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    ホンネにもいろいろある

 

 

加 藤 良 一

 

 

 

 小見出しをざっと見ただけで、ほとんど何を言いたいのかわかってしまう。『医者のホンネ』という本は、とにかく痛快で面白い。著者の精神科医 柴田二郎氏は、患者のことを損得抜きで考える“本物”の医者である。まったく医者とは思えないほど、びっくり仰天するようなことをいう人だ。
 柴田氏は、ほかにもたくさんのエッセイを書いているという。『医者のホンネ』には、つぎのようなそのものズバリが収載されている。一部を紹介しよう。

◇精神病に関するでたらめ/脳をしばるクスリをクサリという/医師会というのぼせ上がった存在/「検査中毒」の若い医者たち/この傲慢なる医者の態度/癌専門大病院院長の悲惨な最期/
◇消費者である患者が医者を選ぶ時代/こんなものいらない!「厚生省」/心臓移植医よりニセ医者のほうが偉い/薬はどれほど効果があるのか/抗癌剤、誰も効くとは思ってない/リハビリをしても駄目なものは駄目/
◇そもそも医学教育がやくに立たない/教養課程は大学の先生の失業救済策/現場を知らない基礎医学の教授達/専門バカを生むためだけの臨床医学/もう医者達に医学教育を任せるな/御殿女中の陰険さを持つ文部省/
◇生きるか死ぬかは患者が決めるべきである/あっさりあの世に旅立つ幸せ/医師連中が癌検診を受けない理由/安楽死を妨げるマスメディア/自然に死ぬことも許されないのか/延命行為は即ち生命の冒涜である/ウソツキ医者ほどやりたがる記者会見/精神鑑定とやらのいいかげんさ/一般の人の人権こそ問題なのだ/
◇「健康馬鹿」に告ぐ/健康と長寿を取り違えるな/癌で死ぬのもつらくはない/長寿というものの馬鹿らしさ/流行に左右される医学学会/詭弁を弄する移植医共/喫煙有害論などのでたらめ/愚かさの極み、音楽療法/科学が手助けする馬鹿々々しき流行/癌は喫煙ではなく遺伝子で決まる/運動は体によいという迷信/日本にしかない病気「成人病」/老人の性ぐらい好きにさせてやれ/

 いかがだろうか。ホンネでなければいえないテーマばかり並んでいるではないか。
 エッセイの冒頭に、「私は市井の一開業医である。小さなビルのまた片隅で精神科クリニックをやっている。」という出だしがついていることが多い。

 「私のやっている精神科などではほとんど自然科学が出る幕はない。不眠を訴え、寝起きがわるく、やる気が起こらず、職場に行っても山ほどある仕事は気になっても片付かない、という患者があるとする。典型的なうつ状態であるが最善の療法は休養することである。」とまで言いきる。
 おそらくそうなのであろうが、ふつうはあれこれと薬を処方するのではないだろうか。この人は、とにかく、かなり割り切った考えの持ち主で、それを遠慮なくきちんと主張する。
 「なおるものはほっといてもなおるが、なおらないものはどんなことをしてもなおらない。」 だから、ガンの早期発見のための検査 は、患者を痛めつけるだけだ、と否定している。

 書評として、養老孟司氏が「ホンネにもいろいろある」と題した一文を寄せている。
 養老氏によれば、著者の言うホンネとは、業界のホンネではなく、あくまで著者個人のホンネであるという。つまり、柴田氏は医師会にも加わらず、独立独歩で開業している人であり、業界からは逆に睨まれる存在だからだ。
 上に紹介したような医療の実態をこれだけ正面から書くには、かなり勇気がいるにちがいない。医療業界に物申すには医師会からも距離をおき、仲間からも憎まれることを覚悟しなければならないはずで、なかなかホネが折れることである。

(2003年8月13日)