【連句の歴史】 |
連句の原型は、日本武尊と火焼の翁の問答「新治筑波をすぎて幾夜か寝つる/ かかなべて夜には九夜日には十日を」にみることができる。平安時代には、 「短連歌」と称して和歌の上の句と下の句を二人で詠むものだったのが、院政期 (11〜12世紀)には、独りまたは多人数で詠む「長連歌」に発展した。即興性や 機知の応酬を楽しむ文芸から、全体の変化・抑揚に気を配りながら和歌的情趣を 盛っていった。室町末期に、連歌に俳諧(滑稽)の要素を盛った俳諧連歌が興った。 文芸が民衆の手に渡った時代である。連歌の煩雑な形式からも解放された。 この「俳諧連歌」が「連句」と広く呼ばれるようになったのは、明治三十七年に虚子 が提唱してからである。連句の中に「歌仙」という形式がある。名歌詠み三十六人 の「三十六歌仙」から命名された。今日、連句・歌仙と称されるものは、一般に 「三十六句形式」のものを指す。緊張感を保つ適度の長さが好まれているからであ る。新風連句もこれに倣っている。 |
【用語・式目について】 |
連句は、本来、一堂に会して詠まれるものである。連句を詠む仲間を連衆という。 初折表・裏、折立・折端等々は、その昔懐紙二枚を横折りにし、これに連句をした ためたことからくる。式目とは連句のルールである。発句は主客の挨拶であり、 当季のものを詠むことになっている。脇句はこれに対する亭主の応答であり、 発句に添ったものが礼儀とされている。第三は相伴客が望ましく、次ぎの句が 出やすいように「て・にて・らん・もなし」で終わることが多い。挙句は巻の最後の句 であり、目出度いものが望まれる。なお、発句との同意語は避けることとされてい る。上記以外は平句と呼び、次項の「歌仙定座配置表」を例に、季語を配し季節の 移り変わりに配慮したい。「雑」は無季のことである。「恋・月・花」を適宜詠むことに なっている。また、対象も人物や場(風景・叙景)が長く続くことも戒められている。 一巻は三十六句の旅であり、季節や対象の変化に富んだものが望まれる。 後戻りは最悪である。このため、直前二句に詠まれた同意語は避けなければなら ない。初折表六句はプロムナードであり、宗教・恋・死葬・述懐・病気・固有名詞など 印象の強いものは避けることになっている。ただし、発句はなにを詠んでも自由で ある。現代の連句作者は、式目の拠りどころを「芭蕉七部集」に求めているが、 成文化されたものはなく、口承である。当の芭蕉もかなり柔軟である。 なお、「芭蕉七部集」は、これをクリックすると「芭蕉DB」に入り繙くことができる。 解説もあり、分かり難い連想も納得できる筈である。ご興味のある方は一見をお奨め する。 |
【歌仙定座配置表】 |
高橋順子著「連句のたのしみ」より 参考まで これにはこだわりません 凡例:例一は発句の季語が新年の場合 例二は発句の季語が春の場合 |
初折表六句 1発句 2脇句 3第三 4四句 5五句 6折端 初折裏十二句 7折立 8二句 9三句 10四句 11五句 12六句 13七句 14八句 15九句 16十句 17十一句 18折端 名残表十二句 19折立 20二句 21三句 22四句 23五句 24六句 25七句 26八句 27九句 28十句 29十一句 30折端 名残裏六句 31折立 32二句 33三句 34四句 35五句 36挙句 |
例一 新年 新年 春 春 春・月 雑 雑 恋 恋 夏 夏 雑 秋・月 秋 秋 雑 春・花 春 春 雑 雑 雑 冬 冬 雑 恋 恋 雑 秋・月 秋 秋 雑 雑 雑 春・花 春 |
例二 春 春 春 雑 秋・月 秋 秋 恋 恋 雑 雑 雑 夏・月 夏 雑 雑 春・花 春 春 雑 雑 雑 冬 冬 雑 恋 恋 雑 秋・月 秋 秋 雑 雑 雑 春・花 春 |
例三 夏 夏 雑 雑 秋・月 秋 秋 恋 恋 雑 雑 雑 冬・月 冬 雑 雑 春・花 春 春 雑 雑 雑 夏 夏 雑 恋 恋 雑 秋・月 秋 秋 雑 雑 雑 春・花 春 |
例四 秋 秋 秋・月 雑 雑 夏 夏 恋 恋 雑 雑 雑 冬・月 冬 雑 雑 春・花 春 春 雑 雑 雑 夏 夏 雑 恋 恋 雑 秋・月 秋 秋 雑 雑 雑 春・花 春 |
例五 冬 冬 雑 雑 秋・月 秋 秋 恋 恋 雑 雑 雑 夏・月 夏 雑 雑 春・花 春 春 雑 雑 雑 冬 冬 雑 恋 恋 雑 秋・月 秋 秋 雑 雑 雑 春・花 春 |
【漱石・虚子らの歌仙】 |
日露戦争勃発の年、明治三十七年九月に東京・千駄木町の夏目漱石邸にて、 夏目漱石・高浜虚子・坂本四方太が三吟歌仙を巻いている。題はない。漱石の歌仙は これが初めてであり、次のとおり式目を破ること度々である。脇句は亭主である漱石が なすべき処、四方太が付けている。初折表六句に固有名詞を出している。直前二句の 同意語(義経)も間接的ではあるが詠んでいる。雑を挟んで同季の句を出している。 大御所、虚子の同席でこれである。このいゝ加減さが気に入り、参考に取りあげた。 この分なら、小生にも連句がやれそうと勇気づけられ、新風連句を始めさせて頂いた 次第である。(出来映え?、それは見てのお楽しみ) |
初折表六句 1発句 三吟の屋を撼がす野分かな 2脇句 萩しどろなる木の隅々 3第三 後の月跛の馬にうち乗りて 4四句 わからぬ歌も節の可笑しき 5五句 年々に淋しきなりし熊祭 6折端 九郎の館は迹ばかりなり 初折裏十二句 7折立 静舞今も残れる曲舞に 8二句 黄金作りの太刀佩いて立つ 9三句 鉄網の中にまします矢大臣 10四句 御鼻を食ふ蟲も百年 11五句 土用干顔輝が軸を見暮しつ 12六句 眠い時分に夕立が来る 13七句 燈台を終日守る身にて 14八句 浦の漁師に蟹貰いけり 15九句 恵比寿屋に娘連れたる泊り客 16十句 朧の月に三人の影 17十一句 花更けて御室の御所を退るなり 18折端 銘をたまはる琵琶の春寒 名残表十二句 19折立 入唐を思ひ立つ日に舟出して 20二句 反吐を吐きたる乗合の僧 21三句 意地悪き肥後侍の酒臭く 22四句 切って落せし燭台の足 23五句 絵襖に夜な夜な見ゆる物の怪 24六句 百日紅の赤過ぎるなり 25七句 白壁に名主の威光ほのめきて 26八句 村の出口に立つる高札 27九句 落人の身を置きかねて花薄 28十句 うそ寒き夜を籠に乗るなり 29十一句 関守も今宵の月を眺むらん 30折端 歌心ある髷の結様 名残裏六句 31折立 発句にて恋する術も無かりけり 32二句 妹の婿に家を譲りて 33三句 和歌山で敵に遇ひぬ年の暮れ 34四句 助太刀に立つ魚屋五郎兵衛 35五句 鷹の羽の幕打渡す花の下 36挙句 酒をそゝげば燃ゆる陽炎 |
秋 秋 秋・月 雑 冬 恋 恋 雑 雑 夏 夏 夏 雑 夏 雑 春・月 春・花 春 雑 雑 雑 雑 雑 夏 雑 雑 秋・花 秋 秋・月 恋 恋 恋 雑 雑 春・花 春 |
虚子 四方太 漱石 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 虚 四 漱 |