'21自選五句
剣矢 ストーブ抱き爺独り言さぁ寝るか
老鶯や目覚まし時計まだ鳴らず
太鼓にて出足を誘う盆踊り
虫の声ききつつ眼鏡探しおり
秋場所や弟子と笑顔の勝力士
左打 コロナ止み野山楽しむ冬紅葉
我妻や初夏と向ひし生け花を
梅雨明けを目指して咲くや花々よ
秋日和深し朝食作る爽やかに
冬空に良き友偲ぶ集いあり
伸平 紅葉にも色の深さはいろいろと
連日の酷暑にみみず這い上がり
あとわずか命の日々を蝉が鳴く
いつの間に季節となりぬ彼岸花
年の瀬やコロナ6波におびえつつ
鵜雪 合格とただ二文字の初便り
早春の香りは淡しマスク越し
鶯を聴いてしばらく鍬を置く
木槿咲く夢多き日は過ぎ去りし
冬晴れや大根畑が海に落つ
風 凍蝶の飛ばなんとして崩れけり
空と海とけあう果ての朧月
白靴を選びワクチン接種へと
竿を振る夏鴬の峪の中
木の葉髪仁鶴を送り寂聴も
芳拙 早春や川面長閑にかぎろへる
長閑しや空に崩れぬ雲の居て
青嵐梢いずれも灘を指す
花蜜柑すでにかほりを放ちけり
コロナ禍や茅の輪しみじみ潜りけり
如水 年男八度目となり年迎ふ
立春と聞かば浮きたつ旅ごころ
「あら虹が」傘を畳んで妻の声
秋晴や鳶が輪を描く石舞台
寒仕込み姉さん被りに赤襷
'20自選五句
左打 つつじ咲き桜の春を追いやりし
ぼろ市に楽しみ集う老若男女
底冷えが深酒許す春の宵
振り向けば池の樹木が秋姿
コロナにて孫の運動会寂しきか
剣矢 山茶花の落花を避けて散歩かな
春眠や至福の時よこの温さ
さわ蟹のかくれる溝や夏の朝
まだ九十もうひとふんばりや赤いシャツ
冬日和居ねむり紅茶チョコレート
伸平 俳句なる小文を結ぶ竹矢来
一面の早霧の海や春近し
日脚伸ぶ開ける雨戸も軽くなり
風光る緑の袖を泳がせて
六甲の峰を枕に秋の雲
南圃 七草を集めて二人粥を炊く
早乙女や御田植祭の水温む
さわさわとすすきの泳ぐ野道かな
間引菜を引いて友への土産とす
いい風の吹くを待ちわび大根干す
鵜雪 街中の垣にひっそりイワタバコ
倒木の登山路残し山笑う
無花果や熟すを待てず採りにけり
秋風や人目盗んでクサメする
年の瀬やあれもこれもで日が暮れる
芳拙 底紅の日毎眩しく咲き継げる
母の日やいつも厨に割烹着
少額の還付金あり蜆汁
打掛に祖母の裂地の押絵雛
屠蘇の座の孫の背丈のまた伸びて
風 裸木の枝ぶり競ふ園路かな
茄子漬の色に目覚むる今朝の卓
らっせーの声なき街の暑さかな
化石掘るジュラ紀の峪の蝉時雨
コロナ禍のマスクの町に蝉の声
如水 令和初新年参賀に淑気満つ
鴨川の向かうに並ぶ春灯り
上高地ホルン流るゝ山開き
秋立つや流るゝ雲のうすかりき
うたた寝にそつと掛けらる毛布かな
'19自選五句
左打 ゆさゆさと大枝揺さぶる八重桜
ひな祭り孫の演技にほれぼれと
夏の日に傘寿過ぎし令和なり
燗酒を静かに飲むや夜半の冬
枯木なか超高層の灯の柱
南圃 厨房の妻の鼻唄春近し
谷あいのダムを彩る鯉のぼり
紫陽花の色いろいろと里の道
赤トンボ泳ぐ棚田の空蒼く
コスモスのサワと動きて風を知る
剣矢 柚子袋そっと押しやる山湯かな
梅一輪見つけた路を又戻り
赤トンボひとり浮いてる青い空
早々とストーブ温し初時雨
風邪移す相手もいない独り者
伸平 陽が落ちて老いの夕餉や鰤大根
白鷺の小春日に立つ水辺かな
浮雲や風に伝えて花の舞
両耳も頭の中も蝉時雨
生業も一夜の水に持ち去られ
芳拙 ひたひたと春の潮寄す御船蔵
鶯や薄茶のかほる花点前
夏空に低く畑守る鳶の凧
秋思なほアルビノーニのアダージオ
初時雨大樹に籠る鳥の声
風 物忘る釣瓶落しの日のやうに
空鳴らす雨におののく梅雨入りかな
藤古木三十畳の花の糸
春の海眠れる艦に菊の紋
平成や昭和の慰霊果し終ゆ
鵜雪 古き友新茶と共に訪ね来し
蝉の声梢に響く敗戦忌
サンマだよと小さな魚皿にあり
冷水の摩擦効いてか風邪知らず
鳴く蝉を聞かずひっそり酷暑往く
如水 柏手の揃ふ響きに淑気満つ
柳川や舟に割らるゝ花筏
添ひ寝して扇ぐ団扇も眠りけり
ながらへてこその幸せ初秋刀魚
奥嵯峨の茶屋を出づれば初時雨
'18自選五句
左打 花散りし寺の境内春の月
五月晴傘寿むかえし誕生日
敬老日孫より届く似顔絵を
コスモスの隣に桜狂い咲き
鍋食べる湯気の向こうに皆笑顔
剣矢 落葉して銀杏は高く天を指し
荒れ海や北前船の番屋跡
独居に筍ご飯届きけり
神信ずガンの娘の木の葉髪
田植すみ熱いコーヒー蛙聴く
芳拙 城垣の縁を象る春の雪
窯めぐり白磁眩しき薄暑かな
ほつほつと供花に明るむ墓参
更科や色なき風の句碑洗ふ
電飾の聖樹清かに点りけり
鵜雪 夕凪や船一艘の冬の海
焼き芋を買ってきたよと妻の声
紫陽花や千紫万紅谷戸の路
落ち葉掃くあの老婆見て安堵せり
遠き人千枚漬を持ち来る
伸平 時折の風に誘われ花の舞
暴れ梅雨愛しき山河を掻きむしり
風に舞う落葉にも似て雀の子
追いかけてまた逃げてゆく枯落葉
輝くは小さき寺の彼岸花
南圃 湯たんぽの温もり残る朝寝かな
夢かとも吉野の山の花千里
城下町飫肥(おび)の街並み夏暖簾
落ち葉掃き昨日もそして今日もまた
ほっこりと妻と二人の零余子飯
風 天地の安寧祈る明けの春
奔馬ごと高校生の運動会
炎天や路肩に並ぶ被災家具
やはらかに風しなり来る竹団扇
幹に洞老梅天に花ささぐ
如水 那智の滝しめ縄に満つ淑気かな
きんつばの皮の薄さや春来る
虹映えて連覇を祝す甲子園
放課後の門閉じられて鰯雲
星空に一声残し鶴凍つる
'17自選五句
伸平 大きめの学生服や花の路
静けさと温みの道や花の影
尻を見て見よう見真似の盆踊り
年の瀬や身の来し方を顧みん
一葉をも残さぬ木立の冬ごもり
芳拙 内海の汀あおさの光摘む
島の春流木人に似て届く
追はれてはまた一団に稻雀
山深く人住まふらし藁こづみ
寒禽の風によろめく山に棲む
剣矢 年頭の決意決まらず早や十日
炎天下 快音 白球 大声援
米寿友と來し方行方 月見酒
木犀に導かれ一区巡りけり
凩や孫の晩成願いけり
南圃 豆を撒き一人で拾う福は内
春愁や旅立つ孫の荷を眺め
山の端の雲の白さや夏兆す
手拭いを広げて包む零余子かな
木枯らしの吹きて背中の丸くなり
風 ハーレーに乗つて出掛ける敬老会
一山は蜩の国翡翠色
水墨や烟る山路の濃紫陽花
早乙女の田水に映える朱の襷
春の潮膨れ満ち来る運河かな
鵜雪 父の日や何事もなく過ぎ去りぬ
母の日やご苦労様と酒を注ぐ
春の蕗苦い思いで苦い味
麗人に席譲られて初笑い
餅つきに見えぬ媼の戸を叩く
左打 五月晴れ清らか泳ぐこいのぼり
行く道の赤く垣根に寒梅や
枯れ木なか自己が目立てと山茶花や
立冬や黄色に染まりし並木かな
ぼろ市に集う仲間高齢者
如水 新年やいつか聴きたしウィーンフィル
青き踏む出会ひし方は卒寿とか
太腿も法被も跳ぬるギャルみこし
湧水の澄みたる暮らし里の秋
車椅子慣れぬ手つきや息白し
'16自選五句
剣矢 恋猫の泣き声しきり雨上がる
大寒や甘酒少し熱めにし
蟻の列つとそれついと戻りけり
裏の溝はたと子蟹の動かざる
迷いつつ三年日記買いにけり
左打 桜散り真価表すつつじかな
八ヶ岳薫風ふきて身を清め
雨後の庭月下美人のほころびや
初冬や我が身が望む居酒屋を
満月が寒く照らすや冬景色
伸平 寺の鐘入日を追うておぼろなる
藤時雨八十路に遊ぶ筆習い
故郷も豪雨に勝てず姿変え
パソコンの解説読み解く夜長かな
行く年の人それぞれの仕舞い方
芳拙 少年の声の馨れる菖蒲の湯
花篝女人抜襟深くして
けふもまた散華のごとく藪椿
おはぐろのなほ閑なり沢の上
台風の進路予想に子の電話
南圃 行く先を誰が決めたか蟻の列
エンドウの莢膨らみて妻を呼び
手を休め皺に見とれる餅とり粉
母想う零余子ご飯の香りかな
シャッターの音心地よく鰯雲
風 棄て置かる大根白し畑の縁
膝に乗る幼の温み十三夜
雲の峰呉鎮守府の煉瓦道
清正の名城落す春の地震(ない)
子ら返りいねむる妻や冬日向
鵜雪 我慢してぐい呑み一つ今年酒
蜻蛉の水面をたたき梅雨明ける
いぬふぐり一花十花と咲きはじむ
ストックをついて探梅谷戸の奥
薯掘りの元気親子に区別なし
如水 目の前の札をとらるゝ歌留多とり
洛北の路に迷ひて余花に会ふ
武具担ぐ少女の髪に初夏の風
食卓の花瓶新たや今朝の秋
帰宅より先に林檎の届きをり
'15自選五句
伸平 自転車は大欠伸して春を行く
絵日傘に似て大輪のがく紫陽花
二の腕の涼しき朝や残り月
名月に船頭乗せたや雲の波
風花は陽に輝いて蝶に似て
鵜雪 青空となれ木蓮の花のため
喜寿近く妻喜々として雛飾る
無花果の熟しおるかと散歩道
敬老日特養ホームで歌いけり
黄葉の山一木の紅葉はぜ
剣矢 消息のない友憂う新年会
鯉のぼり遠回りして喫茶店
浴衣着て解説涼し北の富士
コスモスや十四五本でフラダンス
高々と皇帝ダリヤ風に揺れ
南圃 昨日(きのう)今日また違う緑眩しくて
鍬を置き冷たき水と木下闇
斑猫(はんみょう)は我が行く先を知る如し
コスモスのゆれて微かな風を撮る
煤払い今年も感謝無事に過ぎ
左打 紅葉を楽しみあとの湯船かな
快晴に初孫喜ぶこいのぼり
桜散り若葉目覚めて清らかに
暑き中夏の満月蒸してりや
清らかに早朝歩む初日の出
風 子ら返りいねむる妻や冬日向
梅雨湿り障子重たき古屋かな
紅ばらのくずれんとして香り立つ
ハミングは厨(くりや)の妻か水温む
ぐう ちょき ぱぁ 一雨ごとの木の芽かな
如水 手水舎の柄杓一列淑気満つ
菜の花や湖の向こふに白き比良
爆弾の如き荒梅雨天怒る
今年酒をんな杜氏の初レビュー
緞帳の上りはじめて咳ひとつ
'14自選五句
左打 雪ふりて春を忘れし立春や
桜樹や蕾蓄え春日和
雨中に色づき光る紫陽花や
朝焼けに紅葉そうじ老婆かな
床屋行き薄き髪へと冬帽子
伸平 山霧に溶け込む読経の自若かな
成人の孫の晴れ着やそぞろなる
干柿の小皺に遠き里の日々
故里の大人花を追うて逝き
風鈴は幼き昭和の風を呼び
南圃 鍬打ちも一休みして鰯雲
冬の月冷たき影の通夜帰り
朝霞墨絵の如し山薄く
農耕の合間の憩い若葉風
夏休み怠けた代償草の丈
鵜雪 名優の逝く知らせあり時雨降る
山を越え野を越え今年もあきあかね
朝どりの胡瓜かじりて独居かな
春なずな一人前の畑となり
雪かきが示す地域の力かな
剣矢 ひなあられおーいお茶と呼んでみる
村中の鯉泳がせて過疎の村
昼下がり濃ゆめのコーヒーうろこ雲
故郷に寄る家なくて赤トンボ
会釈してくれしマスクの人知らず
風 助手は妻口数多く障子張る
公園の闇をにぎわす夏休み
寄せ太鼓隅田の川の縁みどり
ジャンボボ機の着陸見つつ浅利掘る
間延びして鳴き合ふ鴉日脚伸ぶ
如水 大試験机の端の孤独かな
筍の節に未来を思ひけり
幾千万鶴折る人や広島忌
遺影にと笑顔撮り合ふ敬老会
年の瀬や募金の声と籤のこゑ
'13自選五句
左打 日の出待ち珈琲嗜む冬ゴルフ
氷点下池の氷に宿る月
深緑に鳥の声消す蝉の声
秋の月夜長彩る初紅葉
落葉にて色つく道に白い霜
伸平 木々の芽は早や元旦に息吹あり
立たされし廊下や遠き花の陰
幾年の幾度の花夫婦して
代掻きの宵は蛙の恋宴
蒼天に諸手を挙げる初夏の樹々
南圃 春耕を邪魔するほどのいぬふぐり
草丈の茂るに任せ喜寿の夏
ペダル踏み額の汗に春惜しむ
一叢の八重の山吹陽に映えて
コスモスの微かに動き風を知る
風 散る黄葉巫女振る鈴の音(ね)の如く
蒼天や樹冠に見えぬ鵙(もず)をきく
老い二人静もる暮らし秋簾
青田風坐すひと逝くや窓広し
竹林に梅一木の山家かな
剣矢 凩や姿勢よいのは軍仕込み
訃報くる旧き友の名秋の風
吉野家も土用の丑はうなぎ丼
孫喜々とパフェ注文す敬老日
八十四 三年日記を買いにけり
鵜雪 日めくりを二日遅れでめくる日々
惜春や育毛剤を友とする
夏の薔薇あえぎあえぎて咲きにけり
台風に仁王立ちする案山子かな
復興の海からの幸秋刀魚焼く
如水 玉砂利を踏む音揃ひ淑気満つ
春浅し嶺にしろがね野に花菜
肩書きのとれて涼しき縞のシャツ
柿たわゝ熟るゝに任す過疎の村
ゆく年や残す想ひの多かりき
'12自選五句
左打 温かき陽を受け元旦前を向く
水墨に色付きはじめ春近し
雨上がり深緑照らす朝ゴルフ
立秋や日差し優しく鮭を乾し
街路樹が黄色じゅうたん敷きしめる
伸平 陸奥の津波ケ原に春遠く
春嵐西から北へと掃き散らし
衣更え己が若さに感謝して
見上げれば紅葉時雨や虹の橋
寒星に涙浮かべた愛彼方
南圃 秋耕のときに見上げる空遥か
陋屋(ろうおく)も子等賑々し夏休み
夏草も伸びて錆鎌砥ぐ朝
豆まきや二人で鬼と福の役
七草に三草も足りず熱き粥
風 初霜の光放ちて失せにけり
湯気あがる畑ほっこりと春の鳶
初夏や声変わる子に喉仏
地を叩き土の香あぐる大夕立
遡上せん河口盛り上げ鮭群るる
剣矢 故郷の友の絵ハガキ秋まつり
春彼岸実家の牡丹餅届きけり
先づ薫風入れてヘルパー動き出し
げんげ田で大の字に寝て雲をみる
柿食えば柿好きだった妻のこと
豊 若草の山焼き映える奈良の里
春よ来い早くこいよと老バト鳴く
久方の光目に入る春の日に
陽光を受けて飛び交う燕かな
柿食えば妻の顔にも頬笑みが
鵜雪 リス跳んで最後の椿落ちにけり
大空の高さを知るやホトトギス
節電の年はゴーヤと蝉の声
子どもらはほお膨らませふかし芋
胡瓜もぐ一日遅れの太さかな
如水 順々に七十億人年明くる
風光る両手を上げて一輪車
黙祷の鐘にかぶさる蝉しぐれ
筋通し独りぼつちや秋の風
妻病みて知る物干しの冷たさや
'11自選五句
左打 初氷早朝歩む白い息
木枯らしや早朝池に映る月
秋の道落葉深き犬散歩
ラジオ聞き冬道散歩シクラメン
豊 秋薫る良き友とゆく石見銀山
月ヶ瀬の湖面に映る紅葉かな
色づいた銀杏並木の御堂筋
富士山の白く聳える壮大さ
厳寒の白鷺川で餌を待つ
剣矢 誰もみな悩みかゝえて年の暮
山越えや丹波篠山みぞれ雪
セーターを褒められちょっと妻自慢
降る雪や露天風呂みな目を閉ぢて
生き延びて又欲を出す去年今年
伸平 薄紅の梢は春を招き寄せ
代掻きにはや居座りてかわづ鳴く
幾条の閃光踊り夏がゆく
いつの間にたわわの柿や今朝はなく
ふうわりと季節を閉じるプラタナス
南圃 柿干して昼間の軒の赤くなり
夕焼けに球児の声のまだ響き
紫陽花や穏やかな人住むらしく
台風の過ぎし青田の農夫かな
苗植えも種蒔きも済み柿若葉
風 老兵の言葉消すまじ開戦日
手を伸ばし日をつかむかに柚子を摘む
木犀や中学時代語る通夜
春風や揺るる張り紙尋ね人
瀬を鳴らし岩に渦巻く雪解川
鵜雪 万歩計万歩を超えて天高し
あきあかね千里を飛んで訪ね来し
君たちも震災の子か初秋刀魚
万緑の山から山へほととぎす
方便で議員が群れし党ありき
正敏 今年去年吾病み妻逝き八十路坂
花咲きて万余の散華無常也
春雷一過おひさま嬉し朝八時
春流す四月の雨にさつき映ゆ
雨あがり春宵濡れて肌恋し
如水 年玉を慣れぬ正座で待つ子かな
避難者の拍手を貰ひ卒業す
香ぐはしき藺草枕の昼寝かな
嘘もつき騙されもして木葉髪
京の町みちに迷ひて初時雨
'10自選五句
伸平 添え書きを二度読む年賀懐かしき
風花や童の日々を連れ来たり
緑増す木陰に小さき宴あり
朝蝉の声なく夏の行くを知る
落ちた葉も落ちる葉もなく冬来たり
南圃 筍を掘る山鍬に歳をみる
御崎馬雲流れゆき春惜しむ
朝採りの色目にしみる夏野菜
まどろみを邪魔せぬほどの春の雷
白鷺の見え隠れして草紅葉
風 京町屋廚にかぶら削る音
しわの手に載せる木の実の眩しかり
彼の人の吟声を聞く盆の月
本よむ子本をさがすこ木の芽吹く
田に畑に積まるる堆肥山笑ふ
鵜雪 春の雪紅い椿を友とせり
谷戸深く梅を求めて老夫婦
山藤はここだと香り漂えり
年の瀬や一人住まいの戸を叩く
新政権我慢も限度五月尽
如水 紋付の百一歳に淑気満つ
初雪や夕刊飾る金閣寺
春うらゝピンクのシャツを着てみたし
喉元の皺の目立ちて梅雨に入る
山車に乗る日焼けの顔に深き皺
'09自選五句
伸平 新田の座標に輪を描く走り梅雨
朝まだき霧たちてゆく経の声
山霧の昇る速さや駒ケ岳
遠き日の唄声のごと羊雲
絹の雲早や木枯らしを呼び寄せる
南圃 草の芽の息吹たしかに土香り
春の音をマクロレンズの中に聞き
シャツ一枚脱いで鍬打ち柿若葉
お田植えの神事の乙女頬を染め
藁こずみ光と影の棚田かな
風 一幅の軸一輪の寒椿
池の面にきらめく日差し春隣
夏草のシュプレヒコール狭庭にも
坪庭に光を散らす石蕗の花
白息を吐いてスクラム「どす」と組む
鵜雪 寒風と共に第九の便り来る
父の日よとワイン持つ手妻の皺
総会が終われば忘る胃の痛み
有難うと口ずさみつつ薔薇を剪る
春の日のゆらゆらとして魚の浮く
如水 数の子や吾に初孫いつのこと
加湿器の音深々と寒に入る
花筵隣り合はせも縁のもの
子供らの去りて角出す蝸牛
芒原ひかり揺らせて風走る
'08自選五句
伸平 一色にひと朝だけの雪景色
春雷がたたく板戸や音ぬくし
額紫陽花走る花火に似て候
畦ゆけば稲穂揃うて天を突き
大根煮の重き厚みに暖をとる
風 灯油高環境保護と着膨るる
上州の風も角とれ山笑ふ
(六大学野球)神宮に響く校歌や風薫る
夏雲や羊群を追ふ犬の声
入る風に窓細めたる夜の秋
南圃 足湯して友の笑顔と草紅葉
銀杏葉を撒いてはしゃぐ子陽に映えて
カタカタと線路は軋む青田かな
菜の花を飾りて明かし宵の膳
久々に妻と出掛ける冬帽子
花風 侘び寺の隙間風にも彌陀の笑み
斎場に声なき集い水仙花
相輪の光る彼方や春霞
喰い終えし白さ愛しき西瓜かな
外泊にはずむ患者の小春日や
鵜雪 山桜咲いて球児に涙あり
沢渉るへっぴり腰に山笑う
夏雲や戦跡に草生い茂る
耳鳴りと思えば遠くせみの声
太陽もテレビも熱き五輪かな
如水 初春や漁港華やぐ大漁旗
花吹雪追ふ児のあとを花吹雪
夏雲や跳ぬる球児に伏す球児
硝子戸を少し閉めたる今朝の秋
もぐり込む蒲団に残る陽の匂ひ
'07自選五句
伸平 善哉にしばし一息初詣で
ぬくもりを少し配るやちぎれ雲
坪庭の椿に妻を寄せて撮り
セザンヌの秋の葉色を掃き集め
空に雲一つだになくバスを待つ
南圃 昨日とは又違う緑雨上がり
茄子漬の色鮮やかに織部焼き
知る人もなき運動会の席をとり
柿もぎの青竹長く茜空
野を迷うが如く風の抜け
梧葉 初雪や竹の葉ずれの音消えて
名も聞かず別れを惜しむ花見客
梅雨晴れや路地を彩る京和傘
紗の衣裾ひるがえし僧走る
蒼穹をわし掴みして楓燃え
居倉 種を蒔く土ふうわりと整へて
老農の拍手たかく田水張る
廃坑の錆し鉄柵木下闇
上下に弾む声あり稲架ゆるる
影ならべ霧の道行く修験僧
花風 粗供養の箱の上なる桃の花
行者堂放つ扉に春の風
直売所曲り胡瓜の伸びやかさ
病窓に滲む景色の秋時雨
診察を終えて空には鰯雲
鵜雪 餅つきや一年ぶりの姥の顔
春節や關羽も笑う人出かな
托鉢の勧進春の戸を開く
刈羽村に熱き血潮と暑さかな
冬薔薇に魅入る男に明日の夢
行雲 先急かぬ旅にはあれど散る紅葉
大正の写真の母や梅日和
熱き湯の溢れる宿や蕎麦の花
女生徒のコーラスかろし初夏の風
青葉木菟北斗の星と夜を明かし
如水 元旦やラジオに流る「春の海」
菜の花の一畝街を明るうす
溶接の火花飛び散る油照り
夕空の雲まだ燃ゆる残暑かな
「かき入荷」思わずくゞる縄のれん
'06自選五句
南圃 田を返し水ひたひたと山逆さ
茶を摘みてホットプレートでの製茶かな
紫陽花の色いろいろに静寂に
日焼けした農夫の腕の稲重し
スクラムの声揃いおり鰯雲
伸平 枯れ溝にかすかな音や春の水
陶工の指先紅く春遠し
春先の着合わせ思案北の旅
マンションはひばりの空を奪いたり
天からの禊ぎに浮かれ神輿行く
行雲 銀河行汽車をさがして星の海
円居の灯車窓にうつる春の旅
道しるべ草書にやさし遍路道
思案してすることはなし冬の蜘蛛
ひと言の出会い別れて深山菊
居倉 初蝶の光集めて舞ひにけり
バス停の朝の挨拶秋涼し
木犀の香を手向けむや遠き墓
吼ゆるごと鮭産卵の歓喜かな
浅間より雲押し寄せて冬に入る
花風 父の声覚めても残る春彼岸
野の道におわす佛や蓮華草
菖蒲湯に浮かぶや遠き母の影
坂登る父母亡き里の蝉時雨
冬星座煌く神話夢馳せる
鵜雪 夏場所や明日を夢見る浴衣かな
食卓に青いばらあり温め酒
大根や一望千里緑なり
魚売りの掛け声熱し冬の市
この社銀杏黄葉に知る歴史
梧葉 おだやかに句碑を囲みて霜柱
里の春パトカー洗う駐在所
脛白き舞妓や祇園のにわか雨
長梅雨や香焚く煙堂去らず
閑かなる炎暑の街往く僧独り
如水 初神籤末吉引きて好しとせむ
片栗の花に見惚れてバス逸す
さよならと送るナースに初夏の風
隧道を抜くれば霧の里なりし
大雪や都会の色を奪ひけり
'05自選五句
行雲 菜のきれの行きつ戻りつ春の潮
紅灯に春がにじんで先斗町
くちなしの薫るいづこや五月闇
秋風や一会別れて甲斐信濃
雪空や行く手たづねて道祖神
汗水 十年目あの日も赤し南天の実
散り初めに想うあの娘の洗い髪
重病の妹に届け蝉時雨
俄か雨空木(うつぎ)鮮やか山背(やませ)道
干し大根吊るす老婆の癒し顔
居倉 春の水桶の豆腐ののびやかに
人の波棚の大藤ゆれもせず
朝採りの胡瓜を食むや音青し
鮭のぼる生命もみあふ瀬の飛沫
菊枯るる花一片も散らさずに
鵜雪 菊咲けば父の祝いし明治節
雲流る皆老い行きて敗戦忌
うぐい群れ川面にしぶき梅雨明ける
古池に今も昔も木五倍子咲く
冬鳥に残せし薔薇の恵みかな
花風 豆腐浮く小さき鍋の独り酒
故郷を眺めて山の彼岸花
玄関の靴は減りけり初夏の風
御簾懸けて母を偲ぶや衣更
職に就く娘荷造り春はゆく
伸平 高々に冴え許さじと寒の月
風澄みて子らの駆け足押しやりぬ
小嵐のあと追う枯葉の旅姿
通り巾いっぱいに打つ水涼し
福は内念じつあらたむ加護の札
南圃 芋ほりの妻と二人に大き空
孫去りて虫捕り網も軒に立つ
朝採りの初夏の香りに笑みのもれ
春駒の歩みもどかし都井岬
鳥たちて椿の花の一つ落ち
如水 どんど焼き夢の叶わぬ達磨燃ゆ
隧道の先にかげろひ立ちにけり
イヤホンのコードからまる熱帯夜
水割りもお湯割りとなり秋深む
枯木立名札目立ちし植物園
'04自選五句
行雲 埋み雪枝撥ね上げて春の声
蚊遣り火に扇いだ祖母の遠い日々
落ちる葉のひとつ耳立つ小屋ひとり
刈り入れを終えて北上広くなり
年の夜来し方めぐるひとり酒
花風 大日に祈る行者へすすきの穂
念仏の鉦に誘われ秋嵯峨野
三門の飛天に高く共命鳥
菊の香がほのかに流る法話かな
年忘れ明かり燈かりの梯子酒
汗水 春うらら庭で草摘む姑(はは)と妻
ワタスゲが行く気にさせる利尻の春
曇天を釈迦が憂うる沙羅双樹
暑く咲く桔梗に誓う変わらぬ愛
女子高生淡き思い出鰯雲
鵜雪 うたかたの少年の夢飛行雲
老船も化粧直して春を待つ
春立つも暮れて海風肌を刺す
人旧れど花に変わらぬ思いあり
雪を待つ廃校の里で労働す
南圃 錦絵を観るごとくなり山桜
ハンミョウの模様鮮やか道を問う
カブトムシ持ちし孫の手震えおり
咲き乱れ褒められもせず泡立ち草
鍋の具は旬の野菜のてんこ盛り
居倉 白鳥来倭(やまと)美(うるわし)湖青し
秋澄むや海群青の色濃くす
麦茶のむ一息に飲むただいまといふ
菜の花の海に童の浮き沈み
屋根揺する風に追われて冬籠り
伸平 寒風の吹き溜まりなり街酒場
春風はパン工房の香をのせて
巻き雲に戦に去りし父の顔
朝風に野分を混ぜて庭仕事
年の瀬はともづな固く泊り舟
梧葉 冬田鋤く影絵が伸びて日は落ちぬ
鐘の音のだるげにわたる春霞
山峡の瀬を流し行く花筏
里山や青葉に埋もれふくらみぬ
病窓にもみじ移ろい秋ぞ逝く
如水 新妻となりし姪より初賀状
水温む舟べり叩く波の音
参つたと詫びを入れたき大暑かな
腰かけし石の冷たき紅葉狩
冬晴れの早たそがれて鎌の月
'03自選五句
汗水 1・17星に流れる鎮魂歌
新梅を漬ける女房の癒し顔
降り懸かる護国戦士碑八重桜
我が半生見つめて浜木綿庭に咲く
車椅子優しさ集めて盆参り
行雲 遍路塚枯れて一輪寒椿
時刻表見果てぬ旅の遠霞
菜の花の中にきこえるへんろ鈴
爆音が絶えしあの日の蝉しぐれ
いしぶみに杖ひく老女冬木立
梧葉 霜消えて小松菜を引く冬日和
御手洗や手の掌凍みて余寒かな
花見客去りて残れし月おぼろ
秋空をまるく映して蓮の露
木枯らしや濡れ落葉をも剥がしけり
南圃 陽を浴びて土手の土筆の背くらべ
寒に耐え百花繚乱梅古木
啓蟄に土の香もよし鍬捌き
蜜蜂の羽音凛々ミカン花
新梅の紅鮮やかな土用干し
鵜雪 山桜山を背負いて咲き誇る
食卓に子らよりの花飾られし
出むとしてすくむ冷夏の稲穂かな
流鏑馬やサーファーの海駆け抜けし
年の瀬や第九の中に友の居り
居倉 羽音満つ馬酔木の花の房の中
短夜や白きベットの四人部屋
広がりつ伸びつ縮みつ群雀
垣間見る白萩佳しや住む人も
芋の葉や色あせ破る冬近し
伸平 担ぎ手もぶら下がり手も三社祭
葉が落ちて逆さ茶筅の街並木
渋柿をむいた母の手今はなく
不景気を忘れて花と一踊り
すずめ二羽踊り始める初日かな
如水 去年今年時計の針を合はせけり
鴬にテレビ消したる朝かな
己が過去あとに戻れぬ蝸牛
のけぞりて役目の終へし案山子かな
大根の突き出る首の寒さかな
'02自選三句
南圃 夕暮れを透かして紅きいろはかな
残し柿ひよどりの来て三つ二つ
豊年を祝うか畦の親子獅子
鵜雪 海老形に母の老い見る秋胡瓜
のぼたんの儚き紫紺雨に落つ
立ち止まり香り辿れば葛の花
居倉 春の花ラッシュアワーの如く咲き
鳥威し付ける農婦や良き笑顔
月薄く鴉鳴き合う寒の暮
行雲 達磨絵の眼光冴えて寺冷ゆる
寒空に円空仏あたたかし
風みぞれシグナル赤し山の駅
梧葉 黄金の穂波に潜みぬ彼岸花
水退きて藁の匂いの稲田かな
涸れた田に籾焼くけむりたなびきて
汗水 干し柿を睦んで吊るす妻と姑
寒空に声張りあげる募金の児
凍てつく夜そっと寄り添う妻が居る
如水 職退きて庭の侘助あるを知る
新走り木曾路に青き杉の玉
嵯峨野路や人に流され紅葉狩
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