M-44




    

フ ォ ル テ シ モ:考

 

 

織 田 茂 樹

 


 

松 村 様

 「フォルテシモが課題」を考えてみました。
 喜び(笑い)、怒り(憎しみ)、叫び(恐怖)、驚き(感心)、感謝(感激)・・・。

 フォルテで大笑い:「ワッ、ハッ ハッ ハッァ〜ッ」 腹を抱えてしまう。
 ピアノで微笑む:「ウフフ」「クス、クス、クス・・・」 口に手をかざしてしまう。

 フォルテで怒り:「こらぁ〜ッ!!」 右手が握りこぶし。
 ピアノで怒り:「ぅぅぅう・・・」 両手がグー。

 後楽園のジェットコースター「キャ〜ッ!!」 何かにしがみついている。
 ピアノで叫ぶ!?ことができるのか?? 声が出ない・・・。

 フォルテで驚く:「おおぉ〜ッ」「わぉ〜ッ」 眼が丸くなっている。
 ピアノで驚く:「ホォ〜」と、なぜか首を縦に振ってしまう。

 フォルテで感謝:「ありがとぉ〜〜〜ッ」と大きく手を振ったり、深々と頭を下げてしまう。
 ピアノで感謝:「ありがと・・・(涙)」と、なぜか目をつぶってしまう。

 フォルテの時、「腹から声」が出ている、という「表現」をしますが、軟膏蓋が上がり、横隔膜が下がっている状態です。「重心が下がる」とも言いますか。テナー系の大笑いの場合、腹から声が出ていない時は、「喉で笑う」「胸で笑う」とでも言うのでしょうか。叔母様方が高笑いで「オ・ホ・ホ・ホ」はファルセットで、「腹から声」が出ているのでしょうか。

  昨年聞いた、フォルテシモの音のひとつに、仙台の男声合唱団パリンカのアンコール曲「斎太郎節」(さいたらぶし)でした。やはり「本場」だけに、関西人は知らなかった 、「斎太郎節」の歌い方がありました。「地元の味」「生活感」というのか、エンヤオット、エンヤオット・・・と掛け声も、奥深い響きでありましたし、「 松島ぁ〜ぁぁのサァ〜ヨォ〜ォ・・・」の最後のフレーズ、いわゆる「大漁だぁ〜えぇ 〜ッ!!」は、心底、大漁の喜びか、演奏会のフィナーレなのか、ここぞとばかりの「腹の底からの響き」がありました。それは、たいへん気持ちの良い響きの「フィナーレ」でした。当然、観客も「フォルテシモアッサ拍手」でした。

 クレシェンド(大きくする)して、フォルテで曲を終える時、「エミッター」(*1)の役割を内声部が行う事で、増幅作用があるようです。もちろん、倍音がなると、通常の何割かボリュームが大きくなりますから、冷静に音程を維持し、「エミッター効果」を内声部が、外声よりアップさせることで、よりクレッシェンドしたフォルテが実現するのかもしれません。


*1 【増幅】
(1) 波動・振動の振幅を大きくすること。特に,入力電気信号の電流・電圧の小さな振幅変化を増大させて出力すること。
(2)
 話の内容や物事の状態が拡大すること。

【増幅器】
 増幅作用を行わせるための装置。真空管増幅器・トランジスタ増幅器・
IC 増幅器などがある。アンプリファイアー。アンプ。

Emitter
【名―1】{熱・気体などを}排出する{放出するもの}するもの
【名―2】《電》エミッター


 これも、先日の男声合唱団「」のヴォイストレーナーから、学んだことですが、「腹」は、上質の肉のように、柔らかく柔らかくしておくこと。「腹」から、体の中を「空気」が流れるように、声を出すこと。

 フォルテであれ、ピアノであれ、「心・技・体」、「気持ち」の表現と、発声方法、安定した力みのない、姿勢・体勢の維持が大切なんだと思います。
 蚊の鳴くような声、図体のデカい象さんの「パォ〜ッ!!」、小太鼓と大太鼓、どちらが、大きな音が出るか?三味線のバチを、手首で強く打つと、歯切れのよい大きな音が出ます。打楽器ピアノでは、指のタッチで、ピアノでもフォルテでも響かせる事ができます。
 人間の声は、「打楽器」ではないと思いますし、声帯が振動し、声が出るわけですから、空気の送り方次第で音量は決まります。また、口の中の大きさでも関係があるのではないでしょうか。口内で、音を響かせる場所も、「前の方」であれば、「後ろの方」(飲み込むみたいに喉の奥の方で響かせると、音量は小さく出て行きます)より大きな声で、前に出て行きます。
 加藤良一さんの著書:『音楽は体力です』で書かれていましたが、例えば、『背中に息を入れて、と言われても、背中に空気は入らないし・・・』とありますように、この「業界」では、「意味不明な指導方法」がありますが、この際、目をつぶっていただきまして、「イメージ」として捉えていただきたいと思います。

 バーバーショップカルテットの醍醐味のひとつは、「4人のハーモニー」です。ビデオや譜面を見ていますと、すべての小節を完璧にハモらせなければなりませんが、そのコード展開が「七変化」のごとく展開されますので、たいへん緊張した「修行」となる時があります。曲全体をいくつかのパーツにわけ、Verse(*2) Tag(*3)、曲の“さび”の部分など、「4コマ漫画」「8コマ漫画」のように、1コマ1コマを大切にして、結果としては、それを繋げ、本チャンでは「動画」で表現する。
 フォルテで終わる Tag も各人の発声方法、「エミッター効果」(クレッシェンドですが)、ノン・ビブラートで伸ばし、最後の部分は、息を放出しきって、「歌いきる」そんなイメージで、松村さんの言われる「あとは本場のあの強烈なフォルテシモ(何処までも響きが伸びていくあのフォルテシモ)が課題だな」をクリアーしたい、と思います。


編集注
*2
 
Verse
 バーバーショップの楽譜には、曲の始めの部分や途中の「挿入」部分のところに、Verseと書かれている。一般的には、イントロダクションではないかと・・理解している。(著者言)

*3  Tag
 タグについては、菅野哲男&松村一夫両氏の著書『バーバーショップ・ハーモニーへの招待』に紹介されているので、それを引用しよう。
 タグとは、「荷札、付箋」、「(詩歌の)折返し」、「(演劇の)納め口上」などの意味があるが、音楽用語でいえば「コーダ」がもっとも近いが、バーバーショッパーの思い入れはそんなものではない。タグは一曲の最後のフレーズを繰り返し歌う場合が多いが、単純に繰り返すのではなく、スワイプで言葉を伸ばし、コードに凝り、エンディングに向かって経過和音がちりばめられている。


 倍音(純正律)について、これは前回記載したとおりですが、倍音について、興味深い話として、香川のシングルシンガーズ(シュンポシオン、SSFのリンク先/合唱団のページ)のサイトに管理人:井上博史さんが「実験室」に、詳細をまとめていらっしゃいます。(私には、かなり難易度の高い、難しい話ですが・・・) ご参考に。
http://www.niji.or.jp/home/ss1996/kurou.htm

 以前、『音楽/合唱』欄で、田村邦光氏の「ピアノのタッチとはなにか」(M-22)、魚住愛子氏の「ピアノとタッチ」(M-16)という興味深い投稿を拝見させていただきました。私は、ピアノも素人ですが、なんとも難しいお話だなと思いつつも、田村さんの「ペダリング」のお話しから、ひょっとしたら、人間の体に「ペダル」があって、フォルテの場合、「ポーン」とピアノタッチのように、声を出すと、フォルテ超ロングトーンが実現するか!!と思ってしまったり、「声を楽器でいうなら、オルガンやんか」と言われつつも、フイゴのように、「進駐軍」のデカい体と目一杯の肺活量でもって、最大量の空気を体の中に通せたら、しかもカルテットでハモることとピアノタッチとは、全く異なる次元のものなのに、「ペダリング」のようなハイテクニックが付加されれば、などと気宇壮大な思いを巡らせております。
 

 最後に、魚住愛子氏の文末を引用させていただきます。

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 私は、ピアノという楽器にあらためて賛嘆しつつ、音楽も、またそれを奏でる人間の心と体の機能そのものも、現存の理論のみで片付けられるような小さなものではなく、宇宙規模的な無限の計りしれなさを感じます。
 そう、私はタッチひとつ、宇宙規模的な自分との距離に日々悪戦苦闘しているわけです。なあんてね。「もう手遅れだよ歳考えな」、「いや、人生に手遅れということはない」こんな問答を繰り返しつつ、気楽にちょっとだけ努力しております。

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(2004年1月23日)