M-21

 

   著作権を通して

 


h i r o
 

 


 私は、中学校の教育現場で吹奏楽の指導をしています。もちろん教師として。
 担当教科は音楽ではありませんが、音楽が大好きで、小学校の頃からピアノや吹奏楽、合唱、ポップスなど、ありとあらゆるジャンルの音楽を楽しんでいます。ぴあのんさんの「著作権について想う〜街の音楽教室から〜」を読ませていただきました。私にも似たような経験があります。それと絡めて話していきたいと思います。
 以前、私は違法と知りつつ楽譜をコピーして使用していた事がありました。しかしながら、それではいけないという思いもあり、そのジレンマがありました。3年前、私は吹奏楽部の顧問としてタクトを振るようになりました。そのとき心に決めました。「楽譜のコピーは止める」と。それ以来、折に触れては部員達にこのように話をしています。
 「楽譜には『著作権』という大変重要な権利があって、それは『著作権法』という法律によって守られている。楽譜をコピーして使うのはこの法律に反するので、世の中の作曲家やアレンジャーの生活を脅かす事になる。そして、今、この『違法コピー』によって、演奏しようと思っても手に入らない楽譜がたくさんある。私はこのバンドで演奏する楽譜はすべて購入し、コピー譜は使わない。そして、バンドの財産となる楽譜を購入するために、みんなから『楽譜代』を徴収します。」 そして、こういう内容のプリントを保護者にも配布しました。
 幸いにも保護者の方からは今のところ全員賛同をいただいています。また、応援もして頂けています。幸せな事です。
 ところが、です。ある時の顧問会で私が著作権について発言をしたところ、えらく叩かれてしまったのです。非難の内容はまちまちでしたが、大雑把に言えば「そんな硬いことを言うな」みたいなものでした。
 同じ教育現場に身を置くものとして悔しいやら情けないやら…。中には 「『著作権』って何?」という人までいて、悲しくなりました。
 確かに吹奏楽の楽譜には、高価なものが多いのも事実です。外国の出版社の物になると2〜3万円というのはざらにあります。そういう楽譜もすべて購入しています。当然、予算を考えての購入になります。高価ですからあれもこれもと言う訳にはいきません。
 するとどうでしょう。私の気づかない間に生徒達は学習し、余程気に入った物でない限り購入しない、とか、購入したからにはしっかりと演奏する、とかいったように考えるようになってきました。みんな関西人ですので「元を取る」ことを考え始めたのです。会計係の生徒が予算を組み、この演奏会ではいくらまで、と自主的にやり始めたのです。
 私自身は、「『著作権』の大切さ」を教えようという事はもとより、それに付随して「きまりを守る事の大切さ」を教えたかったのです。ところが思わぬ方向に展開し、私自身も驚いているような状態です。
 吹奏楽部のある生徒が音楽の授業中に、そのとき授業をしていた教師に向かって、こう言ったと聴きました。
 「先生、この楽譜は1枚の楽譜から大量に印刷されてるけど、『著作権』、大丈夫なの?」
 その教師は『著作権』についてきちんと説明し、こう付け加えられたそうです。「この曲を他のたくさんの人達に聴いてもらうときには、すべて楽譜を購入し、みんなに1部ずつ配ります。」
 小さな事かもしれません。しかし、こんな風に続けていくと、こと『著作権』については定着してくるのではないかと思います。
 小さな輪でも、ほんの少しずつでも、広げていくのが大切なのではないかと思います。私はこれからも、その輪の中の一人でありつづけたいと思います。