうしても幼い響きになったり、経験値が少ないなど克服していかなければならない課題が沢山あります。」 と謙遜されていたが、平均年齢が低いのが悩みとは、まさかイヤミじゃないだろうけど、なんと贅沢な悩みであることか。「ドイツ遠征も決まりましたが、まだまだこれから幾つものヤマを超えなければなりません。今回お江戸コラリアーずさんはじめ、他団体の方と多くの交流を持てたことは、大変嬉しいことでした。… やっぱり時代は男声合唱でしょ! お互いに頑張っていきましょう。」
 そうね、「お互いに」 といわれるほど張り合える相手じゃないけど、こちらは独自の路線でがんばることにしよう。
 さて、お楽しみの人気投票だが、第三位にトンペイ・メモリアルズ4が食い込んだ。トンペイは東北大学男声合唱団OBを中心に結成されたイベント合唱団である。指揮者の須田信男さんは、男声合唱プロジェクトYARO会の技術系の中心的存在で、男声合唱団メンネルA.E.C.などを指揮している。またYARO会の次回幹事関根盛純さん(男声あんさんぶる「ポパイ」)も参加していた。


トンペイ・メモリアルズ4



 須田さんお得意のアレンジもの、東北大学男声合唱団の持ち歌 「雨の降る日は(セカンドの歌)」 は、セカンドテナーの悲哀をしみじみと歌った曲である。男声合唱の四声部のなかでも、セカンドはじつにいやらしい役回りとなっている。同じ内声とはいえバリトンともまた悩みがちがう。けっきょくどっちつかずの身の置き場のなさに耐え、けなげにも歌いつづけるセカンド。これが聴衆の共感を集め、ついに第三位に、というわけじゃない。そんなに聴衆は甘くない。 Kreutzerの「Schaefers Sonntagslied」で示した歌唱力の高さが認められたからにちがいない。
 第二位は、お江戸コラリアーず。この団の実力はすでに折紙つき。「 Motto」、「Valkeat Kaupungit」、「Pseudo Yoik-NT」を演奏した。「Pseudo Yoik-NT」はフィンランドの作曲家マンチュヤルヴィの作品の中でも、最も人気が高いというがはじめて聴く曲だった。恥ずかしながら北欧ものはあまり知らない。“Yoik(ヨイク)”とは、ラップランドの詠唱的発声による民謡のことで、この作品はそれをパロディ化した「にせのヨイク」という名前である。あの手この手で繰り出される、とくに意味のないさまざまな音がつなげられた不思議な魅力をもった曲である。たぶんこの団は、口だけで楽器のような音を出すヴォイス・パーカッションが得意なのではないだろうか。そんなことを思わせる演奏だった。
 「トンペイ・メモリアルズ4 お江戸コラリアーず 近づいてきたので ごめんねーーー 今年も1位かなーーーー なんて勝手に思っていたら ぐっと離れていき 音空さんが 1位に輝きました。残念!!」 と、メンネルコール広友会のハンドルネーム・アラビスさんを口惜しがらせた男声合唱団音空が栄えある第一位と決まった。


 音空は以前の卓友会男声合唱団である。指揮者の窪田卓さんは、音空のほかにも数多くの合唱団を指揮している。今回は、多田武彦の組曲『雪国にて』より 「雪の中の歌」、「或る誕生」、「老雪」 を演奏した。私の評価では、音空とお江コラのどっちに軍配を上げるか迷うほどの僅差だったが、タダタケ作品の身近さの分だけアドヴァンテージがあったかもしれない。音空は、アンサンブルのよさが決め手になっただろうか。
 トリをつとめた公募合唱団は、松下耕作曲『男声合唱のためのコンポジション 日本の民謡第3集』に収載されている 「刈干切唄」 と 「津軽じょんがら節」 の2曲を作曲家自身の指揮で演奏した。この合唱団は、アンサンブル・プレイアードなどの主要な団から構成していたこともあって、公募で集めた俄か集団とは思えないほど統率のとれたみごとな演奏を披露した。
 ところで、このフェスティバルで異色の存在だったのは、大人のなかにまじって奮闘した八王子市立館中学校昼休み男声合唱団である。指揮も中学生がやったが、その力強い指揮法はみていて気持ちのいいものだった。男声四部合唱は今回がはじめての挑戦。寸劇つきの 「高校三年生」 では大いに場内を沸かせ、「エースをねらえ」 を元気いっぱい歌いまくった。彼らの演奏にコーラスの原点を見る思いがした。大人になっても合唱をつづけ、ふたたびこの場に戻ってくることを期待したい。また、最近日本でも人気が出てきたバーバーショップを歌う東京バーバーズは、そのエンターテインメントと独特のハーモニーで聴衆を魅了した。


東京バーバーズ

八王子市立館中学校昼休み男声合唱団


 東京にはレベルの高い団が集まっているから、この男声合唱フェスティバルはじつに刺激になるお祭りである。埼玉を中心にはじめた関東おとうさんコーラス大会もますます発展しているし、男声合唱が元気を取り戻してきたのを実感できる昨今である。