E-53



乾燥肌
もしたたる物語

 



島 ア 弘 幸

 


2006214


 この十数年、男は冬になるたびに、乾燥肌のかゆみに悩まされていた。ところが今年は冬が終わろうとする2月になっても、そのかゆみがまったく無くて、それどころか、かゆくなる気配を感じても、ある対策をとることで簡単にかゆみが抑えられることを知った。乾燥肌のかゆみで悩んでいる同胞のために、男のひと冬の経験を紹介しようと思う。
 それまでに、男はあらゆる市販の塗り薬や化粧品を試してみた。どれもこれも一時しのぎは出来ても、根本的な乾燥肌の改善には至らなかった。風呂に入るとかゆみは治まるので、乾燥肌に、水分を補給すれば良いことは想像できた。風呂に入った後で尿素入りのクリームを塗るとか、職場ではクリームを塗る前に、女性が使う肌水を吹きかけることも試してみたが効果は長く続かなかった。無意識のうちに、かゆくてかきむしるので、腕や、足の皮膚はあちこち傷になっていて、しかも毎冬、同じところがかゆく、ぶつぶつと円形状に腫れてくるので、その周辺の皮膚はかたく変色している。触るとカサカサしていた。皮膚が傷ついた時には、消毒のつもりで切り傷用の消毒液や、髭剃りあとに使うアフターシェーブローションなども消毒と水分補給を兼ねて吹きかけてみたが、これも一時的にかゆみを抑える効果はあっても長くは続かなかった。

 外から水分補給をしてもダメなら、内から水分を補給してはどうか・・・これが男のたどり着いた対策で、この冬は、一度も乾燥肌で悩むことがなかった。乾燥肌の人が、皮膚のかゆみを感じたら、グラスコップ2杯分の水(お茶やスポーツドリンクでも良い)を飲んで試してみてはどうだろう。
 飲んだ後、いつの間にか仕事に集中していたり、飲んだ後、自然に朝まで眠っていたら、大成功。コップ二杯分の水は、試験的に飲むのであって、普段はそんなに多くの水を一気に飲む必要はない。男の場合、生活習慣として、冬場の水分補給が不足していたのだろう。この冬は職場でも、夜間でも、そばに水をおいていつでも水が飲めるように努めている。正直なところ、そのおかげかどうかは分からないのだが、この冬は、乾燥肌のかゆみで悩まされることは一度もなかった。今年は例年よりも寒く、暖房も多く使用している。外気の湿度も低い。それなのに、乾燥肌から開放されたのは、水分補給のおかげ、それ以外に考えられない。きっと、人は年をとると(多分、四十歳を越える頃から)、皮膚の水分を保持するバリヤーが衰えて、皮膚から水の蒸散が増加するのだろう。そのために皮膚を潤す水が不足して、体内で水分が不足する結果としてかゆみを伴う乾燥肌になっていたのではないか。若いときよりも、心がけて水を多く飲むことで、乾燥肌、あるいは誰もが知っているように、血液ドロドロが原因という動脈硬化症や、脳梗塞の予防になるのではないだろうか(例えとして使ったが、「血液ドロドロ」とは何のことか、男には分からない。生きている人で、そんな状態があるとは思えない)。

 男と乾燥肌の出会いは古く、まだ、ベルリンの壁があって、東西ドイツが分断されている頃だった。12月から翌年2月末までの3ヶ月間、男は冬のベルリン(東独)に滞在したことがある。毎日が零下10℃前後での生活で、夜間はもっと気温が下がったのだろう、部屋に備えられた大型の暖房装置は、やすむことなく一晩中暖かな空気を送り続けていた。夜は長く、夜明けは9時を過ぎてからだった。朝の通勤時間になっても、戸外は真っ暗、凍りついた車道には、ヘッドライトをつけた自動車が白い蒸気を吐き出しながら走っていた。交差点など歩道のところどころに、警備をするお巡りさんが立っていて、その人のはく息が、白く大きく広がって遠くまで流れていた。午後4時を過ぎるころには、街は再び暗くなって、ネオンや娯楽も少なかった当時の東ベルリンの冬は、寒くて、暗くて、重たくて、わずか3ヶ月の滞在とはいえ、決して楽しいものではなかった。
 男は知らなかった。気温が零下
10℃前後になる厳寒での生活を。一日中、大型の暖房機で部屋の空気が暖められている中、加湿器もなく、これといった対応もしないまま過ごすことの危険性に、男はまったく気づいていなかった。中年男の一人住まいで、炊事もほとんどしない毎日だったので、部屋の中はカラカラに乾燥していたのだろう。生活を始めてひと月が過ぎるころ、男の腕と足は、かゆみを通り越して広い範囲で皮膚炎を起こしてしまった。医者にはかからなかったが、現地の若い友人がフンボルト大学の皮膚科の教授の息子とかで、塗り薬を処方して持ってきてくれた。塗り薬のお陰で、またその頃には部屋の加湿が必要なことにも気づいており、なんとかベルリンでのひと冬を過ごすことができた。ただ、それ以来、日本に帰ったあとも、毎年、冬になるとかゆみが出るようになって、今日まで乾燥肌と戦ってきた。乾燥肌のかゆみには、水分の補給が大切で、外から補給をしても効果はないが、内から水を補給すれば効果があるように思う。試して、効果の有無を知らせて欲しい。
 

エピローグ
 
男も昔は「水も滴(したた)るいい男」と言われたものだが(もちろん、自分で言っているだけだが)、最近ではすっかりその水も枯れて、したたらなくなってしまった。その結果が乾燥肌である。諸兄(姉)も水をどんどん飲んで、幾つになっても水をしたたらせておく方が良いように思う。乾燥肌に悩むご同輩においては、嘘か本当か、コップ二杯の水を試して欲しい。ただ、断っておくが、男は医者ではない。内からの水分補給で効果が無かったからといって、責任をとる立場にはない。

 

 




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