E-30 

 
   
「青春」の詩
 


小 林 泰 明
 

     
      (2002年11月25日)

     

小学生の時だった。父から一冊の本をもらった。表題は「心に太陽を持て」。その詩は私の子供心に深く焼き付いた。
 「心に太陽を持て。唇に歌を持て。そうすれば何が来ようと平気ではないか……」
 一連の詩に幼い胸をときめかし、何か元気付けられるものがあったことを、今も鮮やかに覚えている。
 それから
50年。ある雑誌にサムエル・ウルマンの「青春」という詩が出ていた。早速ノートを取り、その中の「年を重ねるだけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いが来る」という言葉に、強烈な印象を覚えて、再三くり返し読んだ。「青春とは人生のある時期をいうのではなく、心の様相をいうのだ」これらの言葉が共感をもって胸に沁み込んだ。
 ある日『「青春」という名の詩』という本を頂いた。その中にこの詩の原文があった。

Youth is not a time of life; it is a state of mind; ……」

多くの人々が共感を持ってこの詩を読んだに違いない。サムエル・ウルマンという詩人の人生観は、意欲的に物事を考え処理している人々に、特にその感が深いと思う。
 この詩の一部が日本経済新聞に載ったことで、多くの読者の目にふれたであろうが、文学的な価値は別にして、今の時代共感を覚える人が多いのではなかろうか。多言は労すまい。ここにあらためて同書の中から和訳を転記させていただくことにする。


            青    春

サムエル・ウルマン

青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちかたを言う。薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな肢体ではなく、たくましい意志、ゆたかな想像力、炎える情熱をさす。青春とは人生の深い泉の清新さをいう。

青春とは怯懦(きょうだ)を退ける勇気、安易を振り捨てる冒険心を意味する。ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる。

歳月は皮膚にしわを増すが、熱情を失えば心はしぼむ。苦悩・恐怖・失望により気力は地に這い、精神は芥になる。

60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、驚異に魅かれる心、おさな児のような未知への探求心、人生への興味の歓喜がある。君にも吾にも見えざる駅逓が心にある。人から神から美・希望・喜悦・勇気・力の霊感を受ける限り君は若い。

霊感が絶え、精神が皮肉の雪におおわれ、悲歎の氷にとざされるとき、20歳であろうと人は老いる。頭(こうべ)を高く上げ希望の波をとらえる限り、80歳であろうと人は青春にして已(や)む。
 


 「ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる」
 ちょうど年男の私は、いつまでも青春を失わないように、今年は、倍旧の努力をしたいと覚悟を新たにしている。



エッセイ集「あれや これや」(1996年10月1日)より転載