K-7


 
    ど れ が ホ ン ト な の や ら
 


川 村 修 一
 


 


 
数寄屋橋の旭屋書店には今、日本語に関する本のコーナーがあります。常識としての日本語だの、敬語の正しい使い方だのといった切り口の本が揃っています。世界でこの国ほど「日本人」とか「日本語」というふうに自分自身を考えたがる国民は多分珍しいと思います。
 自分たちの特徴や性格を分析した本を読み、四六時中書いたりしゃべったりしていることばについて考える・・・・。そして独り納得したような気分になり、しかもそのことがまったくといっていいほど身に付かない。そしてまた忘れたころに同じような本を買っては面白がる。
 どうせ出版側にすれば売れ筋、書い手側にすればなんとなく身近なテーマで理解しやすそうだし、知ったかぶりのひとつもできる事柄くらいあるだろう、といった程度の次元で起こる現象なのだろう。その一方で平気でマチガイことばが氾濫している。
 新聞や雑誌、放送ことばからマチガイことばの例を少しだけご紹介してみよう。
 たとえば「パネラー」。これはパネリスト。こういったものはたいてい全国紙などの大マスコミが主催するものだが、これがパネラーとパネリストがマチマチなのだ。一度アメリカ人に聞いてみた。「パネラーって分かる?」「ああ、壁にパネルでも貼り付ける人のコトデショウ!」。
 野球放送でベテラン解説者が「バンド」の解説。これは多分バントのことではないかと勝手に想像するのだが。そういえばその評論家が着ていたのは「ジャンバー」(ジャンパー)だったなあ。「エンターテインメント」もたいてい「ン」が抜けているし。ウオツカはたいていが「ウオッカ」だ。極めつけはスコッチの「バレンタイン」か。これなど通ぶる御仁に「バランタインというんだよ」などとは相手に悪くてとても注意する勇気が湧かないのだ。

 こんなマチガイは新聞などでもほとんど意に介さないようだ。「職住接近」。これは近接です! 職場と住居が接近してくるなんてアホなことがアナタ考えられますか! また、先日の朝日夕刊の素粒子にはこうあった。「今日が誕生百年の小林秀雄・・・」と。それをいうなら、アナタ「生誕百年」でしょう!(ちなみに、腹立ち紛れに連発したアナタはあの埴谷雄高の口癖なのであります。)

 最後に、茨城県を「いばらき」と正しく発音している人がいったい何人いることでしょうか。 ではまた。(了)

 





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