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<コンサート・レヴュー>


ドン・キホーテ男声合唱団 第5回演奏会

(2003年6月8日、志木市民会館パルシティホール)
 



加 藤 良 一

 



  創立10周年を迎えたドン・キホーテ男声合唱団の第5回演奏会を聴いた。この団は埼玉県志木市に本拠を置いている。10年のあいだに歌ってきた曲はほとんどがア・カペラで、現在も専属のピアニストはいない。 指揮者の村上弘氏はバスパートでもあり、ときおり歌うこともある。

 ステージは、4部構成ですべてア・カペラであった。
 第1ステージ:<日本民謡>島歌、音戸の舟唄、中国地方の子守唄、大漁祝い、そうらん節
 第2ステージ:<愛唱曲(船乗りと兵士の歌)>I've got Six Pence、Rolling  Home、U Boj !、Homeward Bound、The song of the Soldiers
 第3ステージ:<男声合唱組曲(過去の定演で登場した組曲たち)>「月光とピエロ」、「柳川風物詩」、「中勘助の詩から」、「富士山」より
 第4ステージ:<愛唱曲>青蛙、終電車のブルース(埼玉)、婆やのお家、夜空ノムコウ、Believe、月の夜
 メンバーは、トップテナー3人、セカンドテナー5人、バリトン4人、バス6人の計18人。
 コンサート全体の雰囲気は、飾らないアット・ホームなものといえばよいだろう。むやみに金をかけず、背伸びもせず、男声合唱を歌うことだけに焦点を合わせているステージは 、見方によっては質素そのもの。司会進行も音とりも指揮者がすべてやってしまうという超経済的運営で、団の姿勢が窺われるものであった。
 聴衆のなかには、ドン・キホーテとともに男声合唱プロジェクトYARO会を結成したイル・カンパニーレ(川越)、メンネルAEC(上尾)、あんさんぶる「ポパイ」(春日部)、コール・グランツ(栗橋)のメンバーが多数顔を見せていた。当日のプログラムにYARO会のちらしを挟み込ませてもらうため、早めに来て 本番直前の練習を垣間見た連中の話しによると、指揮者はかなり厳しい檄を飛ばしていたようである。
 さて、 肝心の演奏についてコメントしよう。 激辛批評をご所望の指揮者・村上さんにお答えして、忌憚のないところを書かせていただくが、とうぜん筆者自身のことは完璧に棚上げしている ことをお断りしておかねばならない。そうしなければ何も言えない事情をご賢察いただきたい。

 アンコール以外は全曲とも譜面を持って歌っていたが、できれば譜面を外して歌う場面も欲しかったところである。それは、暗譜している人とそうでない人との差が音になって出てきてしまうからだ。 譜持ち自体が悪いといっているわけではなく、譜を持つにしても 指揮者がよく見えるような持ち方をしないと、呼吸が合わないこともあるからである。それと、譜面を放せないということは、まだ曲をマスターしていないということでもある。
 各パートの割合は低音が厚いかたちになっているものの、バランスとしてはバスが意外に出てこないという印象をもった。バスが応援団まがいになるのを恐れていたのかもしれない。その反対にトップテナーは3人と少ないにもかかわらずよく歌っていた。しかし、プログラムのトップテナー紹介欄にも書かれていたが、「歌い手は単純(純粋?)な人が多く、一般にテノール馬鹿と表現されているようです。この合唱団においても例外ではありません」だそうである。トップテナーとバスの両サイドのバランスがもう少しとれていれば申し分ないところであった。
 一方、内声部はいつも半端な立場にいるから、むずかしいパートであるが、バリトンとセカンドテナーはそれなりにハーモニーを意識して、内側から肉付けしている様子がよくわかった。
 やはり手馴れた曲は訴える力があるが、そうでない曲はなかなか簡単にはいかない。その点、男声合唱組曲はよく歌いこんできたであろうことを思わせるものがあった。
 アンコールに歌った「筑波山麓男声合唱団」では、写真のような振りを付けて楽しませてくれたし、アメリカの「The song of the Soldiers」が「いざ起ていくさびとよ」であることを初めて教えてもらった。
  
 ここらで総合評価をしてみよう。
 (以下10点法で採点) 歌唱力:8、発声:8、おじさん度:8、若さ:8、エンターテインメント度:5、訴求力:8、ハーモニー:8、アンサンブル:7、癒し力:9、反面教師性:9、というわけで<A−>となった。
 ここからは、演奏会運営に関するひとごとではない話し。
 カメラマンがやたらとシャッター音をさせ、おまけにフラッシュをつけまくっていた。それに輪をかけて客席でもデジカメがピーピー鳴り続けるので気が散って困った。たとえば埼玉県合唱連盟の主催する演奏会で写真を撮 らせる場合は、もちろんプロのカメラマンが撮るのだが、シャッター音がしないように厚手の布をカメラに被せて静かにやる。当たり前だがフラッシュなど焚かない。 また、子供の声も気になったけれど、このあたりになると主催者の考え方によってまちまちだから、いちがいにどうと言うことはできないが、とにかく気が散ることだけはまちがいない。
 ちなみに、掲載した写真は筆者がデジカメで撮ったものだが、シャッター音もしないし、その他の音も出ない機種であり、フラッシュももちろん使っていない。
 ドンキの皆さん、二次会に引き続き言いたい放題をお許し下さい。プログラム冒頭の埼玉県合唱連盟・宮寺勇理事長のご挨拶にある「おとうさん」の時代がまさにやってきたようです。11月のYARO会コンサートが楽しみになってきました。

 

 

(2003年6月10日)