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   合唱人、この盗っ人たち

 


銀亭主人 ぺんぎんていしゅじん
 

 

 

 皆さんが無意識に触れていない問題に触れることにする。
 結論から言えば、合唱人の未来は保障されていない事実を認識すべきである。
 皆さんに問う。楽譜をコピーしたことのない者がいるとしたら、拙稿は読むに値しない。しかし、一度でも書籍(製本されて頒布されているもの)から、音符をコピーしたことのある者なら、反省と自戒をこめてともに考えるべきである。というのも、あまりにもコピー譜が世間に出回っている現状には「合唱文化」が育たないと考えるからだ。
 

売れ筋にたよる合唱楽譜

 簡単な経済の仕組みで考えてみよう。需要と供給のバランスによって市場価格が設定される。これは経済学概論の1時間目に教わること。まず需要側の意見を聞いてみよう。楽譜を購入しない理由として、@楽譜が絶版で、入手不可能。A曲集の一曲しか歌わない。B楽譜が高すぎるんだもの。などである。アキレテものが言えない。これらには楽譜を週刊誌と同列にしているとしか思えない。それでは問うてみよう。

「アナタのまわりで、週刊誌を買っている人と合唱の楽譜買っている人とどちらが多い」と。答えはいとも簡単に週刊誌であろう。ほうらご覧、合唱の楽譜なんて所詮需要は無いモノなのだよ。従って市場価格が高くなるのは当然なハズ。
 供給側にだって問題がある。@売れ筋ばかり追求して、希少な作品は発行されないばかりでなく、過去の名曲といわれる曲も再版されない。A安直に編曲料だけですむポピュラー譜ばかり刊行している。B「コピー譜が横行して」と需要側に問題を転嫁して、よい作品を発掘出版していない。それら、文化発信という出版社の存在理由も負わず、「コピー譜がふえると正常な楽譜出版に支障をきたします」とは笑止とも思える。しかしながら実際に、楽譜売り場を眺めてみるとわかるだろうが、合唱楽譜は、「第九」「水のいのち」といった売れ筋の利益を頼りにしている。
 

1冊すべて演奏しないからといっても

 さて、コピー譜を容認している人に問いたい。「高校の教科書はコピーしたものを使いましたか」、「教科書にある題材を全て習いましたか」と。これも答えはNOであろう。もっと極論は「広辞苑の全ページに目を通しましたか」となる。ここで僕が主張したいのは、所詮書物は無駄が生じるもの。組曲のように、1冊全て熟読したとするなら、それはラッキーな方と考えるワケにはいかないのだろうか。こと合唱の1〜2曲に関しては、効率性ばかり追求して、楽譜を購入しなくなっている。その「節約の善行」が、合唱人の世界を狭くしていると言えば極論だろうか。
 現在の著作権法によって複写が認められているのは、「教育に使用する場合」と「個人の研究閲覧用」に限られているハズだが。懇意にしている楽譜屋さんは「外国の出版社には
12部以上でないと売ってくれないトコもあるんですわ」と話してくれる。

 僕もCDを購入すると、ついついその曲の楽譜も購入することが多いが、心なしか円高にあってもページ数の割には高いなぁと思うことも多い。どうやら全世界的に楽譜コピーは深刻な問題となっているようだ。だからといってゼロックスやリコーに怒りの矛先を向けるのはお門チガイというモノだろう。
 

1冊の楽譜でパトロン気分が味わえるのに

 合唱人口はおかあさん部門に依存している。ある県の合唱連盟は、おかあさんコーラス大会の黒字で運営が成り立っているようなモノ。ところが、そのおかあさんコーラスにもコピー譜がはびこっている。おかあさんコーラスの大スポンサーはキューピーマヨネーズ、「本物のタマゴから作ってます。だからご家族の健康を守るおかあさんに使って欲しいのです」のごときコピーがあったかと記憶する。このように食品添加物や偽表示食品には目くじらを立てて、「家族の健康を守るには、本物の食品!」と主張しながらコピー楽譜を手に歌う。所詮コピー譜は健康を害しませんが、着実に歌う人の心根を侵食してますよ。そんな矛盾にソロソロ気付くべき時と考える。

 問題は、それほど罪の意識が無く、「楽譜買うのがモッタイナイから」といってコピーしてしまう僕らの精神にあるのだ。電車の中でしゃがみこむ若者に眉をひそめるなら、どうしてコンビニのコピー機でボタンをいとも簡単に押してしまう合唱人に「いけないんだ〜」と言えないのだろうか。都合のよい正義感はこんなところにもはびこっている。

 楽譜に対してもっと鷹揚に構えられないだろうか。例えば、ベートーヴェンの「交響曲第九番合唱終曲−普及版」(音楽之友社刊)は
700円である。それを印刷物と考えず、700円をベートーベン氏(ならびにその遺族?)に寄付したと考えられないだろうか? つまりは、ちょっとしたパトロン気分を味わえるのだ。生前、自作の楽譜がちっとも売れなかったベートーベンは、700円投資してくれる皆さんに、心より感謝してくれるんだよ。要するに楽譜を買うことは、「天に宝を積むようなもの」と念じて、ガマ口を開いて欲しいと願う。それが「合唱文化」を築く善行に他ならないのだから。

 

2002/10/17