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赤玉ポートワイン と ワインアドヴァイザー
 

G・バキスタ 



 その昔、日本ではワインといえば甘い飲み物ということで、大の男が飲むものではなかったと聞いてショックを受けた。ワインは決して甘いだけのお酒ではない。いろいろ話しをきいてみると、どうも日本には「赤玉ポートワイン」という名の甘いワインが出回っていたことがあったらしい。甘いワインといわれると、すぐにポルトガルのポートワインを連想する。

 ポルトガル語ではワインのことをヴィーニョVinhoという。戦国時代に日本に渡来した南蛮酒は、珍陀(チンタ)と呼ばれていたらしいが、ポルトガル語の赤ワイン“Tinto”が和風に転じたようだ。ついでに付け加えると、ポルトガル語で、葡萄園はQuinta、ワイナリーはAdegaという。

 ポルトガルは、イベリア半島の最西端に位置する小さな国だが、南北に長いため気候がバラエティに富んでいる。そこで個性があるワインがたくさん作られている。ポルトガル独特のワインとしては、ポートワイン、マデイラワイン、ヴィーニョ・ヴェルデなどがある。ポートワインは、国内各地から大西洋に面した河口の街ポルトPortoへ運ばれ、そこで熟成を重ねたところから名付けられたワインである。発酵途中でアルコールを加えて発酵を止めるから、それだけ糖の甘さが残り酒精が強化されたワインになる。それでかなり甘口(ドーセDoce)のワインに仕上がるというわけである。

 日本で昔からあった(いまでもあるかどうかは知らないが)赤玉ポートワインは、果たしてポルトガルのポートワインと同じものなのだろうか。日本で「ワインなんか甘くていやだ」という人は、たぶん、あの赤玉ポートワインしか知らない時代の人だったのではないか。もしそうだとしたら、赤玉ポートワインとやらは、ずいぶんと罪作りなことをしたものである。ちなみに本物のポートワインは、赤Tintoだけでなく、白Brancoもある。ワインの製法からすれば、赤白どちらでも作ることができる。

 現代の日本で、赤玉しか知らない人はまさかいないだろうから、よけいな心配はしなくてすむが、それにつけてもワインをもっと正当に扱ってほしいと思う。

 日本の友人Mは、ワイン・アドヴァイザーの資格を持っている。Mは、趣味と実益を兼ねているしあわせな人である。じつは酒屋さんの二代目。簡単にいってしまえばワイン・アドヴァイザーとは、ソムリエみたいなもの。では、ソムリエとどこが違うかというと、違いは接客をやらないことだけ。ソムリエはレストランで、その日の料理に合うワインを推薦するとか、何かとお客の好みを聞いてワインを選ぶ手伝いをしながら、実際にワインをサーブする。サーブといってもテニスじゃないから、ワインボトルを振り回すような野蛮なことはしない。ソムリエの一挙手一投足は、料理を美味しく食べるための雰囲気作りという演出でもある。だからショーマンシップもなければならない。それに比べてワイン・アドヴァイザーは、もっぱら裏方だが、ワインについてはソムリエと同じレベルの知識と経験があることには違いがない。ワインについて専門的な知識を持つとともに、テイスティングによりワインの利き酒ができる。筆者のようにただ飲みまくるだけのワイン党じゃない。

 Mに誘われて「シャンパンとワイン」の飲み比べ会に参加したことがある。だいぶ前のことだから記憶も薄らいでいるが、場所は、大きな酒屋の二階に特別に作られた部屋だった。比較的若い人たちが7、8人集まっていた。会費はたしか一万円だった。フランス料理を楽しみながらそれぞれの料理にぴったりのシャンパンやワインを楽しむ会である。後学のためにと大枚はたいて参加してみた。
 参加者のなかのワイン・アドヴァイザークラスの何人かが、これはと思う自信の一品をそれぞれ持参し、それをみんなで少しずつ味わうという寸法。たとえば、自分一人だったらとてもじゃないが手が出ないような逸品でも、みんなで割勘にすれば手が出る。酒屋の二階の特別室は、厨房とダイニングがつながっていて、フランス料理専門のシェフが説明しながら料理を出してくれる。それに合わせたシャンパンとワインの詳しい説明をワイン・アドヴァイザーがしてくれる。

 シェフは、あらかじめシャンパンとワインのリストをワイン・アドヴァイザーから受け取り、それに合う料理を工夫してくれていた。ワインは1本に750ミリリットル入っているから、頭数で割ると約100ミリ弱ずつ飲める。値の高いものは別にして、手に入るかぎり2本づつ用意されていたから、軽く2杯はいただける勘定だ。あんな経験はそんなにできることじゃない、いまだに楽しく想い出される。

 さて、あなただったら一万円を高いと思うか、それとも安いと思うか。


(2002年4月)

 



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