ユダヤ人は、いまや世界中どこの国にも住んでいる。
そもそも現代においてユダヤという国家はないので、ユダヤ人という言葉は、アメリカ人とか日本人などのようにある国家に属する人民を表す言葉と同列には、並べられないものだ。また、ユダヤ人とは、白人や黒人あるいは黄色人種といった生物学上の分類でもない。ユダヤ人の定義は、その特異な歴史的背景も絡んで、ひとくちに説明することはできないほど、複雑な様相を呈している。さらに、いまもさかんに論議が続けられている現在進行形のテーマでもある。
ユダヤ人であるかないか、関係者にとってはたいへん重要な問題である。じつは、ユダヤ人の国といわれるイスラエルにおいてさえも、ユダヤ人の〖認知〗がときには社会問題になるとまでいわれる。最近、イスラエル以外の国で改宗した改革派ユダヤ教徒が、イスラエルの裁判所でユダヤ人と認められたことが、大きなニュースになったという。
公式な定義としては、第二次大戦直後、ユダヤ暦5710年─西暦1950年に制定された(イスラエルへの)帰還法の改訂第2号、第4条B(定義)に次のように規定されている。
「本法の趣旨では、“ユダヤ人”とは、ユダヤ人の母から生まれ、あるいはユダヤ教徒に改宗した者で、他の宗教の成員ではない者を意味する。」
じつにシンプルな定義である。つまり「ユダヤ人の子供とユダヤ教徒がユダヤ人」というわけである。しかし、これでは、まるで禅問答のような感じがしないでもないし、いかにも苦しい。すなわち、生物学と宗教からの両面による規定であるが、これで、そもそものユダヤ人(の母)とは誰かを規定したことになるのだろうか。
ユダヤ人の母から生まれなくとも、ユダヤ教に改宗しさえすれば誰でもユダヤ人になることが可能でもある。ところで、一般には、ユダヤ人=ユダヤ教徒かといえば実際にはそうではないらしい。ユダヤ人であってもユダヤ教を信奉しない人もいるし、無神論者もいる。ユダヤ教から別の宗教へ改宗した場合や、ユダヤ教の戒律を守らない場合はユダヤ人とは認めないとなると、そのつどユダヤ人となったり、あるいは追い出されたりと、大きな混乱を来すにちがいない。現に、多くのユダヤ人がユダヤ教の戒律を守らないそうだ。
父親がユダヤ人でも母親がユダヤ人でなければ、その子供はユダヤ人ではない。戸籍上の父親がユダヤ人ではどうしてだめかといえば、真の父親が誰かは母親以外には神様でなければわからないからだ。そして、母親が絶対に嘘をつかない保証もないからだ。ようするに母親がユダヤ人でありさえすれば、必ずユダヤ人の血はつながってゆくのである。まさか、ユダヤ人全員のDNA鑑定をするわけにもゆくまい。
ユダヤ人かどうかを問題にするのは、イスラエル国籍を得たい場合であって、その気のない者にとってはさして気にならないことかもしれない。
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