M-32  


暗 譜 の 秘 訣
 


松 村 一 夫
 

 

 加藤さんの「暗譜の科学」(M-31)面白く拝見しました。でも、実は暗譜には秘訣があります。

@     楽譜を見ないで歌うように常に心掛けること

A     歌詞を声を出して読むこと

 @は当り前といえばあたりまえ。でも誤解している人が多い。即ち「暗譜が出来るようになったら譜面を外そう」と。これでは暗譜は地平線の彼方。自分の意識の中で、地平線をぐっと引き付ける必要があります。「早く暗譜するために、積極的に譜面を外そう」と。
 流行り歌を覚えるのに譜面を見て歌いますか。そんなことはない。目からだけではなく、耳から歌を覚えることが出来るのです(勿論、それなりに時間は掛かりますが)。

 目で情報を拾いながら歌う練習を繰り返して、楽譜を見ないで歌う境地に辿り着くのは中々困難。発想を転換しましょう。そうすれば、指揮者を見る振りをしながら楽譜を見ずに、ちゃんと指揮者を見ながら聴衆に向かって歌う視界が開けてきます。

 恐いのは暗譜した後にでも、譜面を見ながら一回歌うと譜面が外せなくなること。楽譜の魔力はかくの如しですから、暗譜できたら譜面を外そうと思っていたのでは、譜面の情報提供力に負けて、いつまでも楽譜が離せません。

 Aは、現実的な生活の知恵。我が心の故郷シカゴのニュー・トラディション・コーラスでの教えの受け売りですが、効果は抜群。ニュー・メンバー用の楽譜集の冒頭に練習心得があって、その中の一つにこう書いてあります。
 「このコーラスでは新譜を渡されてから三週間後には暗譜で練習することが求められる。しかし、人の記憶は歌詞よりは音を先に覚えるように出来ているので、自分のパートの音が取れた時点では歌詞がつかない傾向にある。歌詞を短期間で覚えるためには、歌詞だけを書き出して、繰り返し音読することが効果的である。黙読ではなく、必ず大きな声で音読すること。
 お試し下さい。

 でも、暗譜は合唱練習の最終目標にあらず。 あくまでも合唱表現を次のレベルに進めるための一里塚。
 楽譜を持って表情を付けるなんて、シロートには無理ですよね。でも、世の中には例外がいるものです。かつての大学の混声合唱団の定演に行ったら、いたんですよ、譜持ちでも豊かな表情で歌える後輩が。修行のレベルが違うのかな。

(2003年7月24日)