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著作権について想う 〜街の音楽教室から〜

 


ぴ あ の ん
 




 街の、ちいさな音楽教室をしています。いつもは平穏なこのちいさな教室で、著作権をめぐ って一騒動おきたことがありました。
 私の教室では、ずっと以前から楽譜のコピーは一切しません、と宣言してきました。かつて コピーしてください、と言ってこられた親御さんもありましたが、きちんと訳を説明すると「そこ まで子供のことを考えてくださっているとはわからず、失礼致しました」とみなさんのご理解を いただいてきました。

 ところが、その方は違いました。
 「先生、コピーしてください」「どうしてもできないっておっしゃるのなら楽譜を貸してください。 わたしがコンビニにいってコピーしてきます」
 コピーなさることをわかっていて、お貸しすることはできませんと申し上げると
 「わたしだったら、コピーする手間なんて惜しまず、生徒のためならコピーしますよ」(……)
 「第一、この本、ウチの子には子供っぽすぎます」(私の恩師の作曲なのですけど……)
 「モラルの問題っていうのなら、モラルのある人もコピーしています」(???)
 「自分の曲が広まるのであれば、作曲家のひとも喜ぶと思います」(そんな作曲家がいるも んですか!)
 「わたし、ほんとは楽譜買うのだいすきな人間なんですよ」(だったら買ってよ)

 私が生徒さんのご家庭に著作権に対するご理解を求める時、もちろん違法であることもご 説明するのですが、それだけではなく、教育上、権利の問題として子供たちに今からきちん とした意識を持ってもらいたいと思っていることをお伝えしています。たとえ子供でも、自分自 身が持っている権利はきちんと理解して、自信を持ってほしい。そして自分の権利を守ること と同じように、他人の権利も守られなければならないことも学んで欲しい。
 たとえ、街のピアノの先生であっても、教育のはしっこのところくらいにはいると思っている ので、教育者のひとりとして、これから育つ子供たちを前に楽譜をコピーして渡すなどとい う行為は、とてもとてもできないのです。
 それは、目の前にいる子供たちの今も、将来も、持って当然の権利を(何も音楽に限らず) 無視するような気持ちさえしてくるからです。おおげさかもしれませんが、これからおとなにな っていく子供たちを前にしていると、本当に責任を感じるのです。そういった想いをお伝えし ても、そのお母様は強烈でした。

 最後はなんと
 「私は、うちの子が大人になった時、自分の持っている楽譜くらいコピーして渡してあげら れるような、優しい子になってほしいと思っています。先生のような人間にはなってほしくあり ません」と言って、やめていかれました。
 ショックでしたが、ほっとしました。今ではご理解くださっている方ばかりです。
 購入時は1曲だけのために高いかなと思われても、基礎をそだててあげれば、子供たちは レッスンの曲でなくても買ってもらった本の曲を自分で弾き始めます。そんな時、お母さん方から「ひとりでいろいろ弾いているんですよ、この間も弟にこれとこれを弾いてあげていて…でも、私はこっちの曲が好きなんですけどねえ」などとお電話を頂きます。おうちでの光景が 浮かぶ、私としてはもうなんともいえずうれしい手ごたえです。こんな時は、楽譜って価値が あるなあ!!としみじみ思います。

   やめていかれた方はおそらく今、コーラス部員ではないかと思います。コーラスの楽譜は、 ピアノにくらべたらまだお安く手に入るものが多いように思います。でも、ママさんコーラスな どは特にその性質上、ピアノよりもみんなが購入していく形をとるのはむずかしいとは思いま す。でも、だからといってコピーしていいことにはならない、ただ現状を変えていくのは、きっ と ピアノ教室より難しいだろうとは思います。

 出版社側が、もっと買いやすくする努力をすれば、というのもないわけではないとは思いま すが、それより意識の問題の方が大きいようにも思います。違法駐車とか、駐車場があって も(たとえ無料だったりしても)ただ単にめんどうくさいとか、ちょっとだけだからと駐車場に入 れない人って多くないですか?
 ちょっとちがうかもしれないですが、そんな感じで、楽譜が手に入りやすくなっても「今まで 通りコピーして、なんでいけないの?」になってしまうように思います。だからこそ、これから 大人になる子供たちにはきちんと伝えたいのです。
 ピアノの先生も、著作権の話になると聞こえないふりをする人は多いです。私も、正直(楽 譜のコピーはしませんが)完全に、完ぺきに著作権を守り切れているとはいえないところもあ るかもしれません。でも、作者の権利を尊重して守っていかなければならないということは、 私がそうすることで子供達には伝えたい。それが子供たちみんなの権利も大事に思ってい ることにつながっていると、みんなが大人になった時に、だれかぼんやり気がついてくれたら うれしいなと、そんなふうに思っています。